「無茶苦茶退屈・・・」
ただ部屋にじっとしているのは退屈でしかなく、なにかしようにも部屋にはなにもない。
「とにかく今日は部屋でじっとしていることだ。間違っても外出なんて考えるな。今の君はみぎもひだりもわからない赤子同然だ」
でもね橋本先生。俺は物事を深く考えるより、直感で動いたほうがいいと思うんだよね。記憶なんてないけど、それだけははっきりとわかる。
よし ーーー。
意を決して着替え始める。ベッドの下の籠の中に着替えがあることはさっき知った。
なぜかスムーズに着ることができた。
やっぱり体は覚えているのだろう。
ゆっくりとドアを開けて周りを見渡す。
幸い医者や看護婦はおらず、足早に階段をおりていく。
一階の受付にはたくさんの人がいて看護婦は応対に勤しんでいた。
普通に一般の出入口から出ても患者服じゃないからすんなりと通ることができた。
さて、どこにいったものか。
右を見ても左を見ても知らない景色。
ええい。俺の直感でいざ出発だ!!



ーー ここは何処だろう?
色々曲がったり登ったりと繰り返した結果たどり着いたのは大きな公園だった。
来た道なんてもちろん覚えてなどいない。
この歳で迷子かぁ。
どうしようかと歩いていると向こうから走ってくるおじいさんがいた。
そこにはこの部屋に合った服装の男がいた。
「君は誰だい?」
いきなりの意味深な発言。
「ある組織に追われ、北アメリカからアフリカそしてここにきた可哀相な者です」
「これからいくつか質問するから答えられる範囲で答えてくれ」
スルーっすか!?
「君の名前は?家の住所は?電話番号は?家族構成と名前は?君の誕生日は?」 「ちょっ、ストップストップ!そんなに一気に答えるの無理ですって」
「ならばどれか一つでもいい。答えることができるかね?」
「どれか一つ・・・?」
俺の名前は?
ーー わからない。
家の住所、電話番号は?

ーー わからない。
家族?誕生日?
ーー わからない。
てか何もわからない。
俺って誰?
「無理に思い出さなくていい」
我に返ると、いつの間にか作っていた握りこぶしが汗でべったりしていた。
「すみません・・・」
「簡単に言うと、記憶喪失だね」
「・・・記憶喪失・・・・・・?」
「そうだ。記憶喪失だよ」 俺が喉がカラカラになりながら言った言葉をこの男は眉一つ動かさず言い放つ。
「君は事故に巻き込まれたんだ」
「そりゃ物騒な話ですね」 「普通なら即死ものなんだが、外部の怪我はほとんどなかった。奇跡というほかない」
「即死って・・・なんの事故ですか・・・?」
「崖でタンカーと衝突して落下。その後引火して大爆発だそうだよ」
「それで死なないとかどんな化け物!?」
「それじゃあ君は化け物だな」
男は極めて冷静に話す。
「だから俺は病院にいるわけですか。あなたは医者ですよね?」
俺の質問に医者らしき男は真剣に考え込んでいた。 「そうか。知識に関しては問題ないのか」
なんか一人で納得してるし。
医者(?)は三本の指を立てた。
「何本に見える?」
「スリーピース」
すると一本折りたたんで向きを変えて
「ならこれは死角か」
「中々上手いですね」
「くだらないことに時間を使いたくはないんだ」
「真面目に答えます」
「ではこれはなんだ?」
トントンと書いているものを叩いた。
「・・・・・・紙?」
「君は頭が悪いみたいだね」
悪かったな。
「正確に言うと君のは記憶喪失ではなく記憶障害だ」 どこがどう違うんだ?
「記憶障害とは別に記憶がなくなったわけではなく、ただ単に思い出せなくなっているだけだ」
「・・・・・・つまりどういうことですか?」
俺の質問は余程マヌケだったのか医者は息を吐いた。 「記憶というのは色々あって。君の場合、思い出の記憶がおかしくなってるんだ」
「・・・・・・実はドッキリ?」
「これはなにかの茶番だと?」
「いや、今更ですけど普通記憶喪失って言われて納得します?」
そういうと医者は四本の指を立てた。
「何だと思う?」
「・・・・・・フォーピース?」 「君はボキャブラリがないな」
「ほっといてください!!」 「君が私と今まで話した回数だ」
は?四回って。あんたに会ったのは今日が初めて・・・
ズキッと頭の奥から痛みがはしる。
「ぁっ・・・・・・ぅぅ」
「落ち着きなさい。冷静に今を見るんだ」
「ははっ・・・まじなのか・・・」
「君のは記憶障害だから決して思い出せないわけではない。なにかのきっかけで思い出すかもしれない」
医者はスッと鏡を取り出した。
そこにはボサボサの長い髪の暗い感じの顔をした少年が写っていた。
「これが俺・・・?」
まったく知らない顔だった。
「ふむ、これが鍵ではないか」
「治るんですかね?」
「君次第だよ」
振り絞って声にするものの、震えているのが自分でもわかる。
「私もできる限りのことはしよう」
「お願いします」
医者は手を出してきた。
俺もそれに応じた。
「私の名前は橋本だ」
「俺は・・・・・・・・・」
「冬坂光。それが君の名前だ」
「冬坂・・・光・・・」
俺は一呼吸したあと、
「俺の名前は冬坂光です」自信を持って言った。
俺冬坂光は人生初めての日にして大多数の男が憧れているだろう告白を経験した。
しかも相手は超がつくくらいの美少女。まあ基準がわからないから美少女と断定できないんだけど、でも俺の直感が教えている。

ーー いや、俺の頭がおかしいわけじゃないよ?
俺だってびっくりさ!?
いつの間にかここに連れて来られて自己紹介させられて、そしたらいきなりの告白だよ?
なんでこうなっちゃったんだろ・・・・・・



目が覚めた時見えたのは真っ白な天井。
ここどこ?
周りを見渡し状況を確認。第一印象は飾り気のない部屋。
白いベッドにカーテン、どこにでもありそうな机とその上に置かれている花瓶に添えられた花。
花は黄色で綺麗に咲いていた。
なんて名前なんだろう。

「目が覚めたみたいだね」