高校一年生の時
国語の教科書に梶井基次郎の作品「檸檬」が載っていた。

国語担当の女性教諭は
『繊細で美しい文章なのに、作者はとてもブサイクな人でガッカリしました』
と宣った。
作品の後ろには必ず作者のプロフィールと写真が載っており、

急いでページを繰って御大の尊顔を拝す。


で、以来、
梶井基次郎=繊細なブサイクと
脳裏に刻み込まれてしまうことになった。

文章の中には、
肺病の、熱をもった身体に染み込んでいくようなレモンの冷たさ
とか、
舶来品を扱う丸善の、オーデコロンやロココ調の香水瓶
とか、
思春期の文学少女の胸をくすぐるキーワードがいくつもあったのに。
もう
「ただし、ブサイク」
という但し書きが常に付いてしまう。(私の中で)


ところで
当時は流行ってたんだろうけど今はちょっとね、

という歴史感溢れる容姿がある。
例えば、
音楽室の壁を彩る
クルクルヘアーのカツラ男たち。

カノンを弾きながらバッハはあのカールをかわいく揺らしていたのだろう。
そして、日本の政界を創ってきた英雄たち。
立派に反り返った髭のいかめしさは、

シャッターを切る瞬間の微笑みを決して許さない。

ちなみに何を隠そう、
私もいまや歴史感溢れる容姿となった。
なんと、古今和歌集顏だ。
眉毛を4分の3ほど剃り落とす
という、予想外の出来事により、
うやうやしくも平安の姫君の如き容姿に変化したのじゃった。


わらわは教訓を得た。
カミソリを持っている時は絶対にウッカリしてはいけない。
特に、眉毛あたりに刃を置いた時には、

呼ばれても振り返ってはいけない。
おかげで、基次郎もびっくりの

ぶさいくなマユなしおばさんだ。


仕方ない。

父の養毛剤を塗っておくことにしよう。
次に目指すところは西郷隆盛顏である。

尊敬してやまない文豪 「梶井基次郎」氏