プロ野球が2リーグ制になった以降、前年最下位だったチームを翌年優勝させた監督は次の5人だけである。

史上初：1960年大洋（現DeNA）
三原脩監督（知将・魔術師）
三原マジック

2回目：1975年広島
古葉竹識監督（耐えて勝つ）
赤ヘル旋風

3回目：1976年巨人
長嶋茂雄監督（迷言例：疲労の疲れ）
前年の巨人球団史上初の最下位の雪辱

4回目：2001年近鉄
梨田昌孝監督（こんにゃく打法）
いてまえ打線復活

5回目：2015年ヤクルト
真中満監督（できない理由を探すな）
ギリギリ優勝

各下克上優勝のチームの当該年度における典型的スタメンは末尾の通りだが、正直に言うと3回目以降の印象は薄い。1975年の広島の場合は、私の贔屓チームの初優勝だから鮮明に覚えているが、広島を除いて客観的に言えば、一番印象に焼き付いたのはNPB史上初めて万年最下位の大洋を、新任の三原監督がいきなりリーグ優勝させたことである。更に、日本シリーズでは榎本喜八・田宮謙次郎・山内和弘を擁するミサイル打線の大毎が相手では歯が立つまいと思っていたのだが、蓋を開けると豈図らんや、4勝0敗と「まさか」のストレート勝ちで日本一になったので二度びっくりしたのであった。

西鉄で黄金期を築いた三原監督は諸々のことがあって大洋の監督になったのだが、選手の調子やツキを見逃さない感度の鋭い眼を持ち、予想外の選手起用や戦術を用いて大洋の "超二流" 言われていた選手を使いこなした。意表を突く作戦の一例を言えば、試合が始まると先発メンバーのうちの7人も入れ替えたことである（目眩まし戦法）。

人は「三原マジック」とか「魔術師」と呼んだが、三原本人は「私は魔術師でもなければ、手品で勝負に勝ってきたわけではない。だからこの言い方は、正直言ってあまり好きではない」と言っていたそうである。彼は以下の考えを実践しただけだったのだ。

◎ タイプの違った二人の選手の長所を上手く組み合わせて起用すれば、一人のスタープレーヤーに匹敵する戦力が生まれる。

◎ 選手は勝負に囚われず、闘志を持って最善の努力をすればよい。勝負の責任は監督が取る。

その考えに沿って、選手には一番得意な技術を徹底的に磨かせた。実際の選手の起用や采配に、その考えが随所に出ていた。今でも私が覚えているのは、打撃はいいが守備は下手だったので埋もれいたが、三原が監督になってからは代打の切り札として有名になった麻生内野手である。

三原監督の長所の組み合わせは、今日のあらゆる組織について適用できる筈である。

プロ野球下克上優勝