題名の如く、孤独な夜にホッと心を暖めてくれる12話で構成された短編集。

1978年出版ということで、登場人物たちの仕事っぷりや時代背景は現代とズレがあるものの、恋愛をする女の心は2004年も1978年も変わらないことを教えてくれる。

『りちぎな恋人』の主人公カオリは、律儀だと自覚のある律儀な女。
元同僚に恋をし、彼の退職を機に恋愛関係に発展するが、なかなかそこから前に進まずひとりよがりの思いを抱きむずむずしている。
そんな心温まる、現代女性に少し欠けた控えめな男性への想いの寄せ方を思い出させてくれる。
『雨の降っていた残業の夜』の主人公じゅん子は、一人残業していた夜、同僚の女子社員が想いを寄せる千葉と二人きりになり、気にもしていなかった千葉の粋で歯切れのいい物言いに魅力を感じていく。
最後にじゅん子が感じる不安な予感。それは、誰しもが恋のスタート地点に立ったときに想うことだ。そして覚悟を決める瞬間に頭に過ぎる思いだ。
それでも人は恋をする。

田辺聖子独特のやわらかい関西弁と、ゆったりした時の流れがたっぷりつまっているので、秋の夜やこんな台風の夜の読書にはぴったり。
穏やかな気持ちにしてくれる恋愛が詰まった1冊。

<新潮文庫 1978年>

著者: 田辺 聖子
タイトル: 孤独な夜のココア