「…櫻井さん」
しばらく当たり障りのない談笑が続いていた最中、突然マリエさんがくい、としょーちゃんの袖口をつまんで引っ張った。
「え?」
「あの…、ごめんなさい…、私…ちょっと、これ、良くないかもしれません…」
マリエさんは顔面蒼白で、袖を掴む指が小刻みに震えてる。
「良くない…って、…!!!」
もう片方の手はお腹のあたりに置かれていて、ゆっくり前屈みになってバランスを崩す。
「い…った…」
「マリエさん!?」
しょーちゃんが咄嗟に上着を脱いで屈み、横抱きにする。
スッと大野さんと二宮さんが移動して人目につかないように壁になった。
「二宮、上着腰に掛けてくれ」
「あ、う、うん」
言われた二宮さんは、慌てて拾い上げた上着をマリエさんの腰から足に向けてかける。
「マリエさん、顔こっちに向けててください」
しょーちゃんが自分の胸の方へ強く引き寄せるとマリエさんは大人しくそれに従った。
「少しだけ我慢して」
そう言ったしょーちゃんの腕の中でマリエさんはコクリと頷いた。
「このまま医務室に行くから。二宮、どこかに伊野尾がいるから見つけて。後の進行はあいつも頭に入ってるから」
「わかった」
「翔くん、いい?行くよ。…すいません、通ります」
大野さんが先導して道を作り、しょーちゃんは出来るだけ目立たないように自分の体を盾にしてマリエさんの姿が見えないようにして部屋を出ていく。
一瞬ざわついたが、みんなそれどころではなくすぐに自分の仕事に戻った。
「イノちゃーん。おぉーい、伊野尾ーーどこだー」
姿は見えないけど、どこかで二宮さんの声がする。
僕は、何も出来ずにマリエさんからもらった花束を手にそこに立ち尽くしていた。
「あ、相葉さんいたっ!!早く衣装に着替えて準備して下さいね」
「あ…、は、はい…」
開始時間が迫り、他の社員に促された僕は、会場を出て自分の準備にとりかかった。