ガチャン。
出来るだけ静かにしたはずの玄関のドアの開閉音がやけに頭に響く。
「ただいま…」
「おかえり、早かったね…てか、どしたの?しょーちゃん」
音に気付いた雅紀が出迎えに来て放った一言がソレ。
「え…?」
「顔、真っ赤だよ?もしかして熱あるんじゃないの?」
言いながら俺の額に添えた手がやたら冷たくて全身総毛立つ。
「冷た…っ!」
「うわ、あっつ!ちょっとしょーちゃん、絶対熱あるって!」
早く早く、と言いながら靴を脱がされ腕を掴まれ洗面所へ一直線。
「はいっ。手洗いとうがいして!寝室の準備してくるからこれに着替えて」
寝室からサッと着替えを用意して来た雅紀は、一度リビングに戻って再び寝室へ消えた。
あんなにちょこまか動き回る雅紀を見るのは久々だな、などとぼーっとした頭で考えていたら、寝室から声が飛んできた。
「しょーちゃん!?手洗いうがい終わったらさっさと来なよ」
ノロノロとした動きで言われた通りのことを済ませ、服を脱いだ瞬間にボッと鳥肌が立ち、できるだけ急いで着替えをして、これまたノロノロと寝室へと移動した。
「はい、しょーちゃん、そこ入ってゴロンして」
言われるがままモソモソと布団に身を沈める。
「はい、次はこれ。熱測って」
体温計を手渡され、モゾモゾと脇に挟む。
ピピッ。
「はい、何度?」
自分では確認もせず、そのまま雅紀に体温計を返す。
体温計と交換に、いつも寝る時に必要なかいまきを渡され、自分で最適なポジションにセッティングする。
「んー、7度8分か。ビミョーだねぇ。この時期だとインフルの可能性もあるし、そしたらまだ熱あがるだろうしなぁ…」
ブツブツとひとりごちる雅紀を見ていたら、視線に気づいた雅紀が俺の髪をそっと梳いた。
「どしたの?そんなに目ぇうるうるさせちゃって。しんどい?」
フルフルと頭を横に振って、そうじゃないってアピールする。
俺自身は、そんなに言うほど体はキツイって感じてない。
でも、雅紀をはじめ、今日会ったツレたちも似たような心配をしてくれた。
そもそも今日はツレに会うから帰りは遅くなるって雅紀には伝えていた。
いつもなら何だかんだでてっぺん越えてからの帰宅になっていたのが、今日はまだ日付も変わる前の帰宅になってしまったのは、ツレの一言が理由で。
「せっかく久々に友達に会える日だったのに残念だったね」
長い指が髪の間を何度も往復するのがだんだん気持ちよくなって来て、眠りを誘う。