「そう言えば、大野さん毎回ホテル予約取るの大変でしょう?うちで良ければ常宿として使っていただいた構いませんので、次回からそうしませんか?」
「え?いやでもそれは、さすがに・・・二宮さんのご迷惑になるし」
「たぶん、これからこちらに上京していただく回数が増えると思いますよ?うちの松本は一切の妥協を許さないタイプなんで、今後はガンガン要求してくると思います」
「ええ!?今より!?」
「ええ、今より」
四回の打ち合わせでも、松本社長からのダメ出しはなかなか手厳しいものだった。
三回目の時なんか、それまでに決まっていたものを覆すぐらいの手直しを求められて、向こうに帰って二日ぐらい寝る暇ないぐらいだった。
あれでも、遠慮してたってか。どんだけ仕事人間なんだ。
ヒィヒィ言いながらやり直したラフ画を今日提出したけど、明日か明後日には返事するって持ち帰っていった。
それ次第でまた帰ってからの作業日数が変わってくるし、上京の必要も変わる。
「下手したら、しばらく向こうに帰れなくなるかもしれませんよ」
ビールを呷りながら、ニヤリと二宮さんが不敵な笑みを浮かべる。
「え~、・・・それは嫌だなあ。俺もう向こうが恋しい・・・」
のんびり、自分のペースで仕事ができる環境に戻りたいと切実に願っている。
櫻井さんと言い、松本さんと言い都会の人は仕事しすぎなんだよ。
二宮さんは、・・・あれ?そういえば二宮さんは、あんまりあの二人みたいなガツガツ仕事してる雰囲気はないな。
部屋はすごいけど・・・。
そう思いながらじっと二宮さんを見ていると、俺の視線に気づいた二宮さんがクスッと笑った。
「俺はマシン相手の業務なんで昼夜関係なく、好きな時に好きなだけ仕事できるんですよ」
空中でキーボードを叩く仕草を見せる。
なるほど。
人間相手の仕事だと勤務時間の縛りがあるけど、機械だとそんなの関係ないもんな。
「・・・ね?だから俺に気兼ねしなくていいし、ホテル暮らし続けるより楽だと思いません?」
「・・・ん、まあ、そう、だけど・・・」
「じゃあこうしましょう。俺に、絵をください」
「絵?」
「そう、今日いただいた分とは別の絵。俺はそのお礼として家を提供する。これでギブアンドテイクが成り立つ」
「二宮さんがそれでいいなら・・・」
俺はいつものように絵を描くだけですむけど、そんなんでいいのか?
「俺からしたら、あなたの絵がただで手に入るんだから安いもんですよ」
・・・いいのか。
嬉しそうな姿を見ていたら、それでいいか、と思えた。
「・・・じゃあ、それで、お願い、します」
「はい」
そう言って笑った二宮さんは、とても俺の3つ下とは思えない可愛い顔をしていた。