ふとある雑誌を手にして鈴木重子さんを見かけた。
日本人初の「ニューヨーク・ブルーノート」でライブ(しかも実質上のデビューではなかったか?)を成し遂げたシンガー。
現在では、ジャズに限らず、童謡や様々なジャンルの歌を収めたCDも出しているらしい。
彼女を初めて知ったのは、テレビだった。
「ブルーノート」の舞台に立った初の日本人ジャズシンガーとして、何かのトーク番組で紹介されていた。
その時の、彼女の歌。
まさに ブルーノート であった。
不思議な声。 雰囲気。 波動。
なんと表現すれば良いのだろう。
「蒼く、透明な、でも 深い」 声。
それが ブルーノート なのか。
ブルーノートが、ニューヨーク発祥のレコードレーベルだとか、ジャズの独特の音階や歌い方ということよりも、彼女のその「歌」の世界そのもの、蒼く、不思議な波動の方が、私には「ブルーノート」という呼び方にふさわしく感じた。
私は実際の「ニューヨーク・ブルーノート」を知らない。
ただ、簡単にはその舞台には上がらせてもらえない、特別なものだという知識だけだ。
だけど、鈴木重子 は、本物の「シンガー」なのだろう…という不思議な感動を受けていた。
それから数年。
相変わらず彼女は、世間とはかけ離れた所で暮らしているような、生活感を全く感じさせない、超然とした「透明なブルー」の雰囲気を持ったまま、写真に納まっていた。
東大法学部卒なのは知っていたが、高校時代は2時間程度しか勉強してなかったが現役合格だったとか(そのかわり、どんなに疲れていても予習・復習を毎日きちんとしていたそうだ)、司法試験を受けるために文Ⅰを目指していたわけではなく、「折角いけそうだから」東大を受けたとか。
司法試験に「あ。これはだめだ」みたいな感覚を受け、断念したあとの数年間は、インタビューを読んでいると、ふわふわと波間か雲の中を漂っているような過ごし方であった。
勿論、挫折した時には、相当な精神的苦痛や葛藤、焦りはあったに違いない。
けれど、それを感じさせない。
それが 鈴木重子の真骨頂なのかもしれない。
私が好きなアーティストに渡辺美里さんがいるが、彼女とはまた違ったベクトルを持ったシンガーである。
鈴木重子を落ち込んでいる時に聴きたいと、私は思わない。
だけど、元気一杯の時にも、ふさわしくないような。
その中間。
日々、少し疲れたとき、ゆっくりと、明かりを高級ジャズバー風に落として、好きな飲み物を飲みながら、聴きたい。
ヒーリング
それが一番近いかもしれない。
…久しぶりに、彼女の ブルーノート が聴きたくなってきた。