前の記事では朗読劇READINGWORLDユネスコ世界記憶遺産舞鶴への生還「約束の果て」の総合的なあらすじや感想を書き連ねましたが


今回は、私の推し佐久間大介が演じた人物について深掘りして語りたいと思います。


前回の記事よりも完全にネタバレあります


劇を鑑賞した方、ネタバレは気にしないという方のみ先にお進みください


佐久間さんが演じていたのは島津秀雄という若い日本兵です。


この役は、主人公ではありませんが物語の中心となる役割でした。


まず初めは


戦争に負け、「東京へ帰る」と知らされていた日本兵たちの乗る列車の中で、島津は大森に話しかけます。


「お月様が見えます」


そんな島津に大森は「こんな時に能天気だ」と呆れて言います。


それに対し、島津は「この性分があるからこの状況も乗り越えられるのです」しかしそのおかげで「出来損ないと言われてきたんです」と明るく返します。


そのやり取りを聞いていた竹本にも「減らず口を叩いてばかりいるとスパイだと通告するぞ。お前のせいでみんなに迷惑がかかる」と叱られてしまいます。


しかし


彼のこの「お月様が見えます」は重要な言葉でした。


自分たちの乗っている列車が、日本に帰るための港の方向には走っていないと、大森がその月を見て気づくからです。


だから、その後に列車の到着した場所がどこなのか。


動揺し、騒ぐ日本兵たちのいる中で、大森は冷静に判断することが出来たのでしょう。


そして、島津はシベリアでの強制労働中には身を呈して竹本の命を救いました。


大森が親友を亡くした時にも、心が変わり始めた竹本と共に大森に生きる気力を取り戻させるために必死になります。


彼らは島津のおかげで変わっていきますし、生きることに前向きになります。


そして抑留生活も2年を迎えたある日、家族への手紙を書くことを許されます。


手紙を書く家族はいないと言う竹本に、それならば私の兄になってください、そして私の家族に手紙を書いてくださいと言います。


竹本ははじめ「馬鹿なことを言うな」と怒りますが、あまりに島津がしつこく頼むので、大森の助言もあって竹本はその願いを叶えます。


その事からも、大森も竹本も、最初はやや馬鹿にしていた彼のことをとても可愛がっていることがわかります。


しかしそんなある日、島津は病に倒れます。


腹を壊してしまいました、おかしな物を食べたのでしょうといつものように極めて明るく話し、その翌日には労働に復帰しますがそこで血を吐いて倒れてしまいました。


医療棟は満杯で入れないと言われましたが、大森はそれでも明日にはどうにかして治療をしてもらうのだと言います。


しかし、島津はそれを拒否します。


「(医療棟には)行きたくないのです」と。


私はこのセリフを初めは「生きたくないのです」と言ったのだと思いました。


こんなにも明るく振舞っている島津が、ついに弱音を吐いたのかと。


でもそうではなく、彼は医療棟のような死を待つだけの場所にいるよりここにいたほうが心が休まるのだと言います。  


だから、これは私の個人的な解釈ですが「生きたくない」もあながち間違ってはいないのかも知れません。 


あのような場所でただ生きながらえたくないという意味も含まれていた気がします。


それに「心が休まる」という言葉。つまりは彼の心が乱れていることを表しています。迫り来る死への恐怖でしょうか。


これは、島津の唯一の反抗だったと思います。


これまで、どんなことを言われようと「そうですね」「わかりました」と飲み込んで来た島津の最初で最後の反抗です。


そしてそんな島津を温めるために竹本と大森は自身の上着を分け合って、体を寄せあって眠ります。


この時島津は、今はもう亡くなった父と兄に挟まれて眠った子供の頃の思い出を話します。


彼はどれだけ不安だったことでしょう。


この時代、例え子供であっても家を守るのは男の役目です。


戦争のお話には必ずと言っていいほど出て来るのが


出征する父親がまだ幼さの残る息子に「お母さんと妹たちを頼んだよ」と言う場面です。


きっと、島津家にはこの光景が二度あったと思われます。


父が出征した時には兄に、兄が出征した時には秀雄に、その責任が課せられたのでしょう。


だから、秀雄が出征する際にはその責任を託す者がいません。


母親と妹を残して行くからには、自分が生きて帰らなければならないと思っていたはずです。


彼の「能天気さ」はそんな不安な想いを隠す鎧だったのではないでしょうか。


そしていざ、自分が死ぬかもしれないと思った時にようやくその鎧が少し脱げてしまったのかもしれません。


医療棟には行かない。


もう家族のような存在の仲間と離れたくないから。


やっと、少し本音が出たんだと思います。


そして、島津の死後に届いた家族への手紙。


自分はすこぶる元気であり、ごはんもたくさん食べられるし、暖かい布団で眠れていますと書かれています。


そんなわけないだろ笑


いくら家族を心配させたくなくても嘘くさすぎる。


ほんと馬鹿だなぁこの子は笑


私はそう感じて、また更に島津が愛おしくなりました。


家族を安心させたいという一方で、まだ若い男の子です。もっとたくさんごはんも食べたかったし、暖かい布団でゆっくり眠れることを夢に見ていたのでしょう。


本当に愛おしい子でした。


竹本に兄になれと言ったのも、自分にもしものことがあった時に自分の家族の頼るべき場所になればと思ったことでしょう。


その後、島津は長い時を経てようやく小さな小さな骨となって祖国に帰ることが出来ました。


いつか島津に命を守られておきながら、その礼も言えずに、家にも連れて帰ってやることが出来なかった竹本が、シベリアの永久凍土に埋まっていた仲間たちの遺体を掘り起こして焼き、その骨を家族に返すことに力を尽くしたからです。


約束の果てに。



というのが個人的な島津というキャラクターの解釈です。


物語の最後、島津秀雄の妹の子、つまり甥っ子の和彦が登場して大森や竹本との再会を果たすのですが、和彦がきちんとした青年に育っているということは、きっと秀雄が心配していた家族はあれからも元気に過ごせたのだろうとわかり、それだけでも救われる思いでした。


そして、こんなにも物語に重大に関わって来る大役を見事に演じきった佐久間さんを応援していることはとても誇りに思いますし、これからもっともっと応援し続けていきたいと強く思いました。


佐久間さんをただ好きで推していただけなのに、こんなに素晴らしい作品と出会うことが出来て幸せです。


観劇されていた方それぞれのキャラクターの解釈はあると思います。


これはあくまで、私の妄想だと思って呼んでいただければ幸いです。


ご清聴ありがとうございました。




島津くん、祖国の海ですよ。


帰って来られましたね。






全ての世界に平和が訪れますように。