美味しくて楽しい酒―熟成古酒 210
酒造家を疲弊させた酒類醸造検査
⑧ 酒類醸造検査の実態その4
酒造検査の厳しさに対しての「酒税軽減請願書」はさらに、
「収税官吏は密造を疑うあまり、蔵の中だけではなく家中を捜索し尽くし、ついには隣の家まで捜査の手が伸びるので、人民の安らかな生活を乱して、人民を疲労困憊(ひろうこんぱい)させるに至る。その苦痛は極限に達して、会社の運営にも支障をきたし、営業は破綻し、生計ができなくなるケースが多発している。」
と、酒造家側の悲惨な実態を訴えています。
また、灘の酒造業者は
「検吏は酒造りに関してちゃんとした知識がない」にもかかわらず、「検査の仕方を見ると、例えば搾った酒の量が少ないとか、何日かかったかとか、計算上合わないなどと言い、帳面上の計算式をもとに、実際の量が正確かどうかを判断する。(中略)最後は法律上こうなっていると有無を言わせない。」などと、検査の実態を痛烈に批判しています。
性悪説にたつ収税管理士
日本酒造りは、麹と酵母をいかにバランスよく働かせるかで、その品質はもちろん、できる酒の量も違ってくるので、標準的な数字で作られている検査用のマニュアルと、実際の現場の数字が一致することはまずありません。
さらに、酒母やもろみは液状ですから、移動のため桶で担いで運ぶときにこぼしたり、桶を落として亡失させるなど、ちょっとしたミスはつき物です。
しかし、検査マニュアルに書かれた数字が絶対と思い込み、実際の数量との間に差ができると、性悪説にたつ収税官吏は、それは酒造りの人たちがごまかしているに違いないということから、執拗な検査を行ったのです。
高額の酒税と併せ、この不条理な検査制度が酒造家を疲弊させたのです。