櫻葉❤
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Side S
ドクドクっと身体が脈打って、俺は慌てて視線をそらした。
いったい何だろうと思って言葉が出てこない。
「あの」
「っ、、なに?」
風がなくて動かない、暑苦しい真夏の空気の中で、
どうにか発したその一言は自分でもびっくりするほど冷たく聞こえた。
なんだかめちゃくちゃ緊張していて、ソレ自体がなんだかすごく恥ずかしくて、
その恥ずかしさを隠したくて視線はどこか怪訝に、睨むようになってしまう。
暑さだけのせいじゃない、妙な汗が背中を流れた。
「これ」
そうして、ソイツがカバンから取り出したのは、、、
「え?」
「これ、君のかなって思って」
それは黒と赤と青のペンがひとつになってる、
ごくありふれた3色ボールペンだった。
確かに俺が使ってるのと色もメーカーも同じで、
少し慌てて自分の筆箱を取り出そうと鞄を開ける。
ここまで来てようやく周りを見渡すと、
コンビニの出入り口から離れた日陰のある場所に異動した。
「、、、たぶん俺のだと思う」
筆箱の中にあるはずのペンがないことを確認してそう言うと、
ソイツはホッと息を吐いて、、、笑った。
「良かった。気づいてすぐ追いかけたんだけど見失っちゃったんだ」
「わりぃ。ちょっと、、、急いでて」
はいっと言いながら差し出されたペンをソイツから受け取ると、
その瞬間ほんの少しだけ自分の指先がソイツの手のひらに触れる。
その手のひらはしっとり濡れていた。
「ありがと」
「渡せてよかった」
ようやく少しだけ落ち着く。
そして、落ち着いてしまってオロオロする。
だって、このままじゃあなって別れるのはなんだか、、、
できるなら、、、したくないような気がするのだ。
「このあとも授業あんの?」
当たり障りのないことを慌てて言ってみると、ソイツはうんと頷いた。
すると、暑いから戻ろうと言われて、俺はその蒸し暑さを思い出す。
そして、いつもは独りで歩く予備校までのその道を、ソイツと並んで歩き出した。