さらに、王子様をネタにしてフィクションを書くのは、実に1年以上ぶりだそうです(驚)
というわけで、オーソドックスな普通の私得でしかない設定で書きます。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
ある爽やかな秋の日のことだった。
大好きなカレと楽しくランチしていただけだったのに
些細なことからケンカになってしまって、私はすごく寂しくなってしまったのだ。
○○「実家に帰らせていただきますからねっ!」
クオン「はあ?アンタなに言って…」
○○「もう知らない!クオン様のバカ!わからずや!」
クオン「なっ…!」
○○「さよならっ!」
バンッ!
乱暴に扉を閉めることがプリンセスとしてあるまじき行為だとしても
罪のないケントさんを困らせてしまうことになったとしても。
それでも譲れない想いが私にはあったのだ。
◇◇「初めて聞いたんですけど」
○○「…何のことでしょう」
◇◇「○○の実家がアルタリア城だったってこと」
○○「いや、まあ…うん。ごめんなさい」
実家に帰る宣言をした私は、なぜだか勢い余って海を渡り、アルタリア王国まで来ていた。
一応隣国のプリンセスという身分であるため、憧れのアルタリアで観光したいのをぐっと堪え、真っ直ぐにアルタリア城までやってくると
執務中だったオリバー王子と、そのプリンセスで私とは姫友にあたる◇◇さん、執事のウェルナーさんが迎え入れてくれたのだった。
オリバー「まあまあいいじゃん、クオンの奥さんなら俺たちにとっては妹みたいなものだし」
○○「オリバー様…」
○○「いつもクオン様共々甘えてばかりで」
○○「ウェルナーさんも…」
私は離れたところで控えているアルタリア城の執事、ウェルナーさんに視線を向けた。
ウェルナー「ご心配には及びません」
ウェルナー「オリバー様の逃亡癖ではいつもお世話になっておりますから」
ウェルナーさんはそう言うと、オリバー様に不敵な笑みを向ける。
オリバー「……おー怖」
◇◇「自業自得ですよ、オリバー様」
オリバー「◇◇ちゃんまでそういうこと言うんだから」
オリバー様が唇を尖らせたところで、その場にいた全員がどっと笑う。
そして私はぐっと姿勢を正し、オリバー様やそのプリンセスの◇◇さん、そしてウェルナーさんを見渡して意を決してあるお願いをした。
○○「あの…2、3日でいいので、オリエンス側に内緒で泊まらせていただけませんか」
○○「私のことは、メイドか何かだと思っていただいて構いませんので」
頭を下げていても、オリバー様と◇◇さんの戸惑った様子は伝わってくる。
オリバー「○○ちゃん…」
◇◇「さすがにプリンセスがいなくなったら国は騒ぐんじゃ…」
○○「そうですよね…」
頭を上げて思わずうなずいた後、頼みの綱のウェルナーさんをじっと見つめる。
すると、察したようにウェルナーさんはうなずき、「わかりました」と呟いた。
ウェルナー「ただし、条件があります」
○○「はい…」
ウェルナー「◇◇様の仰るとおり、プリンセスの不在は一国どころか、その周辺国を巻き込む大事件になるでしょう」
ウェルナー「クオン様の逃亡事件のことを覚えていらっしゃいますね」
○○「ええ…」
庶民の生活をしてみたいとクオン様が城を抜け出したこと。
忘れるはずがない。それがあったからこそ私たちの仲は深まったようなものなのだ。
ウェルナー「要は、クオン様のお耳にさえ入らなければ良いのでしょう」
○○「そうです」
私の返事に満足げに微笑んだウェルナーさんは、「お任せください」という言葉を残して部屋を出て行ってしまった。
オリバー「…俺、たまにあいつのことがわからなくなるよ」
◇◇「オリバー様の1枚も2枚も上手を行きますからね」
オリバー「◇◇ちゃん…!」
こうして私は、数日の間、この賑やかなアルタリア城にお世話になることになったのだった。
2日後、アルタリア城には公務の関係でヘンリー王子とその執事のロイドさんがやって来た。
ウェルナーさんにお願いをして給仕を任せてもらった私は、お茶を持って2人が待つ客間へと向かう。
ヘンリー「やあ、○○さん」
ロイド「ご無沙汰しております」
○○「ヘンリー様、ロイドさん…ご無沙汰しております」
(本当に知ってるんだ…私が家出してること)
アルタリア城に飛び込んで来た日、ウェルナーさんに突き付けられた『条件』とは
オリエンスはもちろん、周辺国の王子、執事…つまり、クオン様以外の人間には居場所を知らせておくということ。
(じゃなきゃ今頃大騒ぎだものね…)
ふとクオン様がお城を抜け出してきたときの騒動を思う。
ウェルナーさんの判断は、私の意志を尊重しながらも混乱を最低限に抑える、執事として完璧なものだった。
ヘンリー「明日、ノーブル・ミッシェルで臨時会議があるよ」
ヘンリー「キミも来る?」
ふっと、ヘンリー様が微笑む。
○○「ヘンリー様ってば…そんなことしたら、クオン様に会っちゃうじゃないですか」
ヘンリー「会いたくないの?」
○○「それは…」
思わず口をつぐんでしまう。
勢いで暴言を吐いて城を飛び出してしまってはいるが、もちろん彼を嫌いになったわけではない。
(でもまだ会いたくない…)
まるで子どものようなわがままを言って城を飛び出してきた。
冷静になりたかったけれど、冷静になればなるほど自分の醜態を恥ずかしくも思う。
(どんな顔してクオン様に会えばいいのか…)
携帯の電源は、アルタリアに着いた頃から切ってある。
だからクオン様から連絡がきているのかきていないのかはわからない。
そんな私の気持ちを察してか、黙って控えていたロイドさんが優しく微笑んだ。
ロイド「○○様」
○○「…?」
ロイド「ご自分で納得された際は、是非オリエンスに戻って差し上げてください」
○○「はい…」
強制するわけでもないロイドさんの言い方に罪悪感が少しだけ軽くなる。
幼稚な見栄かもしれないけれど、まだまだ自分の中で消化をするには少しだけ時間が必要だった。
その次の日のことだった。
ノーブル・ミッシェルでの臨時会議を終えたオリバー様は、ジーク様と一緒にアルタリア城へ戻ってきた。
◇◇「ジーク様もいらっしゃったのですね」
ジーク「ああ、夫婦喧嘩をこじらせたオリエンスのプリンセスが逃げ込んでいると聞いたものでな」
そう言ったジーク様は私を見て意地悪く笑う。
ジーク「まったく人騒がせな夫婦だな」
○○「すみません…」
縮こまると、私の様子を見たジーク様は楽しそうに口角を上げる。
そして、その次の瞬間、とんでもないことを提案したのだ。
□□「…それで一緒に帰ってきたわけだ」
ジーク「まあ、一点に留まるよりはバレづらいだろうと思ってな」
ジーク「この情報化社会、どこでどうやってクオンに情報が漏れるともわからない」
ジーク様の提案とは、アルタリア城を出てドレスヴァン城に移動することだった。
ジーク「クオンを試したいのなら、俺が協力してやろう」
○○「は、はあ…」
今までに見たことのないような悪魔の笑みを浮かべたジーク様は、一旦着替えるために自室へ戻る。
(…面白がってるのかな)
そんなことを思っていると、ジーク様のプリンセスでまたまた私とは姫友にあたる□□さんが苦笑まじりで呟いた。
□□「まだ根に持ってるみたい」
○○「え…何を?」
□□「桜の開花を知らせてもらえなかったこと」
○○「嘘でしょ…」
(そんな前のことを…)
昨年の春、それはそれはお花見を楽しみにしていたジーク様が、クオン様に桜の開花時期を教えてもらえなかったと暴走した事件。(※参照 )
□□さんの話によると、いつか相応の仕返しを企てているようだった。
○○「…まあ、仲がよくて何よりだよね」
□□「そうだね、さすがジーク様っていうか」
○○「……」
(あまり人のこと言えないけど、□□は割とジーク様に対して盲目…いや、寛容だよね)
□□さんと雑談していると、着替えを終えたジーク様が何かを手に戻ってくる。
するとすかさずその『何か』を□□さんに投げつけた。
□□「わっ…」
ジーク「おい、□□、すぐにそれを着けてキッチンへ来い」
□□「…は?」
投げつけられたものを□□さんが広げると、それはエプロンだった。
よく見ると、ジーク様は色違いのエプロンを手にしている。
そして、当然かのごとく言い放つ。
ジーク「□□、今日は俺たちで○○にディナーを作るぞ」
○○「えっ!?」
突然発せられた自分の名前に戸惑っていると、□□さんは全てを察したかのように頷いた。
ジーク様の突飛な暴走を瞬時に理解するその姿は、さすがプリンセスといったところだ。
□□「なるほど、わかりました。すぐに向かいます」
ジーク「ああ、早くな」
すたすたと部屋を出ていくジーク様を見送って、□□さんは私に苦笑まじりの微笑みを向ける。
□□「楽しいみたい。基本的に世話焼きな人だから」
□□「じゃあ、適当にくつろいでるか、ハンスさんと談笑でもしてて」
そう言葉を残し、□□さんもジーク様を追って行ってしまう。
(なんなんだ、一体…)
(まあ歓迎してくれてるんだろうし、それはありがたいけれど)
その日私はジーク様と□□さんと3人で、2人が作った美味しいドレスヴァン料理を堪能したのであった。
次の日、ドレスヴァン城に来客があった。
マックス「へえ、本当にいるんだね~」
ケヴィン「どうだ、家出の気分は」
アスラン「家出というか、城出ですね」
私の家出…もとい城出を確認しにきた、シャルル王国のマクシミリアン王子、リバティ王国のケヴィン王子、そしてシャハラザール王国のアスラン王子だった。
ジーク「お前ら、わざわざ面白がって来るなよ」
(そう仰るジーク様も、昨日は散々面白がっていた気がするのですけど…)
心の中でそっと突っ込みを入れる。
ケヴィン「しかしもう城を出て1週間になるだろ、そんなんでいいのかよ」
ケヴィン「つーかクオンは何してんだ?俺があいつなら今頃大捜索…」
アスラン「さすがケヴィン王子はスケールが大きいですね」
マックス「ま、クオンにも思うところがあるんじゃないかな?」
マックス「まったく何もしてないってわけでもないだろうし」
ジーク「いや、案外あいつのことだから何もしてなかったりしてな」
□□「ジーク様!」
どっと笑う一同に対し、わがままを貫いて置いてもらっている身としては口答えはできない。
しかし、冗談で言っているのだとわかっていても、そう言われると不安になってしまうもので。
(どうしよう…クオン様、私のことなんか全然どうでもいいとか思ってたら)
そもそもケンカの原因も原因だ。幼稚なことこの上ない。
アルタリア城のオリバー様や◇◇さんも、今ここにいるジーク様や□□さんも何も聞かずに置いてくれてはいるが、
私が城を飛び出した理由を知ったらそれこそのしをつけてオリエンスに強制送還されてもおかしくない。
それほどまでに他者から見れば『くだらない』理由なのだ。
(でも、私だって…)
いつも公務で忙しそうなクオン様を城から連れ出す口実がほしかったから。
ただ自分の願望だけを満たしたいわけじゃなかったから。
だから、そんな私の真意を汲み取ろうとしてくれなかったクオン様に、この気持ちをわかってほしかっただけで。
(やり方は幼稚だったってわかってるけど…)
頭の中で、意地と不安が渦巻く。
パンクしそうになっていると、□□さんが私の肩にポンと手を置いた。
□□「お迎えがきたよ」
○○「お迎え…?」
○○「…ってもしかして」
(ダメだ、まだ会えない…)
脳裏をかすめる人物に無意味ながらも部屋の奥に隠れようとすると、様子を知っている素振りのジーク様が不敵に笑う。
ジーク「安心しろ、クオンじゃない」
マックス「ちなみにケントでもないよ」
マックス様がフォローをするようにウインクをすると、背後に控えていた執事のガストンさんが切なげにため息を吐く。
ガストン「はあ、○○ちゃんが羨ましいわ…」
皆さんの言動を怪訝に思いながらも、とりあえず荷物を持って『お迎え』のもとへ向かった。
するとそこにいたのは…
ミハイル「遅いです」
○○「な、なんで…」
思わぬ『お迎え』に、驚いて声も出ない私の様子はお構いなしに
サンクト=シアベル王国の執事であるミハイルさんは、さっさと私の荷物を車へ入れる。
ミハイル「イヴァン様の命によりお迎えにあがりました」
ミハイル「これからサンクト=シアベル王国へ向かいます」
そこで私はやっとガストンさんの思いつめたため息の理由がわかった。
(私がこれからイヴァン様のところに行くから羨ましがってたんだ…!)
こうして私はミハイルさんの運転と飛行機を乗り継いで、サンクト=シアベルへと向かったのであった。
イヴァン「来たか」
△△「○○さんいらっしゃい!」
夜になってシアベルについた私を迎えてくれたのは、イヴァン王子とそのプリンセスで、やっぱり私とは姫友にあたる△△さん。
私をここまで連れてきてくれたミハイルさんは、私の荷物を持って、さっさと客間に置きに行ってしまった。
○○「えーと、私はなぜシアベルに呼ばれたのでしょうか…」
クオン様とケンカをしてオリエンス城を飛び出した時に、アルタリア城へは確かに自分の意志で向かった。
ドレスヴァン城へ向かったのは、ジーク様に提案されてだけれど、確かに行くという決断は自分でした。
しかし今回は…
(間違いなく強制連行だった気がする…)
イヴァン様がどうして私を迎えに行くようにミハイルさんに命令したのか
車内で問いかけてもミハイルさんは『そんなことどうでもいいじゃないですか』と、頑なに答えてくれなかった。
△△「ふふ、会わせたい人がいるんだ」
△△「ここで少し待っていて」
通されたダイニングで、△△さんの言うとおり素直に待っていると、姿を見せたのはまたもやミハイルさん。
ミハイル「さて、では行きましょうか」
○○「え、また?」
ミハイル「時間が迫っています。急ぎますよ」
○○「え、ちょっと待っ…」
そうして私はまたもや何の説明も受けず、ミハイルさんの運転する車に半ば強制的に乗せられたのだった。
しばらく車で走り、たどり着いたのはあたりに何もない公園のような場所。
やはりシアベルに来るときと同じく、続く強制連行について尋ねても、ミハイルさんは理由も何も喋ってくれなかった。
ミハイル「着きました」
そう言って車からさっさと降りると、後部座席のドアを開けてくれる。
○○「あ、ありがとうございます…」
思わぬエスコートに少しだけ戸惑いながらも
差し出された手に自分の手を添えて車から降りると、ミハイルさんは含んだ様子で笑う。
ミハイル「○○様に改まれると変な感じがいたしますね」
○○「ちょっと、それどういう…!」
○○「………うそ…」
軽口を言うミハイルさんに文句を言おうと顔を上げると、そこに広がるのは満天の星空。
○○「きれい……」
ミハイル「オリエンスは秋が深まっている頃ですが…」
ミハイル「既に厳しい冬を迎えようとしているシアベルでは、この時期でも空気が澄んでいて星がよく見えます」
○○「そう……」
ミハイル「流星群も見られますよ」
○○「!」
ミハイルさんの発した『流星群』という単語に、思わず反応する。
するとそんなことは想定範囲内だったと言うように、ミハイルさんは言葉を重ねた。
ミハイル「オリオン座流星群が見たかったのではないですか」
○○「………はい」
(見たかったけど…)
でも、ただ見たかったわけではない。
(クオン様……)
最近のクオン様はとても公務が忙しくて、しばらくデートどころではなかった。
もともと根を詰めやすい人だから、私はデートができないことより、どうにか彼に息抜きをしてほしくて
何か連れ出す口実がほしくて、どうしても流星群を見に行きたいと告げた。
それが先日のケンカの発端となったのだ。
(ケントさんだって心配していたし、調整をすれば大丈夫だって言っていたもの…)
流星群はもちろん見たかったけど、デートもしたかったけど、それよりも何よりも彼が心配だった。
…それだけではダメだったのだろうか。
先日の出来事を思い出して、夜空に輝く星たちは無意識のうちに滲んで見えた。
ミハイル「なぜ、そこまでして流星群を?」
私の心の内を吐き出させるようにミハイルさんが問いかける。
広く何もない公園で、ぐるぐると渦巻いている感情を吐き出すように、私はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
○○「クオン様が……最近忙しそうだったから…」
ミハイル「寂しくて?」
○○「ううん……寂しくないと言えば嘘にはなるけど…」
○○「でも彼にゆっくりしてほしかったから」
いざ言葉にすると、その想いはせきを切ったように溢れでてくる。
○○「『デート』だと言えば、それなりに気を遣わなければいけないし」
○○「でもただ流星群を見るだけなら…周りにも気を遣わないで、ただぼーっとできるでしょう」
○○「そんな時間が最近のクオン様にはなかったから…」
ミハイル「そうですか」
ミハイル「何故それを言わなかったんですか」
○○「だって……」
(言えるわけないよ…)
思わず俯いて言葉を探してしまう。すると…
???「もういい」
○○「え…?」
不意に聞こえた声に、顔を上げて辺りを見渡す。
するとそれを合図としたかのように、ミハイルさんはにっこりと微笑んだ。
ミハイル「どうやら私の役目はこれで終わりのようですね」
○○「どういうこと…?」
状況が読めずにいると、背後からミハイルさんに呼び掛ける声がした。
イヴァン「ご苦労だったな、ミハイル」
△△「お疲れさまでした」
それはイヴァン様と△△さんだった。
ミハイル「ええ、非常に疲れました」
ミハイル「勤務時間も過ぎていますし、特別手当をつけておいてくださいね」
イヴァン「お前は相変わらずだな…」
短く息を吐いたイヴァン様が、背後の人物を見やるように身体を傾ける。
するとその後ろには、しばらく会っていない最愛の人と、ケントさんが立っていた。
○○「クオン様…どうして…」
あまりの驚きに思わず駆け寄ると、△△さんやイヴァン様がこの状況について種明かしをしてくれた。
△△「○○さんがオリエンス城を飛び出した日、ケントさんから各国の執事に連絡があったの」
△△「『もしかしたらそちらへ向かうかもしれません』って」
○○「そうだったの…」
ケント「クオン様のご命令でもあったので」
○○「クオン様が…?」
すかさずクオン様に視線を移すと、彼は気まずそうに視線を外していた。
するとそこで、ひとつの疑惑が浮かんでくる。
○○「それじゃあ…オリバー様もジーク様も…」
イヴァン「ああ、知っていた。ヘンリーたちも、俺たちもな」
ケント「その後ウェルナーさんから連絡があり、アルタリア城へ駆けこまれたことを知ったのです」
クオン「俺はアルタリアにいたことまでは知らなかったけどな」
ケント「そこはクオン様には申し訳ありませんが、○○様のご意志を尊重させていただきました」
ケント「ウェルナーさんもその方が良いだろうと仰ってましたので」
○○「そうだったんですか…」
○○「私は…あんな形で飛び出したのに、結局は各国の皆さんに守られていたんですね」
事実を知って自分がとても無力で情けなく思えてしまう。
イヴァン「お前は何を消沈している?当たり前のことだろう」
○○「え…?」
イヴァン「俺は、きっとこれが△△でもクオンと同じことをしただろう」
イヴァン「自らのプリンセスを守らないで一体どうやって王子を名乗る」
イヴァン「それはオリバーもジークも同じだと思ったからこそだ」
△△「イヴァン様…」
ミハイル「イヴァン様の場合は、もっと大騒ぎされると思いますけどね」
イヴァン「ミハイル…お前はもう少し空気を読む術を身につけろ」
ミハイル「努力いたします」
○○「でも、どうしてシアベルまで?」
ケント「それは…」
一同の視線がクオン様に集中する。
イヴァン「クオン、少しはお前の口から説明したらどうだ」
クオン「……」
ケント「クオン様…」
クオン「…分かったよ」
大きいため息をひとつ吐いてから、クオン様は気まずいのか視線を合わせないまま言葉を紡いだ。
クオン「シアベルには…もともと来るつもりでいたんだ」
○○「どうして…?」
クオン「アンタ…元から月とか星とかそこそこ好きだったけど」
クオン「最近特にそういうマンガ読んでから余計に気にしてただろ」
それは私が約1年前から気に入って読んでいる、星の王子様たちが活躍するマンガを指していた。
クオン「たまたまこの時期にオリオン座流星群が見られることを知って」
クオン「アンタがきっと見たがると思ったから…」
クオン「どうせならオリエンスより空気が澄んでいて星が綺麗に見えるところと思って…」
(あ…!)
そこまで聞いて私はハッとする。
この公園に着いた時、ミハイルさんが確かに言っていた。
ミハイル『既に厳しい冬を迎えようとしているシアベルでは、この時期でも空気が澄んでいて星がよく見えます』
(なんてヒントだったんだろう…)
さり気なくミハイルさんを見ると、私の視線に気づいた彼はにっこりと微笑む。
(ミハイルのこういう食えないところだよね、イヴァン様が手を焼いてるの…)
心の中でのミハイルさんへの苦情をそこそこに視線をクオン様に戻すと、クオン様も説明を続ける。
クオン「それなのに急に『流星群を観に行きましょう』なんて言うから」
クオン「こっちはシアベルに来るために色々公務も前倒しで片付けてたって言うのに…」
○○「言ってくれればよかったのに」
クオン「驚かせたかったんだよ」
クオン「アンタこそ言えばよかっただろ」
○○「だって…そんな言い訳みたいなこと言えないじゃないですか」
そこでやっとクオン様と私の視線が交わる。
その真っ直ぐな視線は、少しだけ照れた色を浮かべていて、私の心に真っ直ぐに突き刺さった。
クオン「ったく、こっちの気も知らないで…って実は少しイライラもしたけど」
クオン「でもさっき、アンタの本音を聞いて、すれ違うくらいなら言えばよかったと思った」
○○「さっき…?」
クオン「ミハイルに吐かされてたやつだよ」
○○「え!あれ聞かれてたんですか!?」
すかさずミハイルさんを見ると、彼は悪びれもなく淡々と事情を説明する。
ミハイル「はい。ウェルナーさんに小型のマイクをお借りしましたので」
ミハイル「それを通してクオン様にはここへ来てからの○○様のお話を聞いていただいております」
ケント「申し訳ありません○○様」
ケント「流星群にこだわる理由を、きっと隠されているだろうと思いまして」
ケント「誰もいないところではお話になられるのではと◇◇様や□□様にもご助言いただきまして」
ケント「今回ミハイルさんに真意を聞く協力をしていただきました」
△△「ごめんね○○さん、ミハイルさん相手なら言うかもって言ったのは私なの」
△△「ほら、○○さんってミハイルさんには他の執事さんとは違う接し方してるし」
△△「心を許してるのかなーって」
ミハイル「私にとってはあまり喜ばしいお話ではなかったですけどね」
○○「そんな…」
全て計画通りだったことに、まるで顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった私は、その場にへたりこむ。
するとクオン様はしゃがみこんで、私に目線を合わせて言った。
クオン「ごめん、○○の気持ちに気づけなくて」
○○「そんな、私がいけないんです…城まで飛び出して」
○○「本当ならこんなワガママ、許されるはずないんですから」
クオン「あー…まあ、それはそうなんだけど」
クオン「でも俺も学んだっつーか…」
クオン「何ていうかその…お互いを想ってすれ違ってただけなんだな、俺たち」
○○「ふふ、そうみたいですね」
普段はこんなに自分の気持ちを話すタイプではないクオン様が一生懸命話してくれたことに
いつしか恥ずかしさは消え、私の心はとても温かくなっていた。
するとその時だった。
ケント「クオン様、○○様…!」
クオン・○○「?」
ケントさんの少し慌てたような声に顔を上げると、先ほどまで星が輝いていた夜空には
次々と流れる星たちと、それを囲うようになびく光のカーテンが出ていた。
クオン「すご…」
○○「これって…」
イヴァン「ほう…オーロラまで見られるとはな」
△△「きれい…」
ミハイル「シアベルでもなかなかオーロラまでは見られないのですよ」
○○「そうだったんだ…」
私たちはその場でしばらく、息をするのも忘れて珍しい天体ショーに見入っていたのだった。
しばらくオーロラと流星群を眺めていた私たちは、揃ってシアベル城に戻って来た。
オリエンスに帰ると言ったクオン様に、△△さんがどうしてもと推したため、私たちはこの日シアベル城に泊まることになったのだ。
(仲直りしたのはいいけど…)
しばらくクオン様には会うことも連絡を取ることもしていなかったので、急に2人きりになって妙に緊張してしまう。
クオン様も同じなのか、私たちはしばらくベッドに背中合わせに腰掛けていた。
クオン「…あのさ」
○○「は、はい!」
背中からの呼びかけに過剰に反応してしまう。
振り向けないでいると、ふわっと後ろから温もりを感じた。クオン様が背中から抱きしめているのだ。
○○「どうしたんですか…?」
背後から伸びる手を握り、顔だけ後ろに向けて問いかける。
すると肩に顔をうずめたクオン様が、今にも消え入りそうな声で呟いた。
クオン「……った」
○○「え…?」
クオン「寂しかった…」
○○「クオン様…」
ぎりぎり聞きとれた彼の切実な想いに、胸が締め付けられる。
○○「…私も寂しかったです」
私の言葉に、抱きしめる腕の力が少しだけ強くなった。
クオン「もう勝手に出て行くなよな」
クオン「アンタがいない城が、あんなに広いなんて思わなかった」
○○「もともと広いお城ですよ」
クオン「そういう意地の悪いこと言うなよ」
私の軽口にクオン様はやっと顔を上げて、少し拗ねたような顔をする。
不意に交わる視線に、どきっと心臓が大きく高鳴った。
○○「私こそごめんなさい」
○○「もう勝手に出て行きません」
クオン「ん」
クオン「それならいい」
○○「あと…流星群、私のために計画してくれてありがとうございました」
クオン「オーロラまでは想定外だったな」
○○「ふふ、ラッキーでしたね」
クオン「ああ」
○○「星の王子様たちが私たちの想いを叶えてくれたんですかね?こう、パチン☆って!」
クオン「………」
○○「…クオン様?」
雰囲気を明るくしようと言った私の冗談にクオン様は口をつぐんでしまう。
そうしたかと思うと、次の瞬間、クオン様は大きなため息をついた。
クオン「…アンタさあ、そういうのやめない?」
○○「え?」
クオン様の発言の意味が分からずにいると、急に視界が回り、私の背中は柔らかいベッドに埋もれる。
そんな私の肩の横に手をついて、上からクオン様が見下ろしていた。
クオン「正直、小雨で精一杯なんだけど」
○○「?」
○○「どういうことですか?」
発言の意図を尋ねるように聞き返すと、クオン様は顔を真っ赤にして言った。
クオン「俺、これからは12星座の神にまでヤキモチやかなきゃなんないわけ?」 デレ
○○「そ、それって…」
クオン様の言葉の意味がやっと理解でき、私は恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
○○「だって、小雨はアイドルグループだし!神様たちはマンガだし!!」
クオン「アンタのは度を超えてんだよ」
○○「そんなこと……ん…っ」
反論しようとすると、私の言葉はクオン様のキスによって飲み込まれてしまう。
ゆっくりと唇を離して見つめ合うと、クオン様が静かに、でもはっきりと言った。
クオン「何でもいいからさ、俺だけ見ててよ」
○○「クオン様…」
クオン「愛してる、○○…」
こうしてその夜、私はクオン様のことしか考えられないくらい
彼からの愛情を全身で受け止めたのだった。
END
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
お疲れ様でした!!
無駄に長く、無駄に意味のわからない久しぶりの王子2フィクション。
もう1年以上ぶりだと、キャラ忘れてる忘れてる…。
これを機にせめてクオンくん(と、ミハイル)だけでもプレイし直そうかなってつくづく思いました。
まあ義務的なやつじゃなくて、単純にクオンくんに会いたくなったのもある。
流星群と言えば、公安のきのこ番外編だよな~とか
オリオン座と言えば、悪人顔で毒の調合をしてたスコル兄さんだよな~とか
色んなことを考えながらお話をつくっていました。最後ほんと私ネタでしかないよね、すまんの。
でもこのオリエンスのプリンセスは、小雨のファンも12星座好きもやめてないと思います←おい
さて!あと10日ほどでオリオン座流星群が極大を迎えます!
日本でも見られそうなので、興味のある方は是非見てみてくださいね!
実はちゃおさん、関東で流星群が見られそうな時は毎回観測チャレンジしてます(ノ∀`)
これはもう何年も前にさかのぼりますね。ほんと10年以上前くらいかもしれない。
一方オーロラはいくら寒いシアベルと言えど、さすがに首都圏は北極圏ではないだろうし
10月下旬じゃ見られないとは思うのですが、ごくごくごく稀に見られる可能性も無きにしも非ず
という感じかもしれないということを聞いたので(ものすごく低確率ですねw)今回は登場させましたww
というわけで、ここまで読んでくださってありがとうございました☆