基本的に、辻仁成には興味が無かった。今まで読んだ本も、これ1冊だ。
どうして買うに至ったか。
それは店頭でこの真っ赤な表紙が目に付いたこと、カタカナで『サヨナライツカ』とかかれたその装丁に魅力を感じてしまったこと。
『サヨナライツカ』という言葉に、とても惹かれてしまっただけだった。

主人公は東垣内豊という三十歳を目前にし、結婚を控えたバンコクへ長期出張中の会社員。
豊は1975年の8月の終わりに、謎めいた美女~沓子~と出逢う。
たった4ヶ月の情愛。
バンコク駐在の日本人コミュニティ、濃密で狂おしい愛の日々、チャオプラヤー川、名門ホテル・・・25年後の再会。

豊は人生で初めての愛を味わう。
いつか終わる、終わらせなければと思っても愛してしまう。
そんな重く深い愛。
私はそんなに狂おしい程誰かを愛したことがあるだろうか?
そう簡単には出来ない恋愛形態であるが、堅苦しさを時々感じる著者の文章がそれらをきれいに包み、違和感無く読み進めさせてくれる。
不思議な感覚だった。

物語の最初の見開きに書いてあること。
それは、とても素晴らしい。
私の心にとても染み入った。

自分では決して貫けないであろう恋愛の形、自分では経験できないであろう恋愛の形だとわかっていても、憧れてしまうほど熱い愛情の物語。
せつなく、涙するような物語を求めている方にお薦め。

<幻冬舎文庫 2002年>

著者: 辻 仁成
タイトル: サヨナライツカ