私は大雪。
天野家の長女。
妹に雪崩、吹雪、小雪がいる。
おかしな名前だと親戚からも学校の友達、その父兄や先生からも言われてきた。
登山家だった両親がつけてくれた名前だ。
…だった、と言うのは数年前に他界したからだ。あ、いや、実は確定はしていないと言っていいのか…。遭難したまま見つからないのだ。
今も…。
帰ってくるはずの日、2人の好きな鮭ハラスを焼いて、シーフードカレーをコトコト煮込んでいた時だった。
近所に住む叔母が嵐のごとく駆け込んできて、金切り声でその知らせを我が家へ運んできた。
そのあとは思考がゆっくりになったのを覚えている。
叔母の声はもはや耳には入らず、なぜか頭の中では両親が山の頂上で日焼けした顔で笑っている映像が浮かんでいた。
私は両親の部屋を開けた。いつもと変わらない部屋だった。持ち主の戻ってこない物たちがひっそりとしているだけだった。壁には2人が登った山の景色の写真がびっしりと飾られている。
叔母は何かを必死に訴えているようだったが、何を言っているのか理解出来なかった。
妹たちが集まってきていつの間にか私達は肩を寄せ合って座り込んだ。
梅雨空からはシトシトと静かな雨が降り始め、妹たちのすすり泣きと共に夜を迎えた。
その日から「できることをやる。出来ないことはやらない。」という自分をまず許すことにした。
私は大雪。
今日もできることをやっていくわ。