大雪はその日、1人である甘味処へ出掛けた。
頭のなかを整理したかったからだ。
店内に入り、メニューを開く。
どこからともなく「おおゆき」「おおゆき」と自分の名前が聞こえてくる。
ああ、みんなが舞台の私を呼ぶ・・・・。
--そんな妄想に浸っていると、
「お決まりですか?」
と店員に聞かれ
「おおゆきでお願いします。」
と、とっさに答えた。
しばらくするとガラスの器に真ん丸に盛られたかき氷が運ばれてきた。
抹茶ソースをかけて、口に運ぶとひんやりほろ苦い味が体にしみた。
冷たい氷が熱くなった頭と体をゆっくりと冷やしていく。
昨日までのざわざわした感情が少しずつ形を持ち始めた。
氷を口に運びながら、一つずつ現実を並べてみた。
小雪のこと。
吹雪の留学。
・・・貯金は・・足りない。
せっかく見つけた高時給の仕事も続けられなかった。
---6人目の席。
あの時、空気が急に冷えて、胸の奥がぎゅっと縮んだあの場所。
思い出すだけで、まだ少し息が浅くなる。
台風の日の電話のあとの少し震えながら言った自分の声もこだまする。
「ダメよ、、、そんなの。」
あれは--手放したくないだけだ。
小雪のためじゃない。
だからと言って立ち止まるわけにはいかない。
何かやらなきゃ。
まだ答えは出せない。
でも、、、、
逃げるのも違う。
昼だけでは足りない、、、
なら、--夜?
あの子達の選択肢が増えるかも。
うん、増やしたい。
そう、それだけ考えよう。
大雪は帰り道、いつもとは反対の駅の出口から歩きだした。
すぐに怪しげなネオンの小道につながる。
大雪は一度深く息を吸った。
夏の夕方の空気が肺に入って、少しだけ背中を押した気がした。
歩いていくと個性的な看板がいくつも並んでいた。
電気がついているものも、壊れてつかなくなっているものもあった。
しばらく行くともうその先には看板がなくなり、ひっそりとした外れまでたどり着いた。
とりあえず今日は戻ろう。
その思った時、何処からかピアノの音色が聞こえてきた。
どこだろう…?
キョロキョロしていると、あるお店のドアがバターンと開いた。
「ママ~、もう!今はラウンジスタッフって言うんだよ!」と、紺色のドレスの女性が出てきた。
ドアが開いた時にピアノの音もはっきり聞こえてきた。
この店からだ。ピアノが置いてあるんだ。
フルーツポンチ----。
大雪は看板を眺めた。
そして店の壁に貼られたチラシを女性の後ろからそーっと覗き込んだ。
「ホールレディー急募」
どこか昭和の香りがする字体で妙な存在感があった。
そこまで読んだところで、ドレスの女性は大雪に気づき、くるっと振り向いた。
夕闇の中で大雪の顔をしばらくの間眺めた。
そして大きな瞳がキラキラしたかと思うと笑顔でこう言った。
「ベリーシスターズ復活だわ!」
貼ったばかりのチラシはあっという間にはがされ
目をぱちくりしている大雪の手をつかみ、フルーツポンチの店内へと引っ張って行った。