あっという間に週末の打ち合わせ前夜になって、ついこないだお世話になったばかりの場所にいる。

 

こっちも結構切羽詰まっているらしく、俺は家に招き入れられたあと放置されてる。

 

俺に背中を向けてひたすらマウスをクリックする音と、キーボードを叩く音だけが部屋に響く。

 
 

 

ここはオートロックもないマンションなので、直接家の玄関のインターホンを押すのだが、着く前に連絡をしたら彼にしては珍しくすぐ既読がついて返信が来た。

 
 

“忙しいから玄関開けとく。勝手に入ってきて”

 
 

俺が住んでる所では玄関に鍵かけないのは割と当たり前なんだけど、都会でそういうのって危ないんじゃねーの?

 

とりあえず家まで行ってインターホン押したけど何の反応も返ってこなくて、ドアノブに手をかけたら、マジで開いてた。

 

ということはいくら待っても二宮さんは迎えに出てはくれないということだと判断して、そーっとあがって、鍵を閉めてリビングに行ったらあれもこれもといった様子でモニターがいっぱいついてて、眼鏡をかけた二宮さんが忙しそうにキーボードを文字通り叩いていた。

 
 

「お、お邪魔します・・・」

 

「悪いけど、今なんもお構いできないんで自分でやってくださいね」

 
 

全くこっちを見ないまま眼鏡のブリッジを触りながら二宮さんが答えた。

 
 

「・・・ハ、ハァ」

 
「好きなように家の中使ってもらって構わないんで、冷蔵庫も自分で開けていいから」
 
 

そう言ってマウスをグルグルしている二宮さんの動きに連動してモニターに映ってる

何かが動いている。

 

何かよくわかんねぇけど、すげぇな。

 

二宮さんの鬼気迫ってる感じとは正反対に何かがうごめいてる様子は可愛くて。

思わず笑みがもれた。

 

とりあえず、空いてる場所に荷物を置いて、冷蔵庫にあるビールを一本もらった。

 

その時見えた横顔はいつもの可愛らしい雰囲気の二宮さんとは違って、目の下にはくまが出来ていて、無精髭がうっすらと見える。

 

俺も結構今回はギリギリだったけど、こっちはもっと大変そうだなぁ、なんて思っていたら目の前のテーブルで携帯が鳴り出した。

しかし、集中しているせいか一向にその電話に気付く様子もない。

 

仕方なく俺は携帯を手にして二宮さんに渡そうとした時に目についた着信相手の名前。

 
 

『松本社長』

 
 

その名前を見ただけで思わず身震いがした。

 
 

「に、二宮さん。電話、松本社長から・・・」

 
 

二宮さんの側に立ち、視線の先に入るように携帯を差し出す。

一瞬鬱陶しそうに眉をひそめたものの、溜め息を一つついて電話を受取り通話の表示をタップした。

 
 

「・・・はい、もしもし。なに?・・・え?」

 
 

戸惑うようにチラリとこっちに視線を送って来たので、込み入った話かもと思い、風呂の方を指さして着替えを持って席を外す。

 

会釈で返事した二宮さんは再び意識を電話の方に向けて話し続ける。

俺はそっとリビングを後にして湯船に湯が溜まるまで洗面所で待つことにした。

 

その間、リビングを出る寸前に聞こえた二宮さんの言葉が頭の中をグルグル渦巻いていた。