side M
「どしたの?…あ、ラテ飲みたかった?ちょっと待って、これ持って行ったらすぐ作るから」
「………………」
腕に抱えた着替えを見せてジェスチャーしても、フルフルと首を左右に振るだけで、
どうやら違うらしい。
何を求められているのか考えていると、翔さんがゆっくりと両手を広げて待ってる。
あ。
もしかして…。
手にした着替えをソファーに置いて、翔さんに近づいて行く。
一歩。また一歩。翔さんに近づいていくたびに翔さんの表情が柔らかなものに変わっていく。
懐まで入り込んだところで、ふわりと香る翔さんのフレグランス。
俺を迎え入れた後、その門は閉ざされ大きな掌の感触が背中にあたる。
胸に顔を埋めると翔さん自身の香りと交ざることで放たれる甘い匂いが鼻腔いっぱいに広がる。
翔さんだ…。
昨日より、今朝より、今の方がずっと実感できる翔さんの温もり。
翔さんがここにいるんだという実感。
離れてた間、ニノん家にいた時は実はずっと落ち着かなかった。
匂いが違うから。
ニノん家はニノと相葉さんの匂いのする家。
俺の家やこことは違う、誰かの家だから、まったく知らない匂いじゃないけど、不快ではなかったけど、自分の居場所はここではないと強く感じていた。
一人でここに帰って来たときも、翔さんのフレグランスが微かにしたけど、でもやっぱり、少しだけ違和感があった。
今、翔さんに抱きしめてもらって、翔さんの匂いを嗅いで、やっぱり俺の帰る場所はここなんだな、って思った。
そうして感慨に耽っていたら、風呂が沸いたことを知らせる音がして翔さんにソファーに置いた着替えを渡して先に風呂に入るように促した。
渋々ながらも翔さんは俺から離れ、着替えを持ってバスルームへ消えて行った。
その後ろ姿を見送って、ソファーに腰を下ろして自分の携帯を手にとった。
SNSでは今日のことがさっそく挙げられていて、“前回に続き今回もイチャってた。”
“この頃櫻葉ヤバい”とか“山最高”とか、組み合わせには一言物申したい気分だけど。
ネガティブな書き込みが多い中、少しは気分が晴れるようなものは有難い。
その中でも、前回の事についても触れている話題が結構上っていて。
ニノが布石を打ってあると言っていたのはこのことかと納得した。
すでに前回の収録の時からが作戦だったんだ。
あの時は発表前だったから俺は油断してたけど、ニノは炎上することも既に予測してた上で、先回りしていてくれたんだ。
きっとあの時のリーダーも相葉さんもニノから今日みたいに何か言われてたんだろう。
それなのに俺ときたら、磁石がどうとか櫻葉がとか、つまんないやきもちやいて対抗してみたりして、だっせぇ。
発表後になってから急に俺たちが絡み出したら不自然さを疑われただろうけど、元々の仲の良さもありあからさまなスキンシップを疑われることはなかったようだ。