乃南アサといえばサスペンス作家と思われがちだが、時々違う形態のものも発表している。サスペンスの要素を若干含んだ、違う作品。
そんな小説を集めた1冊だ。

普通の日常が営まれる中で起きる小さな歪。本当に小さなものなのに、その出来事1つで心が乱れ、病や事件が起きてしまう。
普通が戻ってこなくなる。
様々な男女の日常が怖くて意外な結末まで流れる物語が詰まった全10編。

表題作「花盗人」は祐司と公子の夫婦の物語だ。
1DKのマンションで、世話の焼ける夫・祐司の世話をする公子。
7歳年下の祐司は、出会った当時は若く輝いて見えた。その祐司が年上の公子に熱を上げ大学卒業と同時にプロポーズをしたのは遠い昔の話だった・・・
たまには凝ったものを食べたいと言う祐司。デパートで勤める公子は疲れから食品売場で出来合いの惣菜を買って来てしまう。
広い家に住みたいと言う祐司。共働きでそれなりの収入があっても祐司の散財や転職で大した額は溜まっていないのでため息しか出ない公子。
そんな日々に疲れていた公子は、職場のみんなで飲んで騒いでパチンコをやってウサ晴らしをした。そうやって家を空けた公子に詰め寄る祐司。
公子の心に少しずつ闇が広がる。
毎日パチンコをしなければ家に帰れなくなった公子。でも、毎日しなければ収まらないのはパチンコだけじゃなくなっていた・・・

乃南アサの幅広い作風が一気に楽しめると文庫にもあったが、全くそのとおり。
サスペンスだけではない、恋愛だけではない、人間というものを扱った深い作品も書ける乃南アサを知ることが出来る短編集。

<新潮文庫 1998年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: 花盗人