sekensirazu 第21回すばる文学賞受賞作。
表題の如く、世間知らずな画家志望の女の堕落した生き様を描く。


主人公・エリコは画家志望の無職の女。
デザイン事務所で勤めていたものの、自分がやりたい仕事ではない業務をこなすことに疑問を抱き、絵を描いて生きていこうと決める。
しかし人生はそんなに甘くなく、気付けばガスも電気も止められ手元には70円しか残っていなかった。
お金には困らない友人・ゲイの夏樹のところへ転がり込み、暫く面倒を見てもらうことにする。
絵を描くことを条件に、夏樹はエリコを受け入れる。
自立しなきゃ、成功しなきゃ、絵を描かなきゃと焦るエリコだが、思うようにいかない毎日に苛立ち酒に溺れはじめる。
以前からアルコールに依存していたところはあったし、酒や薬で何かを生み出す人間をバカにしていたエリコだったが、今はもうアルコール無しでは暮らせなくなっていた。
人が働く時間に酒を飲み眠る日々。
酒浸りでロクな絵など描ける訳もなく、焦りながらも毎日は流れていく。
24時間酔っている毎日が続いた或る日、スーパーで高校の同級生・冬美に出会う。
そこで、以前交際していた男との不倫の恋を思い出さされてしまう。
今の生活に終止符を打てるかもと冬美の誘いのもと、ボランティア活動に参加するものの、結局そのグループのリーダー・麻子の夫・基と関係を持ってしまう。
冬実はエリコの不倫をエリコの実父に密告し、エリコは忠告を受ける。
以前の不倫の際に、相手の妻に乗り込まれていたのに、未だに同じ事を繰り返すエリコをけなす義妹たち。
エリコは更にダメ人間の烙印を押され、追い込まれていく。
エリコの父はエリコの実母の死後直ぐに再婚し、反りの合わない双子をもうけ楽しい家族を築いていた。
馴染めないエリコは疎外感から崩れていってもいた。
父の死、酒への依存、入院、前へ進まない画家への夢。
エリコはプライドを捨てられず、また夢も捨てられず、ただ季節の流れに見を任せるだけになっていく。


後味のいい作品ではないし、共感する部分も少ない作品だが、心に残る作品である。
酒に溺れるしかない、酒に逃げるしかないと思う人間は多々いて、アルコール依存に悩む人やその家族を知っている。
ここから脱却するのは簡単なことではない。
その姿がリアルに描かれており、読み応えがある。
画家になる夢を捨てられない主人公の気持ちはわかるし、それがなかなか叶わず挫折しまくって自分を見失っていく主人公の姿もわかるし、そこは共感出来るが、酒に逃げる姿と、その酒代さえ他人に払わせている姿は苛立ちさえ覚える。
しかし、人が落ちていく時というのはこんな感じなのだろう。
今までには読んだこと無いタイプの物語で、著者の他の作品も気になるところ。
全編暗い闇の中を彷徨う主人公の姿を描いているので、覚悟してご一読頂きたい。


<集英社 1997年>


岩崎 保子
世間知らず