ミュージシャンてえのは今も昔もすなわちこれ旅芸人。汽車や車のみならず、新幹線やら飛行機やらの長距離高速移動も人さまより頻繁に経験する我々。
近年はチケッティングシステムの進化もITのそれに正比例。新幹線車中の検札も、もはやないのよね。そりゃもう、いらんよね。オンラインでリアルタイムな座席表が、端末で容易に確認できるわけですから。
そんな折。
飛行機ですよ。
お部屋でカチカチやりゃ事前の座席指定もラクラクですよ。
早めに段取りして、安心してひとりで乗りこんだある日の飛行機移動。
わりと空いておりましてね。6~7割の入り。機内中央付近通路側にすとんと腰を落ち着けましてね。そしたらですね、若めの4人家族がですね、2組ですよ。私を取り囲むように、ここだここだとやって参りましてね。あたし通路側ですからね、いったん立ったりなんかしてね。子供を窓際に座らせるとか、いやいやおしっこ行きたくなるからダメよとか、お父さん荷物を棚に上げてとか、てんやわんやをぼーっと眺めたりなんかしてね。や、かく言うあたしも家族持ち。お気持ちよーく分かります。大変だなーなんて。やっと彼らのポシショニングが定まり、あたしも再び腰を落ち着けまして。そしたらね、あたしのお隣はお母さん。坊やをお膝に乗せておりまして。わりとしっかりされた、そうですね、少なく見積もって3歳ぐらいの、ぱっと見4歳の元気な坊やが、あたしのお隣でお母さんにだっこされて。
「確か、2歳以上は座席を買わなくてはいけなかったような…」
なんて思いながらもね。かく思うあたしも家族持ち。分かりますよ。お母さんが2歳といったら2歳なんですよね!タダと一人分の大人料金、差はでかいですからね、お母さん!
とはいえ。
左右と前方をほぼファミリーに囲まれたこの状況。しかも隣はお膝にだっこ。俺も気まずいが、皆さんも気まずいだろう。だって俺、センターよ。将棋でいう、王将よ。なにゆえあたしが初対面のご家族(しかも複数)の王様に。
しかしながらここは将棋盤ではなく飛行機。見ればわりと後方に空席が。
ときにお父さん。カチカチやったであろうどちらかのお父さん。
事前でもチェックイン時でも、席は指定できたでしょうに。こんなに空いているのに、あえて俺を囲む、なおかつ俺の隣で坊やをだっこさせる意図はいずこに。それともあれかな、座席指定お任せにしちゃったらたまたまこうなったパターンかな。
いやいや言いますまい。過去を検証したところで、いったい何が解決できましょう。未来志向でいきましょう。ここはひとつ信頼できる第三者、すなわち客室乗務員さんにひとこと相談を。一応控えめに、
「すいません、こういう状況なんで、後ろの空いている席に移動してもいいですか?」
対して信頼すべき客室乗務員さん曰く、
「申し訳ありません、上空に着いてからのご移動でよろしいでしょうか。」
えーと。
離陸にはまだ間がある。後ろはいっぱい空いている。これ以上乗客は増えそうもない。いやいやそもそも、どの席が空いているかは最新IT技術によりとっくに明らかなはず。移動してはいけない理由はどこに?地に足着いている今がダメで、地に足着かない上空ならオッケーな理由はどこに?サービスって、なに?
聞きたいこと溢れること泉のごとし。だけど、規定に従って働いているにすぎない客室乗務員さんに、こちらの腑に落ちる明解な答えを求めるのもいささか酷かと。たとえ答えてくれたとしても、ごまかされたとしてもねじ伏せられたとしても、今この胸に溢れる疑問を口に出すということは、とりもなおさずトラブルを発生させる事であるわけで。せっかくの旅行中の家族連れのみなさんも、気分が悪いでしょうよ。そりゃそうよ。ならば秀俊、こう言うのみ。
「あ、はい。」
離陸準備が整い、流れる「それではみなさま、快適な空の旅をお楽しみください」という機内アナウンス。心でひとり、コケました。楽しめるか!気まずいわ!
IT、活かせきれていないスペース、活かしてほしいスペース、まだまだあるようです。
そんなこんなで、旅は続くのでした。