ある雑誌で小泉今日子が「最近読んだ本」として紹介していた記事を見て、題名と装丁のインパクトに惹かれて購入した1冊。

セックスと食べるという行為が性的なことにシンクロする瞬間があると思う。
食べるという行為は、セクシーだったり卑猥だったりすることがあると常々感じていたので、食べることを題材としたこの小説集にすぐにはまっていった。
帯に「おいしい食事といとしいセックス」と堂々と印字されている。惹かれずにはいられない。

20頁弱の短編集。
1つ1つの物語を、消化不良を起こすことなく読みきることが出来る。
脚本等も手がける著者に備わった“プロット力”を感じずにはいられない。

主に女性が主役のこの短編集だが、途中3話のみ男性が主役になっている物語がある。
母が死んだ後、なぜか料理上手になってしまった男。
よくできた妻と可愛い子供と一戸建てのマイホームとクリエイティブな仕事を持つ幸せな男。
妻と娘が妻の実家に帰る日を心待ちにする会社員。
この3人の男が“食べる”ということを軸に実に色々な想いを抱き物語りは進む。
男も、“食べる”ということが主軸になる瞬間があるのだ。
どうもストレスから食べるという行為や、食べてスッキリするという気持ち、食べることで自己満足を得るというのは女の特権かと思っていた。大きな誤解なのかもしれないと考えるきっかけになった3作だった。

決して重くなく、すんなり読みきれる豪快で軽妙で気付いたら最後の1頁をめくっていた、というような不思議な本である。
ずっと“食べる”ことを題材にしてあるので、読み終えたら少しおなかいっぱいな気がするのがおかしな点である。これは新しい感覚だった。

長々と書いてしまったが、簡単に紹介してしまえば、大人な女性向の恋愛小説だ。
仕事、恋愛、結婚、友人・・・女性が特に大切にしている事柄を食を核としてうまく組み立てた短編集で、眠る前に1話ずつ消化すると心地よい眠りが訪れるのでは?

難を挙げるとすれば、帯である。
芸能人の「私はこの小説を読んでこんなことを感じました!」といったものが好きでは無いので、ちょっと嫌悪感を抱いた。そのコメントを寄せている女優が、私の好みでなかったせいも多々あるんだが。
芸能人が読んだから面白いのか?批評家や作家が面白いと言ったからその作品が素晴らしいのか?という疑問が常々あり、帯には的確なキャッチとかあらすじ、本の中の一部のくだりを載せるだけのシンプルかつ充実した内容を求めてしまう。

<アクセス・パブリッシング 2004年発行>

著者: 筒井 ともみ
タイトル: 食べる女