watakaeru ファンタスティックな作品も手がける著者の不思議な物語7つ。


『蟹』の主人公は僕と真智だ。
僕と真智は夫婦で、夏休みを利用して知人から紹介された寂れたリゾートマンションを訪れる。
周囲には海以外何も無い。
波が砕ける音と二人しか存在しないと錯覚する程の静けさだった。
昼は太陽、夜は闇に包まれていた。
一組の老夫婦とすれ違う以外、このリゾートマンションには誰も居ないようだった。
二人で穏やかな時間を楽しんでいたのも束の間、真智の様子に変化が生じる。
来た時から気になっていた、階下からうねるように部屋の中に響く波の音。
それに過剰なまでに反応するようになったのだ。
日常のあたふたした生活から解き放たれて、リラックスしていた僕は真智の変化に気付きつつも放っていた。
真智は「下からだけじゃなく上からも波の音がする」と混乱しはじめた。
やがて僕も真智の言うとおり、その音に惑わされるようになる。
そして、真智はいなくなってしまう。


読み進めれば読み進めるほど、不思議な作品集だという感想ばかりが浮かんでくる。
不思議なんだけれど霊などとは違う。
なんとも言えない後味の悪さを持った不思議な物語なのだ。
メンタルの面で問題を抱えた人とその周りの人が主な登場人物になっている。
結末で何も片付いていない、この先はどうなったんだろうと気になるものの、きっと浮かばれないんだろうなという感じでその先を知るのは怖い気もする。
私が得意としない分野の物語ばかりなので、正直読み進める間に退屈だったり困惑してばかりだった。
なんとも表現し難い不思議な感じを求める人にはおすすめの1冊。


<新潮社 2004年>


稲葉 真弓

私がそこに還るまで