段取りは聞いたものの急に不安になって、自然と五人で肩が当たる距離に詰まった。
「・・・あのオッサン、めちゃめちゃ怖ぇな」
「な。あんな人いたっけ」
「わかんねー」
「俺も知らねえ」
「・・・・・・」
ボソッと潤が呟いたのが聞こえて、オレと同じことを思っていたのが分かってなんだか嬉しかった。
そしたら大野くんもノッて来て、櫻井くんも続いてきた。
カズならもしかして憶えてるかもしれないけど、今は目を閉じててたぶんまた船酔いと格闘中なんだろうな。
会話に参加して来ない。
しっかしあのオジサン、今日いるってことは多分最初の顔合わせの時も会ってるはずなんだけど憶えてないんだよね。
あれだけ強烈なキャラクターなら忘れるはずないと思うんだけどな。
「スタッフ多すぎて全然憶えらんねぇわ」
「んはは。翔くんが憶えらんないなら俺が憶えられるわけがない」
櫻井くんが言うように、ホテルで挨拶した時もスゲーたくさんのスタッフさんがいたから全員は憶えられなかった。
つーか、ほとんどを憶えてない。
大野くんも笑って同じようなことを言っていた。
「・・・あ!!」
突然潤が大きな声を出して櫻井くんと大野くんを指差した。
「なんだよ潤。急にデカい声だすなよ」
「しょおくんと大野さん。衣装カブってる」
「え?!」
「ありゃ、ホントだ」
櫻井くんに注意されても動じない潤はさすがだと思う。
潤に言われて二人が衣装を見比べて、大野くんは自分が着ている服を引っ張った。
「しょおくんさっきまで紫着てたのになんで!?」
「そんなんこっちが知るかよ・・・って、あ」
櫻井くんの服に手を伸ばして騒ぐ潤の胸の前に肘を出して櫻井くんは距離を取る。
相変わらず櫻井くんのこととなると潤はよく気づくなあ。
「どうする?もう撮影始まるよな」
「とりあえずスタッフ呼ぶ?」
「でも本番中にスタッフが映り込んだらマズいよねえ。またさっきの人怒っちゃうかも」
「別にもうこのままでもいいんじゃねえの?そこまで誰も気にしないだろ」
「・・・・・・」
オレたち四人は色違いでお揃いだから問題ないけど、大野くんだけデザインが違うから仲間外れみたいに見えないかな。
どうしたらいいのか考えていたら急に船の速度が上がって、みんな慌ててその辺の物にしがみついた。
いよいよかと気合を入れた時、近くにいた櫻井くんの様子がなんだかおかしいことに気づいた。
「あっ!!合図出たっ」
潤の声でみんながカメラに向かって一斉に手を振る。
なのに櫻井くんは瞬きすることも忘れたみたいに、おっきな目を見開いて、信じられないものを見るような目でオレたちとは違うところを見ている。
一度も瞬きをしないで一点を見つめているから、イルカの群れでも見つけたのかと思って視線の先を追ってみても、そこには青いハワイの空と海しかない。
うひゃー、水面に太陽の光が反射して眩しいー!!目がチカチカする。
どうしたんだろう。そこに何かあるの?
ちゃんと呼吸してる?息止まってない?そんな風に思うくらい微動だにせず、ひたすら一直線に前を見ている。
まるでそこにオレが今見てるものとは違う何かがあるみたい。
かと思えば急に何回も瞬きをして、あ、生きてたなんてちょっと安心して。
少し遅れて動き出した櫻井くんもオレたちと同じように手を振り始めた。
一体櫻井くんには何が見えてたんだろう。
オレには綺麗な空と海が広がっているだけだけど。
目がシパシパするのを我慢して必死に瞼をこじ開けて手を振り続け、カメラの側にいるスタッフさん達が上空を指差すのを見て、今度はみんなで大空に向かって手を振る。
うわー、こっちはこっちで眩しいのと、ヘリからの風で目が乾燥する。涙出そ。
横目で見たカズも頑張って一所懸命手を振っている。頑張れ、カズ。
海上と空からの合図のリレーで無事に撮影が終わり、ヘリは離れ、船も速度を落としまたゆっくりと海の上を進んで行く。