大島真寿美は結構好きな作家だ。
気付いたらかなり手元に著書が揃っていた。
そして、理論社の作品も案外私の本棚にあることが判明した。
理論社はメジャーではないと思うが手に取る頻度が高い。私と相性の良い出版社と言えるのかもしれない。

過去の著者の作品とは一味違うのがこの『香港の甘い豆腐』だ。

シングルマザーから生まれた女子高生・彩美(17歳)は日本でくすぶりまくっていた。
思春期の頃の「なんだかうまくいかない」「おもしろくない」が全て自分に父親が居ないせいではないかと思って過ごしていた。
母親はそれを知り、夏休みに父親の暮らす香港でへ連れていく。父親は居るのだ、今ここに居ないだけで香港にいるんだと娘を連れていく。
母の帰国後も香港に残り夏休みを過ごす彩観。
そこで生活していくうちに自分の存在理由を見つけていくという青春物語だ。
ありふれたひと夏の物語風なのだが、やっぱりそこはありふれていてもダラダラしていないし読みきるだけのパワーを持っている。

選択肢の乏しい10代、煮詰まりがちな10代を思い出させてくれる。
思春期の娘の心理がうまく描かれ、好感が持てる。
突拍子も無い設定ながら、誰しもが味わった思春期の想いが詰まっていて共感できてしまう1冊。

<理論社 2004年>

著者: 大島 真寿美
タイトル: 香港の甘い豆腐