様々な形で存在する既婚女性を描く短編集。

『迷い犬』は専業主婦の久美と自動車ディーラーの慎吾の物語。
夫が突然出て行き、売り言葉に買い言葉で言い争いをした結果、夫が依頼した弁護士から離婚条件について提示され愕然とする。
結婚後、専業主婦として生きてきた久美。
二人の子供を育て、家事をこなしてきた毎日の中で、少しずつ夫とすれ違ってきた。
それはわかっていたものの、まさかあっさりと離婚を言い渡されるとは思っていなかった。
冷静沈着な弁護士。冷たい不動産屋。
久美は自分がいかに夫の稼ぎに依存して生きてきたのかを思い知る。
自分は夫の収入無しではただの無職の女に過ぎないのだった。
自由になりたいと思って家を飛び出しウィークリーマンションで過ごす慎吾。
妻のヒステリーと冷たさに飽き飽きし、一人になりたいと思った。
電話できゃんきゃん言われて勢いで弁護士に相談したものの、心にはまだひっかかりがある。
そんな時、先日軽自動車を買った老人から電話があり家に訪れるとうるさい嫁に牛耳られている寂しい男の図を目の当たりにして暗くなってしまう。
自分は離婚したいのだろうか?
夫と妻は個々に思い悩む。

昔の恋人に連絡をしてしまう妻、子供の同級生に苛立ちを覚え叱りつけたもののその子供には深い事情があった母親、転職を続ける夫に我慢できない妻など、身近にありそうなテーマを短編に仕立ててある。

結婚してから、いろいろな事が起きいろいろな悩みが生まれるだろう。
想像もしていない結婚生活に疲れたり、へこんだり、悩んだり。
主人公たちがぶつかる壁は、実に生々しいものばかりで他人事とは思えず。
読んだら暗くなると否定する方もいるかもしれないが、私は「そうだよな」と納得しこの生々しさを楽しめた。

<ポプラ社 2002年>

著者: 石川 結貴
タイトル: 結婚してから