『おい、サクショー。おまえ、熱あんじゃねーの?』

 

『へ?熱?ねーよ、そんなもん』

 
 

ただ、ちょーっと、朝、体重いかな?とは思ったけど、昨日は雅紀とシてねーから

そのせいかなと思ってて。

 

帰ったら雅紀を思う存分堪能して、出すもん出してスッキリすりゃ体も軽くなんだろ、程度に思ってたんだけど。

 
 

『この中にお医者様はいらっしゃいませんかー?』

 

『私、医者です』

 
 

ツレの一人が悪ふざけして、CAゴッコが始まったと思ったらそれに乗っかるやつもいて。

 
 

『すみません、こちらの方が体調が優れないようなんですが…』

 

『どれどれ、診てみましょう』

 
 

思いのほかぐでん、となった俺の手首が二人の間でやりとりされて。

 
 

『おや、これはいけませんな。…つーか、おまえマジで熱あんな』

 

『えぇ?嘘だろー、別にしんどくないぜ?俺』

 
 

ただ、ちょーっと、いつもより体が重いだけで。それは昨日雅紀とシ…(以下略)

 
 

『いや、あるよ。普通に。もうおまえ帰って寝とけ。んで、明日の朝になっても熱下がんなかったら病院行け』

 
 

医者が本職のツレがそう言うから、みんなが心配してくれて、『しんどくないか?』とか、『無理させて悪かったな』とか言うから、申し訳なくて。

 

せっかく、俺を含め1月後半生まれのやつらの誕生日祝いに集まってくれたのに。

 
 

『ゴメン…』

 
 

そう言ったら、近くにいたツレに背中をバンと叩かれて、軽く前に吹っ飛んだ。

 
 

『何しおらしくなっちゃってんのー?サクショー、熱でやられちゃったの?』

 

『また来週、次の誕生日会が待ってんだからな』

 

『こんな殊勝なサクショーが見られるのは病気の時だけだから貴重だなー』

 

『来週の“ZERO~”は俺がやっとくから』

 
 

みんな好き放題な事言って、誰も俺の心配してくれてねーじゃん。

ほんっっっと、おまえらイイやつらだよな。ふん。

悪いな、なんて一瞬でも思った俺が馬鹿だったわ。

 
 

『おい、車来たぞ。サクショー、行けるか?』

 
 

オモテで車を拾って来てくれたツレが店内に戻って来て声を掛けてくれる。

 
 

『お、イケるイケる。悪いね、ありがと』

 
 

起き上がって、身だしなみを整えて車に向かうと、後からみんながぞろぞろと付いて来て、乗り込んだタクシーを取り囲むように男女入り混じって見送ってくれる。

 
 

『じゃな、サクショー。気をつけて』

 

『寄り道しないでまっすぐ家に帰るんだぞ』

 

『早く良くなるといいね』

 
 

口々に労わるような言葉が出て来て、やっぱり申し訳ない気持ちになる。

 
 

『悪いな、せっかくみんな集まる日だったのに…』

 

『気にすんな。誰にでもあることだよ。今回たまたまお前だっただけ』

 

『いつまでもサクショー帰れねーぞ。そろそろどいてやれよ』

 

『じゃあ運転手さん、すいません。お願いします。またな、サクショー』

 
 

俺の代わりに発車を促してくれるやつもいて。

ほんとに、いいやつらだよ、おまえら。

ありがと。

 
 

 

運転手に大体の場所を告げて、少し車中で眠った。

 
 

 

そして家に帰り着いたら、何も言わなくても気づいてくれるやつもいて。

 

本当に俺は幸せな人間だと思う。

 

人に恵まれるって貴重なことだから。

 

俺にとって何物にも代えがたい大切な財産。