side S

 

 

いつもよりはちょっと長めかなとは思ってたけど、まさか1時間以上経過しているとは思ってなかった。

そりゃあ心配されるわな。しかも底に沈んでるし。

 

俺の生存を確認した潤がへなへなとその場に崩れ落ちた。

 

俺を抱き締めたせいであっと言う間にシャツが濡れて肌に張りついて気持ち悪いだろうと離れようとしたら、ぐっと引き寄せられて離れようとしない。

心配かけちゃったんだなあと思って、謝りながら宥めてたらじぃっと見つめられて責められてる気がして、非常に申し訳ない気分になる。

 

どうしたものかと思案していたら不意に潤の指が動いて俺の顔周辺を動き回る。

額や頬を撫でまわされ、その間もずっと俺を見てるから気恥ずかしくて目を伏せた。

そしたら、睫毛やくちびるを柔らかく触られて、もう一回頬を撫でられた。

 

その触れ方が優しくて、優し過ぎて、潤の気持ちみたいだった。

 

潤の指から伝わる想いを感じていたらくちびるに柔らかい感触が来て、軽く触れると離れていった。

 

 

潤。

 

 

ゆっくり目を開ければ目の前にいる潤の目が潤んでいて。

目尻に湛えているものが今にも零れ落ちそうだ。

 

 

『しょおくん』と潤独特の呼び方をされると、それだけで胸がいっぱいになる。

 

 

智くんの『翔くん』や相葉くんの『しょーちゃん』、ニノの『翔さん』とも違う、潤だけの『しょおくん』は何より特別で。

 

嬉しくて。

 

潤にそうやって呼ばれることに気持ちが高ぶって、涙が零れた。

 

どうせなら髪から伝って来た水滴だと思ってもらえればよかったのに、残念ながらそれは潤の指に掬い取られて行った。

 

 

 

俺をすきだと言う潤の言葉からは嘘は感じられなくて、信じられると思ったし、信じたいと思った。

 

俺を嫌いなところもありつつ、それでも尚すきだと言ってくれるのが嬉しい。

 

自分を全部受け容れられたようで、枠からはみ出ても大丈夫なんだと思わせてくれる。

 

みんなが俺を駄目だと言う、そんな俺は俺じゃないから認めないよと言われた気がしていた俺ごと包み込んでくれる潤の言葉は俺を泣き虫にさせるんだ。

 

そして、潤も泣いていて風呂で二人のオッサンが泣いている異様な光景は、ハッキリ言って不気味だ。

 

 

少し湯冷めしかけた体を温め直し、交代で潤を風呂に入らせる。

張りついた洋服が脱ぎにくそうで文句を言いながらどうにか全部脱いで、そのままシャワーを浴び始めた。

入れ替わるように俺は脱衣所に出て体を拭いてリビングに戻った。

 

 

自分の携帯を手にソファーで水を飲みながらくつろぐ。

未読の中にニノからのメッセージが届いていてそれを開いた。

 

 

“この船の船長はリーダーです。

 

 

 この船の浮力と最大の動力を持つのは相葉さんです。

 

 

 この船の舵を取るのは潤くんです。

 

 

 この船の制御盤は翔さんです。

 

 

 そして、相葉さんがいる限りこの船は私が絶対に沈ませることはないので、

 あなたはあなたが思うままの路を往ってください。“

 

 

さっきようやく治まったと思った涙がまた、零れた。