0:そこは真っ暗な闇の世界だった

0:一粒の光さえも灯っていない完全なる漆黒の世界

 

 

0:温度もなにもないはずなのに
0:僕は薄っすらと寒気を覚えた。

 

0:気がつくと、今の僕には手足は愚か胴体すらないようだ。

0:ただ、「僕」と言う意識だけが暗闇の中を彷徨っている。


 

0:僕はこの闇の中「なにか」を求めて無闇に移動した。

 

0:「なにか」があるのか、なにもないのか。
0:もしくは「この世界」からの出口があるのか。
0:全くわからないままに意識だけが縦横無尽に暗闇の中を飛び交っていく。


 


 

誰か:「このままでいられるのかな……」


 

0:どこかからか細い声が聞こえた……気がした。



0:僕はその声が聞こえた方に向かって進む。


誰か:「私はこのまま……消えられるのかな……?」



 

0:声の主は……消えたいのか……?



 

0:ここは……この声の持ち主の意識の中……?

 

 

0:僕はこの声の主と意思疎通が出来るのだろうか?
 

 

 

 


僕:「君は……消えたいの?」


 

0:反応はない。
0:僕の声が届いているのかいないのか。


 


誰か:「このままでいい……このまま消えてしまえばいい……
誰か:私なんか居ても居なくても一緒……。
誰か:むしろ居ないほうが良いんだ……。」

 

 

0:その時僕はやっとその声の主の意識に触れることが出来た。
 

0:声の主は少女のようだった。

 


0:そっと手を伸ばして彼女の意識に触れてみる。

 

 

 

0:途端に溢れ出す彼女の苦しい記憶。


 


誰か:学校では私は存在しない扱い……今はね。

誰か:その前はいわゆる「いじめ」のターゲットとされていて毎日の通学が本当に苦痛だった

 

 

 

誰か:でも、お父さんに心配かけたくないから何も言えなかったし
誰か:学校に行かないわけにもいかなかった……。

 



僕:……だからってこの世から消えることを選ぶことはないじゃないか!

 

 

0:僕の声は彼女には届いていないようだった。

 

 

誰か:やっと溜まった薬……。これだけあれば安らかに眠れるはず……。

 

 

誰か:飲むのにはちょっと苦労したけど……
誰か:今、こんなにも穏やかな気持でいられる……。


0:年齢ははっきりわからないけど、
0:多分僕よりも年下であろうこの子が自ら命を絶ったのだと知る。


 

0:そして、今彼女は多分生死の淵を彷徨っているのだろう。

 

0:どうやら僕は、その無意識下の意識に紛れ込んでしまったようだ……。




 

 

0:僕は少しでも彼女に希望を持って欲しいと思った。
 

 


僕:こんな時に頼れるような誰かは……

 

 

 

0:夢中で闇の中を泳ぎ回り、何かしら希望がないか探し回った。

 

 

0:なんの目的物も無く、この空間の広さもわからず無闇矢鱈と泳ぎ回って
0:どのくらいの時間が経ったんだろう……?





0:僕は薄っすらと、ボンヤリとした薄明かりが射し込んで来る場所を見つけた。
0:そこを目指して必死に暗闇の中を泳ぐ。


0:そこには小さな、本当に小さな針の先程の穴があった。


0:その穴を覗いてみる。


 

 

0:そこは病室のようだった。

 

0:窓際に男の人が座っている。

0:……頭を抱えながら。


 

 

0:ああ、きっとこの子の父親なんだろうな。

 

 

0:この子は死にたがっているのに、父親は意識が戻ることを必死で願っている。

 

0:この子は一体何日意識がないんだろう?

0:僕はこの子の苦しみを共有することは出来ないけど
0:想像することは出来る。




0:だからといって、それが人生から逃げて良い、と言う理由にはならない。




0:……なぁんて偉そうに語れるほど僕の人生経験も豊富なわけじゃないけど。

 

 

0:ただ。

 

0:あの憔悴しきった父親を見たら、助かって欲しいと思ってしまうのが人情ってもんじゃないのか?

 

 


0:僕はまた彼女の所に戻る。


 

誰か:これで……何も怖いことなんてなくなる……。

 

 

 

0:安堵しきった心の声。
0:無意識下の言葉だから本心なんだろうなぁ……。


0:それをまた「現世に戻れ!」と言うのは酷(こく)なような気もするけど……。

 

 

僕:綺麗事を言うつもりはないよ。この世は理不尽なことばかりだし
僕:君はワケもなくいじめられていて辛いんだろう?

 

 

僕:でも僕は君のお父さんを見てしまったんだ。
僕:君が目覚めるのを心の底から祈っているお父さんの姿を……。

 

 

 

誰か:お……とうさん……?

 

0:初めて彼女が僕の言葉に反応した。
 

 



誰か:お父さんは……いつも私のことを一番に考えてくれてて……
誰か:でも時々それがウザくて……。


僕:わかるよ。親なんてそんなもんだ。

誰か:でも、いじめにあってるとかまでは言えなくて……
誰か:薄々は気づいていると思うんだけど……。





僕:誰かに助けを求められるなら、死のうとはしなかったよね?
僕:出来なかったから、その手段に出たんだよね。

 

 

0:彼女は静かに泣き出したようだった。
0:そんな気配が伝わってくる。



誰か:どうしたら良いかわからなかった……
誰か:とにかく辛い毎日から抜け出したかった……
誰か:私には他に方法が思いつかなかった……。

 

 

 

0:暗闇の湿度が上がった、ような気がした。

 

 

 

0:その時途端に”グッ”と引き上げられるような感覚がした。

 

 

僕:!?な、なんだ!?

 

0:今まで彼女の意識の深い深い部分に潜っていた僕は、
0:突如としてそこから引き摺り上げられているような
0:無理やり追い出されそうになっているような
0:不思議な感覚だった。

 


0:そして、僕はその力に抗(あらが)うことは出来ない……。

 

 


0:僕の意識は完全に彼女から引き離された。
 

誰か:……ん……?ここどこ……?


 

父:あっ!やっと目が覚めた!良かった……うっ……(泣)
父:今は一般病室にいるけど、一時期はICUに居て昏睡状態だったんだ……。
父:目覚めるかどうかすら危ういって、お医者さんが……。

 

 

誰か:……お父さんは?私、ハンバーガーが食べたい!

0:
0:
0:
0:

0:
僕:意識が途切れる寸前に、クスリでハイになったままの
僕:彼女の少し掠れた声が脳裏に響いた……。

#真っ暗闇

扉の向こうは真っ暗な闇の世界だった

一粒の光さえも灯っていない完全なる漆黒の世界





温度もなにもないはずなのに
僕は薄っすらと寒気を覚えた。



気がつくと、今の僕には手足は愚か胴体すらないようだ。

ただ、「僕」と言う意識だけが暗闇の中を彷徨っている。




いつも傍にいて小うるさい吾輩ちゃんも
意識レベルでは別の何処かに飛んでいってしまったようだ。




僕はこの闇の中「なにか」を求めて無闇に移動した。



「小説家になるためのなにか」があるのか、なにもないのか。
そもそも「この世界」からの出口があるのか。
全くわからないままに意識だけが縦横無尽に暗闇の中を飛び交っていく。







誰か:「このままでいられるのかな……」




どこかからか細い声が聞こえた……気がした。




僕はその声が聞こえた方に向かって進む。




誰か:「私はこのまま……消えられるのかな……?」





声の主は……消えたいのか……?





ここは……この声の持ち主の意識の中……?





僕はこの声の主と意思疎通が出来るのだろうか?









白金ライト:「君は……消えたいの?」




反応はない。
僕の声が届いているのかいないのか。





誰か:「このままでいい……このまま消えてしまえばいい……
誰か:私なんか居ても居なくても一緒……。
誰か:むしろ居ないほうが良いんだ……。」







その時僕はやっとその声の主の意識に触れることが出来た。


声の主は少女のようだった。






そっと手を伸ばして彼女の意識に触れてみる。





途端に溢れ出す彼女の苦しい記憶。







誰か:学校では私は存在しない扱い……今はね。

誰か:その前はいわゆる「いじめ」のターゲットとされていて毎日の通学が本当に苦痛だった






誰か:でも、お父さんに心配かけたくないから何も言えなかったし
誰か:学校に行かないわけにもいかなかった……。








白金ライト:……だからってこの世から消えることを選ぶことはないじゃないか!




僕の声は彼女には届いていないようだった。




誰か:やっと溜まった薬……。これだけあれば安らかに眠れるはず……。





誰か:飲むのにはちょっと苦労したけど……
誰か:今、こんなにも穏やかな気持でいられる……。


年齢ははっきりわからないけど、
多分僕よりも年下であろうこの子が自ら命を絶ったのだと知る。



そして、今彼女は多分生死の淵を彷徨っているのだろう。



どうやら僕は、その無意識下の意識に紛れ込んでしまったようだ……。



#微かな光






僕は少しでも彼女に希望を持って欲しいと思った。




白金ライト:こんな時に頼れるような誰かは……







夢中で闇の中を泳ぎ回り、何かしら希望がないか探し回った。





なんの目的物も無く、この空間の広さもわからず無闇矢鱈と泳ぎ回って
どのくらいの時間が経ったんだろう……?






僕は薄っすらと、ボンヤリとした薄明かりが射し込んで来る場所を見つけた。
そこを目指して必死に暗闇の中を泳ぐ。


そこには小さな、本当に小さな針の先程の穴があった。


その穴を覗いてみる。





そこは病室のようだった。



窓際に男の人が座っている。

……頭を抱えながら。





ああ、きっとこの子の父親なんだろうな。




この子は死にたがっているのに、父親は意識が戻ることを必死で願っている。



この子は一体何日意識がないんだろう?

僕はこの子の苦しみを共有することは出来ないけど
想像することは出来る。





だからといって、それが人生から逃げて良い、と言う理由にはならない。




……なぁんて偉そうに語れるほど僕の人生経験も豊富なわけじゃないけど。





ただ。



あの憔悴しきった父親を見たら、助かって欲しいと思ってしまうのが人情ってもんじゃないのか?





僕はまた彼女の所に戻る。




誰か:これで……何も怖いことなんてなくなる……。




安堵しきった心の声。
無意識下の言葉だから本心なんだろうなぁ……。


それをまた「現世に戻れ!」と言うのは酷(こく)なような気もするけど……。




白金ライト:綺麗事を言うつもりはないよ。この世は理不尽なことばかりだし
白金ライト:君はワケもなくいじめられていて辛いんだろう?





白金ライト:でも僕は君のお父さんを見てしまったんだ。
白金ライト:君が目覚めるのを心の底から祈っているお父さんの姿を……。







誰か:お……とうさん……?



初めて彼女が僕の言葉に反応した。





誰か:お父さんは……いつも私のことを一番に考えてくれてて……
誰か:でも時々それがウザくて……。


白金ライト:わかるよ。親なんてそんなもんだ。

誰か:でも、いじめにあってるとかまでは言えなくて……
誰か:薄々は気づいていると思うんだけど……。




白金ライト:誰かに助けを求められるなら、死のうとはしなかったよね?
白金ライト:出来なかったなら、その手段に出たんだよね。




彼女は静かに泣き出したようだった。
そんな気配が伝わってくる。



誰か:どうしたら良いかわからなかった……
誰か:とにかく辛い毎日から抜け出したかった……
誰か:私には他に方法が思いつかなかった……。






暗闇の湿度が上がった、ような気がした。


 

その時途端に”グッ”と水面に引き上げられるような感覚がした。




白金ライト:!?な、なんだ!?



今まで彼女の意識の深い深い部分に潜っていた僕は、
突如としてそこから引き摺り上げられているような
無理やり追い出されそうになっているような
不思議な感覚だった。



そして、僕はその力に抗(あらが)うことは出来ない……。




僕の意識は完全に彼女から引き離された。


誰か:……ん……?ここどこ……?




父:あっ!やっと目が覚めた!良かった……うっ……(泣)
父:今は一般病室にいるけど、一時期はICUに居て昏睡状態だったんだ……。
父:目覚めるかどうかすら危ういって、お医者さんが……。






誰か:……お父さん、私、ハンバーガーが食べたい!







意識が途切れる寸前に、クスリでハイになったままの
彼女の少し掠れた声が脳裏に響いた……。




―間―




そしてどこからか聞き慣れた声が聞こえて来た。


吾輩ちゃん:ライト君!やっと見つけたにゃ!どこ行ってたにゃ!
吾輩ちゃん:何か得るものはあったかにゃ?



白く輝く部屋で覚醒したと思った途端、
目の前に見慣れた白猫と扉が現れた。

ああ、そうだ、こいつは「吾輩ちゃん」だ。

僕は何か答えようとしたが、またもや抗えない力に
強制的に押し出されるように
扉を抜けた



-END―

―おかしな一日―


ゾサンの家の家の扉をノックするペンペ

ペンペ:こんにちわー!……ってあれ?二ワンも来てたの?
ペンペ:なんでボクだけ仲間外れ~?ズルいじゃーん!

ゾサン:呼んでないし!二ワンもペンペも!!!
ゾサン:あと!!勝手にドア開けてからノックするのやめてっていつも言ってるでしょ!

ペンペ:あ~、いつもドア開けてから気付くんだもん、ごめんね?
ペンペ:で、二ワンはなんで今日ゾサンの家に来たの?

ニワン:今日はねぇ……特別な日だって君たち知ってた?

ゾサン:へ?
ペンペ:へ?

ニワン:今日は「ほわいとでー」って言って、「ばれんたいんでー」に「ちょこれーと」を貰った人が
ニワン:お返しお菓子をあげる日なんだって!

ゾサン:ほわいとでー?ばれんたいんでー?なにそれ?

ペンペ:ちょこれーと……(ジュルリ)

ニワン:本当に相変わらず君たちはなんにも知らないんだなぁ!(エッヘン)
ニワン:とにかく!プレゼント交換をする日なんだよ!1ヶ月ずらして!

ゾサン:でも、「ほわいとでー」は「ばれんたいんでー」に「ちょこれーと」を貰った人だけが関係あるんじゃないの?
ゾサン:ボク、「ばれんたいんでー」に何ももらってないよ?

ペンペ:ボクも……チョコレート欲しかったなぁ……(遠い目)

ペンペ:(ハッとして)ニワン!なんでそんなイベント知ってたならボクらにチョコレートくれなかったのさ?

ニワン:ご、ごめんね?だから今日こうしてゾサンの家に来たんだよ!
ニワン:(ボソッと)って言うか、ボクもちょこれーともらうまでばれんたいんでーとか知らなかったし……。

ゾサン:えっ!?二ワンちょこれーと貰ったの!?ずるい!

ペンペ:そうだよ!するいよ!1人で食べちゃうなんて!

ニワン:えっ?だ、だって貰ったのはボクだし……

ペンペ:誰にもらったの?

ニワン:……テテぽんが送ってくれた……

ペンペ:あー……じゃあしょうがないかなぁ……じゃなくて!
ペンペ:テテポンならなんでボクらみんなにくれないの!

ゾサン:そうだよ!ひいきだ!
ゾサン:で、二ワンは1個しか貰わなかったの?

ニワン:……3個、貰った……

ペンペ:ええっ!?だったらみんなで分けられたのに1人で食べちゃったの?
ペンペ:ますます許せないなぁ!ボクたち友達だよねぇ?(プンプン!)

ニワン:だ、だって全部もらったの夕方とか夜とかで……
ニワン:3個って言ったって1個はお母さんがチョコレートケーキを焼いてくれたから家族で食べただけだし……

ゾサン:それにしたって「今日はちょこれーとの日だよ!」て教えてくれてもよくない?わかった時点でさ!
ゾサン:そしたらボクら3人でちょこれーとの交換だって出来たじゃないか!

ニワン:だ、だからね?それが出来なかったから今日ゾサンの家に来たんだってば!
ニワン:ペンペも呼ぶつもりでね!

ペンペ:あ、「お返しの日」って言ってたね!やっぱりお菓子をあげるの?

ニワン:お菓子じゃなくてもいいんだけど、ペンペもゾサンもお菓子が好きだろう?
ニワン:だからみんなでお菓子を作って、お互いにプレゼントし合おうと思ってさ!
ニワン:どうだい?いい考えじゃない?

ペンペ:ボク、お菓子は食べる専門だからなぁ……あんまり得意じゃないんだけど……

ゾサン:大丈夫だよぉ!ボクがちゃんと教えてあげるから!
ゾサン:前に作ったことあるって言ってたじゃん!一緒に作ったこともあるじゃん!

ニワン:そうだよ!それを言うならボクの方がお菓子作り初心者だよ!

ペンペ:一番作らなきゃいけないのはニワンでしょ!お返しもしなきゃなんでしょ!

ニワン:あ、そうだった。ぜ、全部で5個も作らなきゃいけないのか……。

ゾサン:え?3個貰ったなら6人分作らなきゃいけないんじゃないの?

ニワン:1つは田舎のおばあちゃんからだったんだよね……
ニワン:総入れ歯で歯が悪いから「お返しは要らないわよ」って手紙が入ってたんだぁ(笑)

ペンペ:あはは!おしゃれなおばあちゃんだね!えーと、おばあちゃんの日になにかプレゼントしたら良いよ!

ゾサン:ボクそれ知ってる!秋にあるんだ!「ケイロウの日」ってヤツ!

ニワン:「啓蒙の日」……?今更うちのおばあちゃんに何を啓蒙してあげれば良いんだろう?

ペンペ:「ケイモウ」じゃないよ!「ケイボウの日」だって!不審者?がきたら危ないから防災用品としてケイボウを送る日じゃない?

ゾサン:2人とも違うってば!「け・い・ろ・う」だよ!お年寄りを大事にする日だよ!

ニワン:なーんだ!最初からそう言ってよ!

ペンペ:ボクも聞き間違えちゃった!てへぺろ!

ゾサン:もう!わざとじゃないの?

ニワン:そ、そんなことないよ!色々考えること多いからそっち方面にアタマが……

ペンペ:二ワンは賢いんだか天然なんだかわからないなぁ。ま、それが二ワンの良いところだけどね!

ニワン:褒められてるのか……?

ゾサン:それより!今日はお菓子の日なんでしょ!お菓子の交換会するにはお菓子作りしなきゃだよね?
ゾサン:早速始めようよ!ボクんちにお菓子の材料がいつも揃ってるって知ってるから
ゾサン:二ワンはウチに来たんだよね?

ニワン:そうそう。ゾサンの家には基本材料が殆ど揃ってるからね。

ゾサン:でも、フルーツとか、飾り用のものとかはないよ?

ペンペ:じゃあ買い出しに行こう!ついでに3人でお昼も食べよう!

ニワン:それは良いけど、何を作るか決めてからいかないと……。必要な材料がわからないだろ?

ゾサン:ズバリ!ペンペは街で食べるお昼のことしかもうアタマになかったんだな!

ペンペ:ギック――!そそそ、そんなことないよ!ちゃんともうなんのお菓子作るか考えてあったもん!

ニワン:ホントに?

ペンペ:ほ、ホントに。

ゾサン:なに作ろうとしたのか言ってみてよ!

ペンペ:り、りんごのケーキ……。

二ワン:いーじゃん。

ゾサン:意外……マトモな答えが返ってきた!
ゾサン:二ワンは決まってる?

ニワン:あ~……慣れてないから無難にクッキーにしとこうかなぁって……

ゾサン:それが良いかもね。あちこちにお返しもしなきゃだし。

ペンペ:ゾサンは決めた?

ゾサン:うん。ボクは何人かに分ける時はブラウニーを作ることが多いから……
ゾサン:今回もそれにしようと思ってるよ!

ペンペ:それ、ちょこれーとのだよね?わぁ、早く食べたい!

ゾサン:こらこら!まだ材料も揃ってないのに気が早いよ!

ニワン:作るものが決まったなら早速買い出しに行こうか!

ペンペ・ゾサン:うん!


―間―


ペンペ:ふわ~!お腹いっぱい!あのお店のシチューのパイ包み焼きはいつも絶品だね!
ペンペ:さて、帰ろっか!

ニワン:ちょっと!何言ってるの!お昼ごはん食べるために街に来たわけじゃないんだよ?

ゾサン:そうだよ!まだ果物屋さんでペンペが使うりんごしか買ってないだろー!
ゾサン:製菓材料店でお菓子の材料買わなくちゃいけないんだよ!

ペンペ:せいかざいりょうてん……?

ゾサン:お菓子を作るための材料を色々売ってるおみせだよ!
ゾサン:あっちの路地の奥に、小さいけど色々揃ってる良いお店があるからそこに行こう!

ニワン:ボクはクッキーの飾り付け用にアイシングの材料買わなきゃなぁ……

ゾサン:ボクも製菓用チョコ買っとくよ。ペンペは……特に要るものないかな。

ペンペ:そうなの?

ゾサン:だって、りんごと、万能の「こむぎこ」と砂糖はぼくんちにあるもの!

ペンペ:そうなんだ……。卵とかバターとかも?

ゾサン:もちろん!

ペンペ:じゃあボクはお菓子の材料屋さんには行かないや!その辺の露店を見てブラブラしてる!

ニワン:え、なんでだよぉ!きっと面白いから一緒においでよ!……って行っちゃた……。

ゾサン:ペンペはどうせ露店で食べ歩きしたいんだよ(笑)今ご飯食べたばっかりなのにね!
ゾサン:ペンペらしいなぁ!これからお菓子作って食べるっていうのに……。

ニワン:まったく、ペンペはいっつも食い意地が張ってるなぁ……。まぁそれがぺんぺだけどね。
ニワン:あ、アイシングの材料揃えて自分で作ったほうが良いかなぁ?

ゾサン:描くだけで済むアイシングペンも売ってるだろうから、それで済ませても良いんじゃん?
ゾサン:(店のドアを開けながら)こんにちはー!お久しぶりです、お邪魔しまーす!


―間―

ペンペ、露店であんず飴を買って舐めながらブラブラしている。
と、大通りからは外れた路地に小さな屋台を見つける

ペンペ:あれ?あんな寂しいところでお店出してる人がいる……
ペンペ:何を売ってるのかなぁ?ちょっと見てみようかなぁ……。

商人:おや、いらっしゃい。何か探し物かい?

ペンペ:ううん。こんな寂しいところにお店出してるから何を売ってるのかと思って見に来たんだよ。

商人:私は占い師……とは言ってもご覧のようにお客さんはさっぱりだから……
商人:良かったらアンタ、視てあげようか?

ペンペ:え。別にボクは占って欲しい事なんてないからいいよ!

商人:そうかね。そりゃ残念。でもアンタ、これからお菓子を作るね?

ペンペ:わ!スゴい!そんなの見て分かるの?

商人:一応占い師だからねぇ……。人相も視られるよ?
商人:……ケーキを焼くんだね?

ペンペ:ふわぁ……。そこまでわかるの?

商人:フッフッフ……。ケーキを焼くのに良いのを持ってるよ?

ペンペ:良いの?なにそれ?

商人:ケーキを焼く時膨らまなくて失敗する人が多いんだよ。
商人:それを……(ゴソゴソ)この粉を使えば失敗なく焼けるっていう魔法の粉だよ。

ペンペ:スゴい!ボク初めてケーキ作るからそれ頂戴!

商人:普通のふくらし粉じゃないからね……。高いよ?

ペンペ:い、いくら?

商人:1袋千ピリオ。

ペンペ:えっ!?高っ……。ボクそんなにお金持ってないよ……。

商人:仕方ないねぇ……じゃあ500ピリオに負けてあげようか。

ペンペ:そ、それならなんとか……でも……(お財布を覗きながら心細そうにする)

商人:なるほど。500ピリオ出したらすっからかんになってしまうんだね。
商人:じゃあ特別に300ピリオにしてあげよう。それ以上は負けられないよ?

ペンペ:ホントに?ありがとう!じゃあボク買うよ!

商人:この粉のことは他の人には内緒だよ?こんなに安く売ることなんてまずないんだから!

ペンペ:うん!わかった!ボク頑張ってケーキ作るね!


―間―

ゾサン:あっ、ペンペ!こんなところに居たのかい?随分探したよ?

ペンペ:ご、ごめんね!露店見て歩いてたら意外とお店から離れちゃって……。

ゾサン:あれ?ペンペ、あんず飴しか食べてないの?普段なら両手に食べ物持ってるじゃん。

ペンペ:え、えーっと……。そう!これからイカ焼きを買おうかアイスにしようか迷ってた所だったんだよ!

ニワン:そんなに食べてからゾサンの家でお菓子まで食べたら絶対にお腹壊すよ?
ニワン:あんず飴だけでやめておきなよ?

ペンペ:わ、わかった。今日は我慢するよ!

ペンペ(N):イッヒッヒ!立派なりんごケーキを焼いて2人をビックリさせちゃおーっと!


―3人、ゾサンの家に帰る。
―キッチンでバタバタとお菓子作りの準備を始める


ゾサン:さぁてっと!じゃあ準備にかかるよ!みんなこむぎこは使うから分量を計ってしっかり振るってね!
ゾサン:ちゃんと振るわないとダマになるから気を付けて!

ペンペ・ニワン:はーい!

ゾサン:あ!二ワンはココアクッキーも作るんだよね?「こむぎこ」を半分に分けて
ゾサン:片方には「ココア」も一緒に入れて振るってね?

ニワン:おっけー!

ゾサン:ケーキを作るペンペはふくらし粉も一緒にね!まんべんなく振るわないとしっかり膨らまないから
ゾサン:頑張ってね!

ペンペ:まぁかしといて!へへっ!(ニヤニヤ)

ペンペ:(N)ボクには秘密兵器があるから膨らまないなんてことはないもんね~!
ペンペ:(N)出来上がりが楽しみだなぁ~♪


―各自それぞれの作業を行う(「カチャカチャ」みたいなSEあれば入れる)


―間―

―3人でケーキ類が焼き上がるのを待ちながらお茶を飲んでいる。



ニワン:ふぅ……。とりあえずボクのクッキーはきれいに焼けたよ。ありがとう、ゾサン!

ゾサン:二ワンが頑張ったからだよ。冷めたらアイシングペンでデコって完成だね!

ペンペ:でもスゴいね、ゾサンの家にガスオーブンまであるなんて……。
ペンペ:ボクのケーキとゾサンのブラウニー、こうして同時に焼けてるんだから。

ゾサン:昔この家に住んでたおばあちゃんがお菓子作りが大好きでさ。
ゾサン:その時に使ってたガスオーブンを引っ張り出してきたんだよね。
ゾサン:ボクも使うの初めてだけどうまく焼けたら良いなぁ……。

ニワン:いつもは今ペンペが使ってる電子レンジのオーブン機能で焼いてたもんね。

ゾサン:うん、そう。ボクよりもペンペのほうが心配だからね。

ペンペ:(N)ありがたいけど……ちょっと複雑だなぁ……。まぁいっか!

ゾサン:ニワン、出来上がったらすぐラッピングして送れるように準備しといた方が良いんじゃない?

ニワン:ああ、そうだね。さっき文房具屋さんでラッピング用品買っておいたから先に準備しておくよ!

ペンペ:ヤギの郵便屋さんに集荷のお願いはしなくていいの?

ニワン:あ、そっかぁ……。でも何時に出来上がるかわからないし……。

ゾサン:出来上がったら郵便屋さんの所に持って行けばいいじゃん!ボクんちからそんなに遠くないし!

ニワン:そうだね!そうするよ。どうせ着くのは明日だしね!

ペンペ:……?明日は「おかしの日」じゃないけど、良いの?

ニワン:良いんじゃない?「おかしの日に作る」っていう方が大事だよ!

ゾサン:そうだよ!それに「なんでもない日にお菓子が届いた!」っていう方が嬉しいよ!

ペンペ:そっかぁ……。(納得いかない顔)


―ニワン、紅茶の残りを飲み干して席を立つ。

ニワン:じゃ、ラッピングの準備してくるね!

ゾサン:うん!ボクらもケーキの焼け具合見に行こうか?

ペンペ:うん!気になる気になる!


―間―

ペンペ:わ!ゾサン、見て見て!こんもり膨らんでるよ!うっすら焦げ目も付いてるし!

ゾサン:良かったね~!……ってボクが用意してたふくらし粉の缶、開けてた?

ペンペ:(ギクッ)ちゃ、ちゃんと開けたよ!使ってすぐに閉めたんだよ!
ペンペ:でなきゃこんなにきれいに膨らむはずないだろう?

ゾサン:そうだね!ボクの方はどうかなぁっと……。
ゾサン:うんうん、いい感じに盛り上がってきてる!上手く行きそう!

ペンペ:お互い良かったねぇ!

ゾサン:そうだねー!あとは二ワンのデコレーションが上手く行けば完璧だ!


―ニワン、戻ってくる

ニワン:ラッピングの準備はできたよ!クンクン……甘くていい香りがするね!

ペンペ:もうすぐ焼き上がるよ!その間にニワンのデコレーションしちゃおうよ?

ゾサン:そうだね。ただ焼き上がり待ってるの、じれったいもんね!

ニワン:え、2人とも手伝ってくれるの?

ペンペ:えー?手伝ってもいいけど……。

ゾサン:ボクら、二ワンから貰うんだよね?

ニワン:くっ……。そうだった……。ここは自分で頑張らなきゃだめだね……。

ゾサン:あんまり凝った模様にしなければ良いよ!

ペンペ:ボクは食べられれば何でも良いよ!

ニワン:あはは!ペンペらしいなぁ!ゾサン、困ったら手伝ってね?

ゾサン:良いよ!


―二ワンがクッキーをデコるのを2人が見つめる

―少しの間


ニワン:よっと……しょっと!

ペンペ:ニワン、上手いじゃん!

ゾサン:ほんとほんと!これじゃボクの手伝いなんか要らないね!

ニワン:うん。やってみたら普段してる「落書き」とあんまり変わらなかった!
ニワン:便利だねぇ、このペン!

ゾサン:じゃあ次回はアイシングの材料から作るところからチャレンジしてみる?(ニヤニヤ)

ニワン:そ、それはちょっと……(焦る)

ペンペ:ほら、あと半分くらいあるじゃん!頑張って描いてね!楽しみにしてるよ!

ニワン:ありがと!そっちのケーキは?

ゾサン:あ、そうだ!そろそろ焼き上がるね。様子を見てこよう!

ペンペ:うん!


―間ー


ゾサン:へっへっへ。

ペンペ:ヒッヒッヒ。

ニワン:フッフッフ。
ニワン:ジャジャーン!全員のお菓子が~出来ましたぁ!

ゾサン:イェーイ!

ペンペ:ヒューヒュー!

ニワン:じゃあ交換会だ!はい、ペンペ。いつも遊んでくれてありがとう!

ペンペ:ボクの方こそありがとうだよ!はい、どうぞ!
ペンペ:これはゾサンの分!色々教えてくれてありがとう!

ゾサン:こちらこそ!いつも仲良くしてくれてありがとう!はい、これ!
ゾサン:二ワンのはコレね!困った時に助けてくれるのホントありがたいよ!

ニワン:どういたしまして!はい、ゾサンの分はコレだよ!
ニワン;これで全員交換し終わったね!

ペンペ:そうだね!

ゾサン:どれから食べようか……。どれも美味しそうで迷っちゃうなぁ……?

ペンペ:じゃあボクの!ボクの自信作だから食べてみて!まだ温かいし!

ニワン:そうだね。あ、ゾサン。悪いけどお茶淹れてくれる?せっかくだから……。

ゾサン:良いよ!さっき紅茶飲んだから今度はコーヒーにしようか?

ニワン:良いねぇ。

ペンペ:早く食べたいから急いでね!

ゾサン:わかったよ!(笑)


―少しの間―

ゾサン:はい、コーヒーお待たせ!

ペンペ:わーい!いただきま~す!(もぐもぐ)

ニワン:へぇ……。キレイに焼けてるねぇ!いただきま~す!(むぐむぐ)

ゾサン:初めて作ったとは思えないねぇ!いただきま~す!(ムシャムシャ)

3人:美味しいっ!!!

ゾサン:りんごの甘酸っぱさと

ニワン:ケーキの優しい甘さが相まって

ペンペ:魅惑のハーモニーを奏でてるねっ!

ゾサン:自分で言うかぁ?(笑)

ペンペ:えへへ、上手く出来たから嬉しくてつい(笑)

ニワン:じゃあ次はゾサンのブラウニー、食べてみようかな。コーヒーに合いそうだし。

ペンペ:だね!あーん……むぐむぐ……。わぁ……ちょこれーとだ!!!

ニワン:ホントだぁ……。しっかりちょこれーとの味がするね!

ゾサン:えへへ(照れ)ちょと奮発して「良いちょこれーと」使ってみたんだ。上手く焼けてよかった!

ニワン:(コーヒーを啜り)うん、コーヒーとの相性もバッチリ!

ペンペ:じゃあ次は二ワンのクッキーだね……って!かっわいい!

ゾサン:ホントだぁ!あれ?もしかして……コレ、ボクの似顔絵?

ニワン:へへへ……わかった?

ペンペ:あ、ボクのにも入ってる!二ワンはお絵描きが上手だねぇ!

ニワン:味も見てくれよう!

ゾサン:わかってるよぉ(笑)似顔絵のは取っといて……っと……(もぐもぐ)
ゾサン:わ!ちゃんとサックサクだぁ!

ペンペ:ホントホント!まるで買ってきたクッキーみたいに美味しい……(ガツガツ)

ニワン:こらこら!そんなに慌てて食べなくても……まだ……たくさん……あれ……?

ゾサン:ど……したの?ニワン……。って言うか、ボクもなんだかアタマが……ふらふら……して……

ペンペ:あれ……?なんでゾサンもニワンも……2人ずつ……いるの?

ニワン:何いってんだよ……。うっ……ボーっとして……キモチワル……

ゾサン:ぼ、ボクも……な……んで……

ペンペ:ま、まさか……あの「ふくらし粉」のせ……(意識不明)

ニワン:ペンペ?ふくらし粉がどうしたって……?……ああ……ダメだ、アタマが朦朧として……(意識不明)

ゾサン:ペンペ!ニワン!……くっ……。やっぱり……ボクんちのふくらし粉、使わなかったのか、ペン……(意識不明)


―長めの間―

―二ワンが意識を取り戻す

ニワン:ハッ!一体何が起こったっていうんだ?3人でお菓子を食べてコーヒーを飲んで……
ニワン:って、もう外真っ暗じゃないか!おい!ペンペ!ゾサン!起きろってば!!(2人を揺する)

ペンペ:う~ん……もう1切れ頂戴……

ニワン:夢の中でまでケーキ食べてるのか、コイツは……。ゾサン!起きろよぉ!

ゾサン:ん……ニワン?なんでウチにいるんだい?……て!
ゾサン:(ハッとして)わっ!もう夜になってる!どういう事!?

ニワン:わからないけど……多分ペンペのケーキが原因だろうな……
ニワン:ふくらし粉がどうこう言ってたし……

ゾサン:こらっ!いい加減起きろよぉ!(ポカッ)

ペンペ:痛っ!何するんだよぉ!このケーキはボクのだよ?

ニワン:その「ボクのケーキ」に何入れたんだ?ペンペ。

ペンペ:あ……(やっと覚醒)
ペンペ:えっと、その……露店で「絶対膨らむふくらし粉」を売っててそれを……

ゾサン:やっぱりか!怪しいったらないじゃないか!変な薬だったんだよ、きっと!
ゾサン:ペンペはまたそんなのに騙されて怪しいものを……

ペンペ:(遮って)それよりニワン!早くラッピングしてヤギの郵便屋さんちに行かないと
ペンペ:お菓子、明日届かないよ?

ニワン:あっ!そうだった!大変だ!2人とも!ラッピング手伝って!

ゾサン:わ、わかった!

ペンペ:急げ―!!!!(ホッ)


N:こうして3人の「おかしな一日」は、今日もバタバタと暮れていったのでした……。


==終わり==

白百合の花言葉=「自尊心」「甘美」そして「誇り」……

 

0:
0:#1
0:
0:―舞、朝の教室で一人つまらなそうにスマホをいじっている。
0:―他にもクラスメートはいるが誰も舞に声を掛けようとはしない。
0:
0:―登校してきた歩美が舞を見つけ、声を掛ける。
0:
歩美:おはよう。え、なに、もうそこまで進んだの?
舞:(ハッとして)な、なんだ、歩美かぁ……。脅かさないでよ!おはよ!
舞:うん、昨日、家帰ってからずっとプレイしててここまでクリアした
歩美:マジでぇ……私なんか試験勉強しろー!ってお母ちゃんにスマホ取り上げられちゃって……
舞:あー、だからジョインしてこなかったんだ。ってか試験までまだあと2週間あるじゃん?
歩美:私は舞みたいに頭良くないから……。赤点も時々採るし……
舞:……(小声)する?
歩美:え?
舞:一緒に、勉強する……?わかないとこあったら、教えてあげれるかもだし
歩美:……いいの?
舞:……私は良いけど、歩美良いの?周り見てみなよ?
歩美:?
0:
0:―歩美が気付くと、クラスメート達は遠巻きにヒソヒソとこちらを見ながら何かを話している。
0:
0:
歩美:気にしないよ。私はもう決めたの。こんな田舎で凝り固まった考えしか持ってない人たちの事は気にしない、ってね。
舞:……そっか。歩美がそういうなら、私はなんも言わないけど。でも困るのは……
歩美:(被せて)「歩美だよ?」とか言わないよね?お互い様でしょ?
舞:……そっか……。そうだね……
0:
0:―二人、クスクスと笑う
0:
歩美:(N)田舎の片隅で暮らしている、頭の凝り固まった人たちなんかに、私は、私達は負けない……。
0:
0:
0:―以下、歩美の回想―
0:
0:
歩美:(N)舞がこの田舎町の高校に転校してきたのは、夏休みが明けてすぐの事だった。
歩美:(N)東京から車で四時間弱。都心からそんなに遠いわけではないのに最寄り駅には在来線しか停まらないせいか、観光地としての方が有名だ。
歩美:(N)高校二年の秋、大学受験も控えてるって言うのにわざわざこんな田舎に引っ越して来るなんてちょっと変わった女の子だなぁと言うのが舞に対する第一印象だった。
0:
0:
舞:どもっ!オヤジの仕事の都合で転校してきた上村舞です!趣味はお菓子作りとかー、あとはバスケとか読書とか映画鑑賞とか。よろしくお願いします♪
0:
歩美:(N)色が抜けたような、ふわふわの髪。
歩美:(N)新品の制服はオシャレに着崩(きくず)されていて。彼女は私達地元民とは明らかに違う空気をまとっていた
0:
歩美:(N)最初にザワついたのは男子の皆さんだった。そりゃ当然だろう。
歩美:(N)都会からいきなり“まるでファッション雑誌から飛び出してきたかのような可憐な美少女”が来たんだからな。
歩美:(N)小中高と、同じ顔ぶれで育って来た彼らにしてみれば青天(せいてん)の霹靂(へきれき)と言っても良いくらいの出来事だ
歩美:(N)ちょっと気が利(き)いて勉強の出来る連中は、通学に片道1時間半かかる隣町の高校に進学してったからね……
0:
舞:あ、隣の席なんだね?よろしく!お、なんか難しそうな本読んでるじゃん?面白い?それ
0:
歩美:(N)担任に指定された窓際の席に座った彼女は、隣の男子に気易く話しかけていた
歩美:(N)地味な万年図書委員の彼があんなに慌てている姿を見た事がある人物は、多分いないだろう
歩美:(N)それくらい、舞の転入っていうのは私達の退屈な毎日の中で衝撃的だったんだ……
0:
0:
0:
歩美(N)……良くも、悪くも……
0:
0:
0:#2へ
0:
0:
0:#2
0:
舞:え?転校してきた理由?お父さんの転勤だけど……。ほら、ダムあるでしょ?この町。あそこに赴任して来たの
0:
歩美:(N)彼女は休み時間に一部の男子に囲まれて質問攻めにされていた。その答えが聞こえてくる
0:
舞:単身赴任させたらウジが湧いちゃうって(笑)私、家事全般バッチリなんだよ!
舞:母親?まだ私が小さい頃に事故で……ね。あ、そんなに気にしないで!もう全然大丈夫だから
0:
歩美:(N)笑顔で質問に答えている舞の声を、耳をそばだてて聞いていたのは私だけじゃなかった
歩美:(N)クラス中の全員が別の事をしてるフリをしながら、耳だけは彼女の声に集中していた
0:
舞:進学は……そりゃあ東京にいたほうが通学は楽だけど、一応お父さんの赴任予定が2年だから、進学する頃には帰れるかなーって
舞:それに、ここの県庁所在地にある国立大、そこそこ有名じゃん?いざとなったらそこでも良いかなぁって……
0:
歩美:(N)サッと教室に緊張が走った。あの大学はAランクとは言わないまでも彼女の言う通りそこそこ有名。
歩美:(N)……そして、当然それなりに頭が良い人しか入れない。そんな大学を「いざとなったら」って……
0:
歩美:(N)成績でトップの座を譲ったことのない、クラス委員で生徒会長でもある、この学校を実質牛耳ってる戸川さんのメガネがキラリと光った
歩美:(N)どうやら彼女は転入早々ヤバい相手を敵に回したようだ……
0:
歩美:(N)私は「触らぬ神に何とやら」で彼女のことは無視することにした
歩美:(N)戸川さんの視線に気付いたクラスの大半の彼女らが同じ事を考えただろう
歩美:(N)しかし、そんな当初の私の気持ちを無視してこの後「触りたくない彼女」と深く関わることになろうとは……
0:
0:
0:―放課後、昇降口にて。
0:
歩美:うわぁ……。結構本降り(ほんぶり)じゃん……。今朝の天気予報で雨とか言ってたっけ?
0:
歩美:『あ、そっか。今朝寝坊して慌ててたから出掛けに天気予報チェックするの忘れてた……。参ったなぁ……。』
舞:傘ないの?良かったら一緒に入る?私、バス停までだけど……。えっと、同じクラスの……
歩美:吉田。吉田歩美
舞:ごめんね、まだ名前全員覚えられてなくて。そんなに人数いないのにね(笑)で、バス通(つう)?
歩美:ううん、私はチャリだけど……この雨の中チャリはちょっとツラいかな……。山道だし。
舞:だよねぇ。私もチャリ乗るの好きだけど、さすがに毎朝この山道通学してきてから授業受けるとなると寝ない自信ないからさ(笑)
歩美:でも、バスだと本数少ないでしょ?
舞:そうなんだよね、終バスも早いし。家族に迎えに来て貰うって訳にもいかないからね、私は。部活も入りたいけど物理的に無理だよねぇ……
0:
歩美:(N)さっきまで名前も知らなかった私とこんなにペラペラ話せるっていうのは一種の才能だよね……。
歩美:(N)普段人見知りで決まった子たちとしか殆ど話をしない私も、さっきまで関わりたくないと思っていたこの人と話している事を楽しく感じている
歩美:(N)そんな自分の中の矛盾に戸惑いながらも、私は彼女のペースに飲み込まれてしまっていた……。
0:
0:
舞:吉田さんは部活入ってないの?
0:
歩美:(N)急に問い掛けられて我に返る
0:
歩美:お、私は一応部活っていうか漫研(まんけん)に所属はしてるけど……
舞:あははっ!その様子だとろくに活動してないな?
歩美:ちゃ、ちゃんと漫画描いてる人なんて殆どいないよ!みんなアニメのDVD見てたりゲームしてたりとか……
舞:楽そうじゃん?オタクの楽園って感じ?
0:
歩美:(N)そういう言われ方すると普通ムカつくもんなんだろうけど……なんでだろう。この人の言い方からはオタクをバカにしたり蔑(さげす)むような響きは感じなかった……
0:
舞:ん?何不思議そうな顔してんの?
0:
歩美:(N)いつの間にか私たちは一つの傘に入ってバス停に向かって歩いていた
0:
歩美:いやぁ……。貴女バスケが好きだって言ってたでしょ?だからオタク系の事は……バカにされるかなぁと……
舞:なによぅ、そっちこそ偏見!(笑)私だってアニメも見るしゲームだってするよ?それに球技は一人じゃ出来ないし……
0:
歩美:(N)さっきまであんなに明るく眩しく見えたこの人の顔に、フッと影が落ちたような気がした。ほんの一瞬のことだったけれど。
0:
舞:割とゆるい感じなら、私も漫研入ろっかなぁ……。課外活動してたほうが内申点いいでしょ?
歩美:まぁ、そうだろうけど……
0:
歩美:(N)校内での漫研の評判は決して良いものではなかったが……それは今は黙っておこう
歩美:(N)そんな話をしているうちに私たちはバス停に着いた
0:
0:#3へ
0:#3
0:
歩美:家、どこなの?
0:
歩美:(N)私は傘に”入れて貰った側”なのに、入れてくれた彼女の肩はグッショリと雨で濡れてしまっていた
歩美:(N)それに気付いた私はなんだか気まずくなって、何となくそんな事を口走っていた
0:
舞:スーパーの、2つ先のバス停あるでしょ?あそこの近くのマンション。お父さんの会社が借り上げしてるんだ
歩美:えっ?30分以上かかるんじゃないの?風邪引くよ?
0:
歩美:(N)まだ初秋とは言え山沿いの空気は冷たい。都会から来たお嬢さんがこの山の底冷えした空気に耐えられるのかな?と私は不安になった
0:
舞:大丈夫だよ(笑)部活やってた時は普通に雨の中走らされてたし
歩美:東京とこっちじゃ気温が違うでしょ?私んちは次のバス停からすぐだから……良かったら温まってけば?
舞:え……良いの?
歩美:だって、貴女が濡れたの私のせいじゃ……
舞:(遮って)私が勝手に濡れたんだよ!貴女のせいじゃ……(だんだん小声)
0:
歩美:(N)そう言いながら少しうなだれるこの人……上村さんは、なんだか捨てられた子犬のように見えた……
0:
0:
舞:……い、良いの?お邪魔しても……
歩美:うっさいお母ちゃんがいるけどね(笑)
舞:私は……帰っても誰も居ないから……ちょっと羨(うらや)ましいよ……
0:
歩美:『そうか……。この人小さい頃から鍵っ子だったんだっけ……。』
歩美:ま、気にしないなら寄ってって。お茶の一杯くらい飲んでってよ
舞:……ん、ありがと
0:
歩美:(N)そう言って微笑んだ彼女の笑顔に、不覚にも私は今まで感じた事のない想いを持ってしまった……
00:―間―
0:
0:夕刻、歩美宅から自宅に帰った舞。
0:真っ暗な部屋に一人ポツリと佇(たたず)む。
0:
舞:でも、なんか……いつもと違う感じ。一人の部屋でも……(笑)
0:
舞:(N)吉田さんの家は、なんかとっても暖かかった……
舞:(N)それは単純に室内温度のせいだけじゃなく、私がずっと昔に経験した何かと……
舞:(N)初めて感じる何かがごちゃ混ぜになった不思議な気持ちだった……
0:
0:
舞:さぁてっと……。夕飯の支度しようかなぁ……。今夜もお父さん、遅いのかなぁ……
0:
舞:(N)私はそう独り言を言いながら、さっきスーパーで買い込んできた食材を手早くそれぞれのあるべき場所に片付けだした
0:
0:
0:
0:―翌朝の教室。歩美が登校しいつも仲良くしている友人達に声を掛けた。
0:
歩美:やほ!おはよー!
0:
0:昨日までは明るく返ってきていた筈の返事はなく、皆そそくさと歩美から離れて行く。
0:
歩美:(N)なに……?私、みんなになんかしたっけ……?
0:
0:歩美が自分の席につくと、机の上に油性マジック大きく落書きが書かれていた。
0:
歩美:『……「裏切り者!」……?どういう意味よ……』
0:
0:―不思議に思っている歩美に戸川が背後から声を掛けた。
0:
戸川:歩美さん、ちょっと良いかしら?
歩美:戸川さん?え、ええ
0:
歩美:(N)この時点で私は全てを察したんだ……
0:
0:―化学準備室で対峙する二人。
0:
戸川:ここならしばらくは誰も来ないでしょ?貴女に少し話があって
0:
歩美:(N)そう言われた時点でもう私には察しがついていた
0:
歩美:上村さんのことでしょ?
戸川:……わかってるなら、もうあんな真似はしないことね。この狭いコミュニティで……ハブられたくないのなら
0:
歩美:(N)戸川さんのメガネのフレームが朝の光を浴びてギラリと光った
0:
戸川:困るのよね、他所者(よそもの)とあんまり急に親しくされては。この学校で平穏な生活を送りたいなら私の忠告は聞いておいた方がいい。わかるでしょ?
歩美:……
0:
歩美:(N)どうやら昨日の放課後の事を誰かが戸川さんにチクったようだ
0:
戸川:この学校のヒエラルキー、わかってるよね?頂点に君臨している人間は一人で十分なの
0:
歩美:(N)戸川さんはそういうと私の肩をポン、と叩いて化学準備室から出ていった……
0:
歩美:(N)私はしばらくその場に立ち尽くしていたが、予鈴が鳴り慌てて自分の教室に戻っていった
0:
0:
0:#4へ

0:#4
0:
0:
歩美:(N)席に戻ると、いつの間にか落書きは消されていた
0:
歩美:(N)窓際の席では彼女がポツンと座っている。誰も話しかける者はいない
歩美:(N)昨日話しかけていた男子も、今はまるでそこには誰もいないかのように振る舞っている
歩美:(N)隣の席の図書委員は、心なし昨日より机を離しているように見えた……
0:
戸川:この学校で平穏な生活を送りたいなら私の忠告は聞いておいた方がいい。わかるでしょう?
歩美:……
0:
歩美:(N)さっきの戸川さんの声が頭の中でリフレインする
0:
0:
歩美:(N)やがて本鈴が鳴り、1限目の数学教師が教室に入って来て私の思考は寸断された……
0:
0:
0:―昼休み
0:
0:
歩美:(M)あの人、ランチどうするんだろう……?確か昨日は学食で男子たちと……
0:
0:―歩美、学食の隅でポツリと孤独に食事をしている舞を見つける。
0:
歩美:あ……一人だ……
0:
歩美:(M)その時、彼女と目が合った。彼女は寂しそうに……凄く寂しそうに、笑ったんだ……
0:
0:―間―
0:
歩美:(N)気付いたら私は、彼女の向かいに座っていた
0:
舞:……なによ、貴女。私に近付かない方が良いんでしょ?向こう行きなさいよ……
歩美:いーのよ、貴女に気遣われる筋合いじゃない。私の行動は私が決めるわ
舞:……机に落書きされてたでしょ?知ってるよ……
歩美:うるさいわねぇ。グダグダ言ってるとせっかくレンチンしたお弁当冷めるよ?
舞:え、えぇ……
0:
歩美:(N)私も彼女の向かいで持参の弁当を広げた。食堂中の空気がガラリと変わったのを肌で感じる
歩美:(N)戸川さんの言葉が気にならなかったと言ったら嘘になる。だけど、それよりも、私は……
0:
舞:貴女こそなによ?弁当広げたまんま全然手ぇつけないで呆(ほう)けちゃってさ。おいしそーな唐揚げ!貰っちゃうよ?
歩美:あっ、なにすんのよっ!やめてよ……
0:
0:―歩美が言い終わらない内に舞は歩美の弁当箱から唐揚げを一つつまみ、口に頬張っていた。
0:
舞:昨日も思ったけど、貴女のお母さん料理上手いよね。今度教わりに行ってもいっかな?
歩美:うん、お母ちゃんも喜ぶよ、きっと。貴女が帰った後「アンタに随分垢抜けた友達が出来たわねぇ!」って興奮してたからね
0:
0:
0:
歩美:(N)私はもうその時に、この“狭くて堅苦しい、小さな世界”からはみ出すことの覚悟は出来ていた……
0:
0:
歩美:(N)それからはお察しの通り。文字通り私は学校中のみんなから村八分にされた
歩美:(N)戸川さんの父親は町議会議員をしている。その権力を恐れた教師達もいわゆる“いじめ”に対してすら無視を決め込んでいた
歩美:(N)でもいいんだ。私に大事な……初めて“親友”と呼べるような友達が出来て、いつもその人と一緒だったんだから。
0:
0:
0:―以上、歩美の回想終わり―
0:
0:
舞:んじゃ、今日放課後歩美んち寄ってって良い?
歩美:マジでー!助かるぅ!ちょっと数学で手こずってるとこあってさぁ
舞:うん、任せといて!
歩美:んじゃ一応お母ちゃんに連絡しとくね。舞が来るとお母ちゃん喜ぶから、なんか美味しいもん用意しといてくれるかもしれないし
舞:え、気ぃ遣わせるの悪いなぁ……
歩美:好きでやってんだからやらせといてあげてよ、あははっ!「舞ちゃんてアイドルみたいよねぇ」とか言って、すっかり舞のファンだよ?
舞:……でも、なんか行く度に夕飯ご馳走になったり、お父さんの分の夜食まで持たせて貰ったりとかして、なんか申し訳なくて……
0:
0:―少し縮こまる舞。
0:
歩美:(N)……そんな舞の姿は見たくない……。いつも眩しく輝いていて欲しいのに……
0:
0:
歩美:そうだ!舞さえ良いなら、たまには私が舞んちに行っちゃダメかな?
舞:え、だって歩美の家から結構あるじゃん……
歩美:チャリで行けば楽勝でしょ?
舞:……歩美が良いなら、私は別に構わないけど……
0:
0:
歩美:(N)こうして私は初めて舞の家に行くことになった
歩美:(N)舞が転校してきてそろそろ一月が経とうとしていた頃だった……
0:
0:#5へ

0:#5
0:
0:―舞の自宅にて。
0:
舞:お疲れ!よく来たね、とりあえず上がって上がって!
歩美:おじゃましまーす……って、へぇ……。忙しくしてる割には結構綺麗にしてるじゃん
舞:まぁね!私がしっかり”主婦”してるから!だからお父さんも生きてるわけだし。ははっ!
歩美:……だよね……毎日遅いんでしょ?お父さん
舞:ん~そうだね。大抵午前様かな。仕方ないよ、大規模改修工事が始まったばっかだからね
歩美:お父さんって、その改修工事の為に来たんでしょ?
舞:そうだよ。東京本社にいた……計画段階からここの工事には携(たずさ)わってたから……
歩美:そっかぁ……
舞:ま、立ち話もなんだからとりあえず座って?麦茶とジュース、どっちが良い?
歩美:あ、まず麦茶!めっちゃ喉渇いてる!!その後ジュース!
舞:あはは!贅沢なお客さん!ま、わざわざ山道チャリで来てくれたんだから大目に見るか!
0:
0:―歩美、居間に移動。そこに舞がトレイに乗せた麦茶ポットとペットボトル入りのジュースを持ってくる。
0:
歩美:なによ?私こんなに飲まな……
舞:歩美のだけじゃないって!私だって飲むんだよ!夕飯の下ごしらえしてたから結構喉渇いてんの!勝手にコップに好きなだけ注(つ)いで飲んで
歩美:……セルフサービスね、はいはい……
舞:持ってきてあげたじゃん?不満あんの?
歩美:あ~、ないでーず!あざざまず!いただきまーす!
0:
0:―歩美、とりあえず麦茶を注いでグビグビと飲み干す。
0:
歩美:ぷはーーっ!生き返るっ!
舞:どこのオヤジよ!(笑う)もう一杯行く?
歩美:うん。それからゆっくりジュース貰うわ。……で、舞のお父さんっていつもそんな感じなの?
舞:え、なにが?
歩美:そうやって、改修工事の計画を本社で立てて、いざ始まったら現地に行く、って言う……
舞:ああ。仕事ね。うん、昔っからそんな感じだったよ。だから私も都内と地方を行ったり来たりでさ……。田舎ってどこも変わんないのね……
0:
0:
歩美:(N)その時、また舞はとても寂しそうな顔をして笑った……。転校2日目の学食で見た時のような、初日の太陽みたいな笑顔からは想像もつかないような笑顔……
0:
歩美:私は違うからね?そこらの人と一緒にしないでよ!?
0:
歩美:(N)何をとち狂ったのか、私は舞の手をがっしりと握りしめてそう叫んでいた
0:
歩美:(N)それまで寂しげではあったが笑顔だった舞の顔が途端に歪(ゆが)む
0:
舞:今まで……引っ越し先でそうやって私を受け入れてくれた人は誰もいなかった……。信じて……いいの……?
0:
0:
歩美:(N)おそらくここでの2年弱を孤独に過ごす覚悟をしていたであろう舞……。その舞が今にも泣き出しそうな顔をして私を見ている
0:
歩美:信じてよ!大体今現在既に私たち学校中からハブられてんじゃん?こうなったらどこまでも付き合ってあげるよ!舞を一人になんてさせないよ!
0:
0:―舞の瞳からポロポロと涙がこぼれる。
0:
舞:一人には……慣れてたつもりだった……。どこの地方に行っても大抵は仕切ってる奴がいて……私は他所者(よそもの)扱いで。最初はチヤホヤされても「目立ってウザい」ってハブられて……。慣れてたつもりだったけど……
歩美:そんなのに慣れたらダメでしょ?舞、なんか悪い事したの?なんもしてないじゃん!
舞:そんな事言ってくれる人、今まで誰もいなかったよ……
0:
歩美:(N)そう言って、涙を流しながらも微笑む舞は……とても美しくて……
歩美:(N)窓からさしてくる、暮れかけた太陽の光に輝く涙がとても愛おしくて……
歩美:(N)私は思わず舞を抱き締めてしまった……
0:
舞:……っ!?あ、歩美!?
0:
歩美:(N)舞の声を聞いてハッと我に返る。そして私は慌てて身体を離した
0:
歩美:ご、ごめ……私、別にそんなつもりは全然無くて……。気が付いたら、なんか……その……
舞:(微笑)ごめん、私が悪かった。泣いたりしたから……心配させちゃったんだよね。優しいね、歩美は
0:
歩美:(N)私の突然の抱擁(ほうよう)にも全く動じずに、笑顔で受け入れてくれた舞……
歩美:(N)私はこの時“この人のことは絶対に私が守る”って決めたんだ
0:
0:
歩美:(N)まさか、これが恋心だなんて、その時は全く気付いていなかったけど……
0:
0:
0:#6へ

0:#6
0:
0:―2週間後。定期テストが終わりテスト休みの日。舞宅にで寛(くつろ)いでいる歩美。
0:―二人はスマホゲームで協力プレイをしながら話している。
0:
0:
舞:で?手応えどう?
歩美:うん、今回はバッチリ!先生が良かったからね!ヤマも当ててくれたし
舞:ここの教師達はわかりやすいね!授業聞いてるだけで出題傾向がすぐわかるから助かったわ、ははっ!
歩美:え、そんな事まで気にしながら授業聞いてんの?
舞:ん~、特に意識してるわけじゃ無いんだけどなぁ。何となく「あー、ここ強調してるなぁ、テストに出すんだろうなぁ」みたいな感覚はあるかなぁ?
歩美:マジで……。舞、神の耳だよ、それ
舞:そんな事……あっ、ほら!油断してるから敵に攻め込まれてるでしょっ!?
歩美:あっ!ごめん!……ってかナイスアシスト!逆にこっちが形勢有利になってるじゃん!
舞:へへっ、ボッチを舐めるなよー!伊達にゲーマーしてないっつーの!
歩美:……
0:
歩美:(N)私には一つ気になってることがあった。それは聞いても良い事なんだろうか……?
0:
0:
歩美:……ねぇ……
舞:いぇーい!勝ちぃ!やったね!これでランクアップじゃ……ってなに?歩美プレイしてなかったの!?
歩美:あ……ご、ごめん!
舞:もぉ、しょうがないなぁ!んじゃ明日のランチ、歩美のおごりね!
歩美:えぇっ!?マジでぇ……
舞:んで、なんか話しかけてたよね?なによ?
歩美:……ううん、なんでもない……
舞:……ゲームそっちのけでボケッとしてたんだからなんか大事な話があったんじゃないの?
歩美:……わ、忘れちゃったよ!ランクアップ嬉しくてさ!
舞:だね!ここまで来るの結構時間掛かったし!今日は祝杯と行きますか!
歩美:え、お酒飲むの……?
舞:別に飲んでも良いけど……万一なんかでチクられでもしたらマズいからジュースにしとこっか
歩美:……だね。せめてテストの結果が出るまでは大人しくしてよう?
舞:それは賢明な判断だね
0:
0:
歩美:(N)ウチの学校は田舎の弱小校だって言うのに、妙に面子(めんつ)にこだわる。
歩美:(N)私がまだ小学生の頃にどっかの体育会系の部活がインターハイ出た!って大騒ぎしてたからなぁ……
歩美:(N)今も全国模試で100位以内に生徒の名前が載ると廊下に張り出したりしている
0:
歩美:(ボソッと)次の模試っていつだっけ……?
舞:んー?冬場じゃない?まだ私ら2年だし
0:
0:
歩美:(N)キッチンで夕飯の支度をしていた舞にはしっかり聞かれていたようだ。相変わらず耳ざとい
0:
舞:あれ、希望者だけで良いんだっけ?受験
歩美:うん、一応建前上そうなってるけど、基本的には全員受けろって感じ?
0:
舞:……それでトップクラス取ったりしたら、私らの扱い変わったりとかすんのかな……?
歩美:え?誰の?
舞:教師連中の、さ
歩美:……どうだろうね……
舞:……町議の娘の力には勝てないか……。はい、お待たせ!片手間でも食べられるように、食べるの簡単なパスタにしたよ!
歩美:わっ、美味しそー!……ってアレ?舞の得意なのって確かトマト系じゃ無かったっけ?今日はカルボナーラなの……?
舞:うるさいな!何でも作れるのよ、私は!好きでしょ?歩美
歩美:う、うん……
0:
歩美:(N)私は舞の気遣いが嬉しくて……私の好物を覚えていてくれた事も嬉しくて……
歩美:(N)普段お母ちゃんが作ってくれるカルボナーラよりも何倍も美味く感じてしまった……
0:
0:
0:―間―
0:
0:
舞:ま、手始めに明日だね……
歩美:え?
舞:明日、定期テストの一斉返却でしょ?
歩美:そうだね。その為に今日休みな訳だし
舞:(ボソッと)……ショボい田舎のカースト制度なんてぶっ壊してやろーじゃん……
歩美:……?どういう意味?
舞:どこまでできるかわかんないし、今まではこんな事思わなかったけど。今は……私一人じゃ無いから。歩美がいるから、何でも出来そうな気がするの
歩美:よ、よくわかんないけど……
舞:ま、明日になればわかるって!楽しみにしてて!私は自信あるから!
歩美:う、うん……
0:
0:
歩美:(N)自信たっぷりの舞の姿に、私は意味は分らないなりに安心感を覚えた
歩美:(N)その日は二人でゲームを楽しんで、私は夜結構遅い時間になってから家に帰った……
0:
0:#7へ

0:#7
0:
0:-翌朝、教室にて
0:
0:
舞:ねぇ、テストの返却と学年順位の発表、どっちが先?
歩美:返却かな、普通。
舞:ふーん……。でも教師連中は、もうトータルの順位とか分ってるんだよね?
歩美:そりゃそうだろね……
舞:ふふっ、それは楽しみだなぁ……
0:
0:―担任が教室に入ってくる。
0:―なんだか態度が落ち着かないように見える。
0:
歩美:あ、ホームルーム始まるね
舞:うん、じゃあね
0:
歩美:(N)私は自分の席へ戻った。相変わらず私は“居ない事”になってるので誰も気にも止めない
歩美:(N)と思ったが、担任だけは私をまじまじと見ていた
0:
歩美:(N)え……、私なんかマズい事した?
0:
歩美:(N)私と目が合った担任は気まずそうに目をそらし、そそくさと教室から出ていった
歩美:(N)一限目は数学だった
0:
0:
歩美:(N)出席番号順にテストが返される。私はあとの方だが戻って来た解答用紙を見て思わず声が出た
0:
歩美:なっ……!?95点!?
0:
歩美:(N)私の声にクラス中のザワメキがピタリと止(や)む
歩美:(N)そりゃあそうだろう。今まではたまに追試組に居たりもしたんだもの……
0:
歩美:(N)慌てて舞の方を見ると小さくガッツポーズを送られた
0
歩美:(N)その後の授業で返却される解答用紙にも、ことごとく高得点が記載されていて……
歩美:(N)一番驚いたのは他の誰でもない、私自身だっただろう……
0:

0:
0:―昼休み、学食にて
0:
舞:やほやほ!どうだった?午前中の合計点
歩美:どうもこうもないわよ!全部90点以上って……信じらんないわよ!
舞:おっかしいなぁ?私は歩美も満点取れるように教えたつもりだったんだけど……
歩美:「歩美も」って事は……舞は全部満点なのか?
舞:うん。だって全科目百点取れば自動的に学年トップになるでしょ?
歩美:そ、そりゃそうだけど……。狙って取れるもん?全科目百点なんて……
舞:ちょ(笑)あんま私舐めないでよね!……今まで言ってなかったけど、私の第一志望カセダの政経学部だから
歩美:なっ……!?
0:
歩美:(N)カセダ大学の政経学部といえば、私立大学の文系では最難関と言われているところだ……
0:
舞:なにボケっとしてんのよ?歩美も一緒に行こう?その為に私はわざわざ貴重な時間割いて歩美に一生懸命勉強教えてんだからさ
歩美:はっ!?ナニ言って……。舞、前に「地元の国立大でも良い」って言ってなかった?
舞:……最初はね。でもやっぱり私はいつまでもこの土地に縛られていたくないわ。理不尽な中で暮らすのはもう嫌
歩美:……それは……そうだけど……
舞:ん?物足りない?んじゃドー大の医学部でも目指す?私は全然かまわないけど……
歩美:医学部ぅ!?お医者さんになるのにはお金が……
舞:(遮って)掛かり過ぎるでしょ?時間もね。それにドー大よりカセダの方が遊びに行くのに便利じゃん?
歩美:なっ……!?そんな理由で!?
舞:歩美は一々うるさいなぁ!少し黙ってご飯たべなよ!
歩美:ムグッ……
0:
歩美:(N)そう言って舞は私の弁当箱から卵焼きを勝手につまんで私の口に放り込んでケラケラと笑った
歩美:(N)彼女の度胸と頭の良さに、私は何も言えなくなってしまった……
0:
0:
0:#8へ

0:#8
0:
0:―午後の教室
0:
舞:(N)午後も午前中と大して変わりはなかった
歩美:(N)私はどれもこれも百点に近い90点台
舞:(N)私はまぁ当然全科目満点で
歩美:(N)放課後、廊下に張り出された順位表はどれも一番上に舞の名前があり……
舞:(N)万年首位だったと言う戸川さんが隠れるようにそそくさと昇降口から帰っていく姿がチラリと見えた
0:
歩美:科目によっては私と舞がワンツーフィニッシュ、なんて奇跡的なものもあったしなぁ……
舞:私としてはむしろ「全体順位」でそうならなかった方が不思議なんだけど?
歩美:無茶言わないでよ!
0:
舞:(N)まぁトータルで私が1位、歩美が4位だったから良しとするけど
歩美:(N)ちなみに張り出されるのは成績上位社50人まで。私が載ったのなんて初めてのこと。しかも一桁なんて……
0:
舞:歩美くん、キミは元々「やればできる子」だったんじゃないのかね?
歩美:どうなんだろう……?一生懸命勉強したことなんかなかったし、わかんないや
舞:その調子で期末や模試も頼んだよ?
歩美:それは……舞次第だよ!
舞:わかってるよ。行こう、一緒に。東京
歩美:ん……
0:
歩美:(N)その時の私はまだ、素直に頷く事が出来なかった……
0:
0:

0:
0:―舞宅で夕飯を食べながら
0:
歩美:なんか、もう私、舞んちで夕ご飯食べるの当たり前になってきたね……
舞:一人分作るのもだるいから助かるけどね、私は
歩美:なんで?お父さんの分作ってないの?
舞:うん。なんかちょっと前から「夕飯いらないから」って言われてさ。誰か職場でいいヒトでも出来たんじゃない?なんか最近機嫌良さそうだし
歩美:へ、へぇ……。まぁ舞のお父さんまだ若いしかっこいいもんね……
0:
0:
歩美:(N)私はほんの数回だけど、休日に舞の家に来た時にお父さんにも会っていた
歩美:(N)涼し気な目元が舞とよく似た、中々のイケオジ……って言っちゃ失礼なくらいに舞のお父さんは若々しく見えた
0:
歩美:モテそうだもんね、舞のお父さん……。なんで今まで再婚しなかったのかの方が不思議だよ
舞:私は知らないけど彼女くらい居たんじゃないの?ただ転勤ばっかだからね……。オンナは不安じゃん?そういう男
歩美:……カノジョ、かぁ……
舞:あ、そう言えば歩美、こないだ私になんか聞きかけてやめたでしょ?あれなんだったん?
歩美:あ~……、うん。……舞って彼氏いたりすんのかなぁって
舞:やっぱりね。ははっ!なんか今の流れでわかった気がしてた
歩美:……いるの?
舞:今はいないよ。ってか随分前からいないかな、付き合った人は
歩美:……随分ってどれくらい?
舞:ん~……。中3の時が最後かなぁ?高校入って疎遠になって自然消滅って言うか……
0:
歩美:(N)私はなんだかその話を詳しく聞くのが辛くなってきた……
0:
歩美:もう……いいよ
舞:え?
歩美:過去の話は……聞きたくない……。って私から振っといてごめんね……
舞:(微笑んで)いいよ。何となく歩美の気持ち、わからなくもない。
歩美:なっ……!?
舞:私が……今までみたいに居なくなるんじゃないかって不安なんでしょ?
歩美:……っ!
舞:大丈夫だよ。歩美さえ頑張ってくれれば私らは一緒にここから抜け出せるの。うざい周りの目からもね
舞:お父さんももう私が居なくても大丈夫みたいだから……私は私の好きなように生きて行くよ、これから
0:
歩美:(N)屈託なく笑う舞の顔がまともに見れない……。彼女は私に友情以外の感情なんて持ち合わせちゃいないだろう……
歩美:(N)スゴく嬉しい言葉を言ってもらえてるのに……。私はとても贅沢になっている……。
歩美:(N)それに、私がこんな気持ちでいるなんてバレたら今までの関係も壊れてしまうんだろう……
0:
0:
舞:(呼びかけてる・「あゆ」)……みっ?歩美?こら!私のご飯そんなにマズい?箸止まってるよ?
0:
歩美:(N)呆(ほう)けていたら、いきなり目の前に舞の端正な顔立ちが迫っていた
歩美:(N)突然の出来事に気付いたら私の顔面は真っ赤になっていたらしい
0:
舞:大丈夫?熱でもあるんじゃない?顔赤いよ?体温測ってみ?
歩美:な、なんでもないって!大丈夫!ご飯も美味しいよ!
舞:なら良いけどさ……。せっかくわざわざ道の駅の直売所まで行って仕入れてきたんだよ、今日の食材は
歩美:え?マジで?言ってくれたら私が買ってきたのに……
舞:バーカ!歩美に頼んだら来るまでにメシ出来上がんないでしょ!
歩美:そ、そりゃそっか……
0:
0:
歩美:(N)中途半端な気持ちをハッキリはさせたいけど、この関係を壊したくない……
歩美:(N)私は……どうしたら良いんだろう……?
0:
0:
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0:#9
0:
歩美:(N)数日後、ウチの郵便受けに一枚の写真が入った封筒が投函されていた
歩美:(N)それを見て私は愕然とした……
0:
歩美:な……によ、これ……
0:
歩美:(N)写真にはゲーム中にはしゃいでいる私と舞が偶然近付いて
歩美:(N)重なったように見えて……。
歩美:(N)一見キスしているかのように取れる構図が写っていた
0:
歩美;(N)手紙には『この写真をばら撒かれたくなければ明日の7時に化学準備室に来るように』と書かれていた
歩美:(N)その指定場所でこの手紙の差出人が誰か私にはわかってしまった……
0:
0:

0:―翌朝、科学準備室で待つ歩美。そこに戸川が入ってくる。
0:
戸川:よく来たわね。要件はわかってるでしょう?
歩美:戸川さん……。あんな写真、一体どうやって……
戸川:私の”オトモダチ”もあのマンション群に住んでるの。って3棟しかないけどね
戸川:上村家の向かいの建物の屋上は良い眺めよねぇ!?あっはっは!
歩美:覗いてたのね……。汚いっ!
戸川:ん?見られて困るようなことしてたの?
歩美:違っ……!ずっと見てたなら知ってるんでしょ!?私たちがただゲームして遊んでただけって事……
戸川:でも、あの写真はそうは見えない……わよねぇ?ふふっ
歩美:……何がしたいのよ……
戸川:簡単な話よ。他所者(よそもの)の排除。
歩美:舞はもう……
戸川:(遮って)いくら経(た)っても他所者は他所者よ!
歩美:……っ!
戸川:一度だけチャンスを上げましょうか?貴女に……貴女たちに
歩美:チャンス……?
戸川:ええ。もしも次の全国模試で貴女たち二人共が私より成績上位だったらあの写真は消去してあげても良いわよ?
戸川:その代わり、それが出来なかった時は、町中にあの写真をばら撒かせて貰うけどね
戸川:そうなったら貴女たち一家はこの町には住んでいられなくなるでしょうねぇ?
歩美:戸川さん……貴女って人は……っ!
戸川:用件はそれだけよ。来月の全国模試、楽しみにしてるわね
0:
0:―歩美を残して戸川は去って行く。
0:
0:
歩美:『舞はともかく、私が戸川さんより良い点を取るなんて……
歩美:……無理だ……そんな無茶な話が……
歩美:だけどそうしないと家族みんなに迷惑が掛かる……一体どうしたら……』
0:
歩美:(N)どれ位の間床にへたり込んでいただろうか
歩美:(N)私はスマホの呼び出しバイブで我に返った。
歩美:(N)舞からだった
0:
舞:もしもし?なにやってんのよ?どこにいんの?もう予鈴鳴ったよ?
歩美:う、うん……
0:
0:
歩美:(N)私の様子が尋常じゃ無い事を察して舞はこう提案してくれた
0:
舞:とりあえず屋上で落ち合おう!話しはそこで聞くから!来れる?
歩美:うん……
舞:しっかりしてね!私がついてるから!
0:
歩美:(N)舞はそう言って電話を切った
0:
歩美:(N)私はのろのろと立ち上がり、舞の待つ屋上へと向かった……
0:
0:
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0:
0:―屋上にて
0:
0:
舞:ちょっ!?顔真っ青じゃない?大丈夫?
歩美:……うん……
舞:どう見ても大丈夫な顔してないよ?何があったの?
歩美:……実は……
0
歩美:(N)私は舞に写真を見せ、さっきの出来事をすべて話した……
0:
舞:戸川さん……なんて汚い真似するの……
舞:私ら、ただゲームしてただけじゃん?別に変な関係じゃ……
0:
歩美:(N)当たり前のように言う舞の言葉に胸が痛む……
0:
舞:歩美……。なんか今度は顔赤くなってるよ?ホントに大丈夫?
舞:……!まさか……
0:
歩美:『しまった……!』
歩美:(N)私はすぐに顔に出るタイプだ。それに舞は異様なまでに勘が鋭い。
歩美:(N)これで私の気持ちはバレてしまっただろう。
歩美:(N)今までの”親友ポジション”も保(たも)てなくなる……
0:
歩美:(N)私がそう思って絶望的な気持ちになった時、舞はにっこり笑ってこう言った……
0:
舞:そんな顔しないの!あんまり私を舐めないでくれる?
舞:私たちの絆がそんな事くらいで壊れると思ってんの?
0:
歩美:(N)笑いながら私の頭を軽く小突(こづ)く舞
歩美:(N)……でも……友情と恋愛感情は……別のもの……
歩美:(N)と言いかけた私より先に舞は事も無げにこう言ってのけた
0:
舞:愛情に性別なんか関係ない
舞:友情が深まれば愛情に変わったって不思議じゃない
舞:私だって歩美の隣に居るのが一番心地良いの
舞:歩美もそうで居てくれなきゃ困るよ
0:
0:
歩美:『私は……私の気持ちは受け入れられたの……?』
0:
歩美:(N)混乱している私に向かって舞は更に言葉を投げかける
0:
舞:誤解されてんのも癪(しゃく)だから……事実にしちゃおっか?
0:
歩美:(N)そう言うと舞の顔が私に近付いて来て、舞は私の唇を塞(ふさ)いだ
0:
歩美:……んっ……!
0:
歩美:(N)ほんの一瞬だが、確かに舞の唇と私の唇が触れあった……
歩美:(N)が、すぐに舞は私から離れた
0:
舞:今はまだこれだけにしといてあげるね
舞:まずは戸川さん……戸川を潰す事を真っ先に考えないとね!
0:
歩美:(N)私は半分ボーッとした頭で舞の話を聞いていた
0:
舞:こら!いつまでも呆(ほう)けてないでよね!
舞:そろそろ1時間目が終わるから、2時間目からはしっかり出席して
舞:放課後は私んちで猛勉強だからね?覚悟してよ?
0:
0:
歩美:(N)私はその時“この人と二人でならなににも負ける気がしない”って本気で思ったんだ……
0:
0:
舞:さ、教室に戻るよ!
舞:……っと、その前に歩美、トイレで顔洗って来なよ(笑)
歩美:え、えぇ……?
舞:ほら、早く行って来なよ。私は外で待ってるから
歩美:う、うん……
0:
歩美:(N)そう言われても仕方ないくらい、私は真っ赤になっていたんだろう……
0:
0:
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0:#11
0:
0:―翌月、全国模試終了後。試験会場だった他校の校庭にて。
0:
0:
歩美:あーっ!つっかれたぁ……今日は帰って腐るほど寝るわ……
舞:おつかれおつかれ!で、どうだった?手応え
歩美:ん~、一応わからない問題はなかった……かな
舞:おけおけ!私が1ヶ月しごきまくった甲斐があったね!
歩美:それだけじゃないよ!ちゃんと舞に出された宿題も家でやってたからね!
舞:だから寝不足かぁ……
歩美:そういうこと!ふぁ~あ!んじゃ今日は(まっすぐ帰って)
舞:(遮って)おやぁ?散々教えて貰ってお礼の1つも無いのかなぁ?
歩美:え?
舞:せっかくこの街まで出て来たんだから、まっすぐ帰るなんてもったいないでしょ?
歩美:マジで……
舞:確か、駅ビルあったよね?
舞:この学校に来る途中にはショッピングモールもあったの、バスの中から見たよ?
歩美:ま、舞は随分元気だね……
舞:だって私、毎晩日付変わる頃には寝てたもん
歩美:どうせ舞と私とじゃ頭の出来が違うわよ!ここはそれに免じて……
舞:(小声で)帰さないよ
歩美:え?
舞:もしかしたら……最初で最後の“デート”になるかもしれないでしょ……
歩美:あ……
舞:それでも……行かない?
歩美:い、行く行く!ゲーセンでも映画館でも付き合うよ!
歩美:って……映画見てたら私、寝ちゃうかもしんない……
舞:ふふふっ!とりあえず駅ビルはウチの学校の連中も多そうだから
舞:バス、途中下車してショッピングモールに寄らない?
歩美:うん、そうしよっか
舞:トーゼン授業料として遊び代は歩美のオゴリだからね?
歩美:はっ!?マジで?全部?
舞:ぷっ……ははは!嘘に決まってんでしょ!
舞:でもまぁアイスくらいはおごってね?
歩美:脅かさないでよ……。私そんなにお金持ってきてないし。
歩美:何時まで遊ぶかわかんないけどアイスだけじゃ無くて夕飯も食べるならご飯くらいはおごるよ!
舞:マジで!?やった!よっし、早く行こ!
0:
0:
歩美:(N)私たちは、もう誰も居なくなった校庭を後にしてバス停へ向かった
0:
0:
0:

0:
0:―2週間後。教室で各自に模試の結果が配布される。
0:
0
舞:歩美!どうだった!?
歩美:……。
舞:だ、ダメだったの……
歩美:(小声)……がう……
舞:え?
歩美:違うよ!とんでもなく良いの!順位が!
舞:う、うん……
舞:『(心の声)当たり前でしょ!何の為に私が必死こいて付きっきりで
舞:カテキョーしたと思ってんのよ……』
舞:で、何位?
歩美:聞いて驚かないでよ?7位!全国でだよ!?この私が!
舞:……。(複雑な顔)
歩美:あ?どうしたの?難しい顔しちゃって……
舞:……微妙だね……その順位じゃ……
歩美:へっ!?
舞:戸川はいつも何位なのよ!?
歩美:あっ……っ!
0:
歩美:(N)そう。私は今まで取った事のない高順位に浮かれてしまっていた
歩美:(N)だけど問題はそこじゃ無かったんだ。
歩美:(N)「戸川さんより上位か否か」。それが一番の問題だった……
0:
歩美:そ、そういう舞は何位だったんだよ?
舞:私は2位。凡ミスちょっとやらかしたっぽいわ。
舞:本気でトップ狙ってたのに。万一戸川が1位だったら……
0:
歩美:(N)私たちは顔を見合わせた。
歩美:(N)これは……昼休みに廊下に張り出される順位表を見るまでわからない……
0:
0:
0:
0:#12へ

0:#12
0:
0:―昼休みの廊下。
0:
舞:上から見てった方が早いよね……。
舞:よし、1位は他県の人……。後は戸川の順位を……
0:
0:
0:―歩美はビクビクしていてまともに順位表が見られない。
0:
舞:こら、しっかりしなよ!歩美の順位が問題なんだからね!
歩美:わ、わかってるよ……。だから見れないんじゃん……
舞:戸川、戸川っと……え!?
歩美:なっ、なによ、どうかした!?
舞:あの女、ベスト10に入ってないじゃん……えっと……28位……って!
歩美:ま、マジで……
舞:こんな事で嘘ついてどうすんのよ!やったね!私らの勝ちだよ!
歩美:ま、舞ぃ……(廊下にへたり込みそうになる)
舞:(歩美の腕を取って)わわわ!倒れてる場合じゃないよ!
舞:さ、戸川にデータ削除させに行くよ!
舞:ちゃんと目の前で確認しないと戸川は信じらんないからね
歩美:……そういえば、昼休みになってすぐ居なくなったよね。どこ行ったんだろ?
舞:歩美が呼び出されてたとこじゃないの?
歩美:あ、そうかも。……私、行って来る
舞:一緒に行くよ?
歩美:一人で大丈夫。そもそも脅されたのは私なんだし
歩美:ばら撒かれて困るのは私の家族だし、私の問題だから
舞:(小声)……んなのよ……
歩美:え?
舞:私ら二人の問題じゃないの?
歩美:ま、まぁ、今となってはそうかもしれないけど、元々は私一人の……
舞:(遮って)わかったわよ!上手くやってよ!
歩美:うん!任せて!
0:
0:
0:

0:
0:―放課後、舞の部屋。
0:
0:
舞:ぷっ……ははは!そっかぁ、見たかったなぁ、そん時の戸川の顔!
歩美:マジでアレは見物(みもの)だったよ!
歩美:真っ青な顔してガタガタ震えてんの!
歩美:あのいつも威張りくさった表情はどこへやらー?って感じで
舞:よっぽど悔しかったんだろうなぁ、あの順位
歩美:でも戸川さん、全国レベルだとあれでも良い方だよ?
舞:え?そうなの?歩美っ……それを早く言ってよっ!
舞:私はてっきりアイツは全国でも一桁レベルの猛者(もさ)かと勘違いしてたわ!
歩美:だって……それ言っちゃったら舞、手抜きするでしょ?
舞:……っ……。た、確かにそうだったかも……
歩美:私は、思いっきり差をつけてアイツを見返したかったの
歩美:だから敢えて言わなかった。それは謝るね。ごめん
舞:……べ、別に良いよ。そのお陰で歩美が全国一桁取れたんだし
舞:それに、これからもこの調子でしごくから慣れて貰うのに丁度良いしねぇ?
0:
0:―舞、ニヤリと笑う。
0:
0:
歩美:え?な、なんで?模試はもう終わったじゃん……
舞:……同じ大学、行こう、歩美……
舞:そして、一緒に暮らそう。東京で。
歩美:……え?
舞:ただ単にルームシェアするルームメイトとしてじゃなくて……
舞:……その……ど、同棲、って感じで……(少し照れる)
0:
0:―少し沈黙(良い雰囲気)
0:
0:#13へ


0:#13(最終話)
0:
歩美:そ、それには相当頑張らなきゃだな、私
舞:大丈夫だよ。先生が良いから
歩美:自分で言わないでよ!
舞:じゃ、ちゃんと歩美が言ってくれる?
歩美:い、いつも言ってるでしょ?
舞:勉強に関してのお礼は……ね……
歩美:そ、それ以外になにを……
舞:(しょんぼりと)……私、まだ肝心の言葉聞いてない……。「同棲しよう」なんて誘っちゃったけど……
舞:嫌なら断ってくれて良いし、無理に東京の大学に行く必要だって(無いんだよ?)
歩美:(遮って)だーーっ!そう言ってまた私を煽る!わかってるくせに!
舞:(ケロッとして)へへへ、バレたか
歩美:当たり前だって!ずるいよ!自分ばっかり!
舞:私は……態度で示したつもりだけど……それじゃ不満?
歩美:うっ……(キスした事を思い出して赤面する)
舞:だから、今度は歩美の番でしょ?早く言ってよ
歩美:(小声)……だ……
舞:え?
歩美:(小声)舞が好きだよ……。すっと一緒に居たい……
舞:聞ーこーえーなーい―!
歩美:ちょっ、あのねぇ……!!んっ……(キスで唇を塞がれる)
舞:(すぐに離れて)ありがと。やっと安心した
歩美:なっ……?不安……だったの?
舞:当然でしょ!わ、私、そこまで自信過剰じゃねないし!
歩美:へー、意外な一面見ちゃった!(クスクス笑う)
舞:(ぶっきらぼうに)笑わないでよ!
歩美:私の方が不安だったんだけどなぁ……。だって舞、元カレいたって聞いたし……
舞:え?そんなの昔の話しだって言ったでしょ?私は性別関係なく“一緒にいて一番居心地の良い人間”と付き合うよ
歩美:……貴女、もしかして人間じゃ無くても良いのかもしれないね……
舞:……どうだろうね?人外のモノとは縁が無いからわからないけど……
歩美:真面目に考えないでよ!冗談だでしょ?冗談!私の立場は……
舞:あはは、安心しなって。歩美といるのが今までで一番楽で心地良いよ
歩美:……マジで?
舞:マジで
歩美:そっか……。……っよしっ!本腰入れて受験対策するわ!
歩美:カセダに受かる為には今から準備しなきゃだよね?
舞:歩美の場合、今からでも遅い位だよ!まぁ先生が良いから……
歩美:わかったわかった!でも今日くらいは……
舞:そうだね、街行って遊ぼっか!
歩美:そう来なくっちゃ!物わかりの良い先生で良かったわ!
舞:私だって一応必死で勉強してたんだからね?息抜きはしたいよ
歩美:……そうだよねぇ……全国2位だもんなぁ……
舞:ぶっちゃけここまで頑張れたのは歩美のお陰だよ。ありがとね、歩美
歩美:え……そうなの?
舞:なにを今更!歩美と歩美の家族を守る為だから頑張れたんだよ!
舞:(小声)いつも世話になってるおばさんに迷惑かけたくなかったしね……
歩美:……ありがと、舞……
舞:(照れながら)あ~!ほら、早く出掛ける準備して!今日は遊び倒すぞー!
歩美:……うん……
0:
0:
歩美:(N)これからどうなるかなんて分らない
歩美:(N)だけど私は今、初めて“家族以外に大事な人”を見つけたんだ
歩美:(N)そして、相手も同じように私の事を大事にしてくれる……これ以上の幸せがあるだろうか?
歩美:(N)私の初めての恋人が……女性だったとしても、別になにも不自然なことじゃ無いんだろう
歩美:(N)舞は私にすんなりとそう思わせてくれた。すごい人だな……
0:
舞:モタモタしてるとおいてくよ?ほら、スマホテーブルの上に置きっぱなし!
歩美:あっ、ごめん!ちょっと呆(ほう)けてた……
舞:へへっ!この調子なら今日のゲームは私の圧勝に間違いないね?
歩美:なっ……舐めてんじゃないわよー?今日はボッコボコにしてやるんだから!
0:
0:
0:
0:―二人、笑いながらドアを閉め楽しげに近くのバス停に向かって去って行く。
0:
0:
0:=END=
0:
0:
0:




 

★Blue Roseの花言葉ー軌跡・神の祝福・一目惚れー

 

ー翼、朝の教室で一人つまらなそうにスマホをいじっている。
ー他にもクラスメートはいるが誰も翼に声を掛けようとはしない。

ー登校してきた和也が翼を見つけ、声を掛ける。

和也:おはよう。え、なに、もうそこまで進んだの?
翼:(ハッとして)な、なんだ、和也かぁ……。脅かすなよ!おはよ!
翼:うん、昨日、家帰ってからずっとプレイしててここまでクリアした
和也:マジかぁ……俺なんか試験勉強しろー!って母ちゃんにスマホ取り上げられちゃって……
翼:あー、だからジョインしてこなかったのか。ってか試験までまだあと2週間あるじゃん?
和也:俺は翼みたいに頭良くないから……。赤点も時々取るし……
翼:……(小声)するか?
和也:え?
翼:一緒に、勉強するか……?わかんねーとこあったら、教えてやれっかもしれねーし
和也:……いいの?
翼:……俺は良いけど、お前こそ良いのかよ?周り見てみろよ?
和也:?

ー和也が気付くと、クラスメート達は遠巻きにヒソヒソとこちらを見ながら何かを話している。


和也:気にしねーよ。俺はもう決めたんだ。こんな田舎で凝り固まった考えしか持ってない奴らの事は気にしない、ってね。
翼:……そっか。和也がそういうなら、俺はなんも言わないけど。でも困るのは……
和也:(被せて)「お前だぞ?」とか言うなよな?お互い様だろ
翼:……そっか……。そうだな……

―二人、クスクスと笑う

和也:(N)田舎の片隅で暮らしている、頭の凝り固まった連中なんかに、俺は、俺達は負けない……。


―以下、和也の回想―


和也:(N)翼がこの田舎町の高校に転校してきたのは、夏休みが明けてすぐの事だった。
和也:(N)東京から車で四時間弱。都心からそんなに遠いわけではないのに最寄り駅には在来線しか停まらないせいか、観光地としての方が有名だ。
和也:(N)高校二年の秋、大学受験も控えてるって言うのにわざわざこんな田舎に引っ越して来るなんてちょっと変わった奴だなぁと言うのが翼に対する第一印象だった。


翼:どもっ!オヤジの仕事の都合で転校してきた北野翼です!趣味は球技全般とー、あとはPCいじったりとか、ギター弾いたりとか。よろしく!

和也:(N)薄茶色に染めた、不揃いな髪。
和也:(N)新品の制服はオシャレに着崩(きくず)されていて。奴は俺達地元民とは明らかに違う空気をまとっていた

和也:(N)最初にザワついたのは女子の皆さんだった。そりゃ当然だろう。
和也:(N)都会からいきなり“まるで雑誌のグラビアから抜け出してきたかのような爽やかイケメン”が来たんだからな。
和也:(N)小中高と、同じ顔ぶれで育って来た彼女たちにしてみれば青天(せいてん)の霹靂(へきれき)と言っても良いくらいの出来事だ。
和也:(N)ちょっと気が利(き)いて勉強の出来る連中は、通学に片道1時間半かかる隣町の高校に進学してったからな……

翼:あ、隣の席なんだね?よろしく!お、なんか難しそうな本読んでるじゃん?面白い?それ

和也:(N)担任に指定された窓際の席に座った奴は、隣の女子に気安く話しかけていた
和也:(N)地味な万年図書委員の彼女があんなに慌てている姿を見た事がある人物は、多分いないだろう
和也:(N)それくらい、翼の転入っていうのは俺達の退屈な毎日の中で衝撃的だったんだ……

 

和也(N)……良くも、悪くも……

 

翼:え?転校してきた理由?オヤジの転勤だけど……。ほら、ダムあるだろ?この町。あそこに赴任して来たんだ

和也:(N)翼は休み時間に一部の女子に囲まれて質問攻めにされていた。その答えが聞こえてくる

翼:単身赴任させたらウジ湧くって(笑)俺、こう見えても家事全般こなせるから。
翼:母親?まだ俺が小さい頃に事故で……ね。あ、そんなに気にしないで!もう全然大丈夫だから

和也:(N)笑顔で質問に答えている翼の声を、耳をそばだてて聞いているたのは俺だけじゃなかった
和也:(N)クラス中の全員が別の事をしてるフリをしながら、耳だけは奴の声に集中していた

翼:進学は……そりゃあ東京にいたほうが通学は楽だけど、一応オヤジの赴任予定が2年だから、進学する頃には帰れるかなーって
翼:それに、ここの県庁所在地にある国立大、そこそこ有名じゃん?いざとなったらそこでも良いかなぁって……

和也:(N)サッと教室に緊張が走った。あの大学はAランクとは言わないまでもやつの言う通りそこそこ有名。
和也:(N)……そして、当然それなりに頭が良いやつしか入れない。そんな大学を「いざとなったら」って……

和也:(N)成績でトップの座を譲ったことのない、クラス委員で生徒会長でもある、この学校を実質牛耳ってる高梨のメガネがキラリと光った
和也:(N)どうやら奴は転入早々ヤバい奴を敵に回したようだ……

和也:(N)俺は「触らぬ神に何とやら」で奴のことは無視することにした
和也:(N)高梨の視線に気付いたクラスの大半の奴らが同じ事を考えただろう
和也:(N)しかし、そんな俺の気持ちなんか無視して「触りたくない奴」と関わることになるとは……


―放課後、昇降口でにて。

和也:うわぁ……。結構本降り(ほんぶり)じゃん……。今朝の天気予報で雨とか言ってたっけ?

和也:『あ。そっか。今朝寝坊して慌ててたから出掛けに天気予報チェックするの忘れてた……。参ったなぁ……。』
翼:傘ないの?良かったら一緒に入る?俺、バス停までだけど……。えっと、同じクラスの……
和也:藤原。藤原和也
翼:ごめんな、まだ名前全員覚えられてなくて。そんなに人数いないのにな(笑)で、バス通(つう)?
和也:いや、俺はチャリだけど……この雨の中チャリはちょっとツラいかな……。山道だし。
翼:だよなぁ。俺もチャリ乗るの好きだけど、さすがに毎朝この山道通学してきてから授業受けるとなると寝ない自信ないからさ(笑)
和也:でも、バスだと本数少ないべ?
翼:そうなんだよね、終バスも早いし。家族に迎えに来て貰うって訳にもいかないからさ、俺は。部活も入りたいけど物理的に無理だよなぁ……

和也:(N)さっきまで名前も知らなかった俺とこんなにペラペラ話せるっていうのは一種の才能だよなぁ……。
和也:(N)普段人見知りで決まった奴らとしか殆ど話しをしない俺も、さっきまで関わりたくないと思っていたコイツと話している事を楽しく感じている
和也:(N)そんな自分の中の矛盾に戸惑いながらも、俺はやつのペースに飲み込まれてしまっていた……。


翼:藤原は部活入ってないの?

和也:(N)急に問い掛けられて我に返る

和也:お、俺は一応部活っていうか漫研(まんけん)に所属はしてるけど……
翼:あははっ!その様子だとろくに活動してないな?
和也:ちゃ、ちゃんと漫画描いてる奴なんて殆どいないよ!みんなアニメのDVD見てたりゲームしてたりとか……
翼:楽そうじゃん?オタクの楽園って感じ?

和也:(N)そういう言われ方すると普通ムカつくもんなんだろうけど……なんでだろう。コイツの言い方からはオタクをバカにしたり蔑(さげす)むような響きは感じなかった……

翼:ん?何不思議そうな顔してんの?

和也:(N)いつの間にか俺たちは一つの傘に入ってバス停に向かって歩いていた

和也:いやぁ……。アンタスポーツが好きだって言ってただろ?だからオタク系の事は……バカにされるかなぁと……
翼:なんだよ、そっちこそ偏見!(笑)俺だってアニメも見るしゲームだってするぞ?それに球技は一人じゃ出来ねーしな……

和也:(N)さっきまであんなに明るく眩しく見えたコイツの顔に、フッと影が落ちたような気がした。ほんの一瞬のことだったけれど。

翼:割とゆるい感じなら、俺も漫研入ろっかなぁ……。課外活動してたほうが内申点いいだろ?
和也:まぁ、そうだろうけど……

和也:(N)校内での漫研の評判は決して良いものではなかったが……それは今は黙っておこう
和也:(N)そんな話をしているうちに俺たちはバス停に着いた


和也:家、どこなんだ?

和也:(N)俺は傘に”入れて貰った側”なのに、入れてくれた奴の肩はグッショリと雨で濡れてしまっていた
和也:(N)それに気付いた俺はなんだか気まずくなって、何となくそんな事を口走っていた

翼:スーパーの、2つ先のバス停あるだろ?あそこの近くのマンション。オヤジの会社が借り上げしてるんだ
和也:げ。30分以上かかるんでないか?風邪引くぞ?

和也:(N)まだ初秋とは言え山沿いの空気は冷たい。都会から来たボンボンがこの山の底冷えした空気に耐えられるのか?と俺は不安になった

翼:大丈夫だよ(笑)部活やってた時は普通に雨の中走らされてたし
和也:東京とこっちじゃ気温が違うだろ?俺んちは次のバス停からすぐだから……良かったら温まってけや?
翼:え……良いのか?
和也:だって、アンタが濡れたの俺のせいじゃ……
翼:(遮って)俺が勝手に濡れたんだよ!お前のせいじゃ……(だんだん小声)

和也:(N)そう言いながら少しうなだれるコイツ……翼は、なんだか捨てられた子犬のように見えた……


翼:……い、良いのか?お邪魔しても……
和也:うっさい母ちゃんがいるけどね(笑)
翼:俺は……帰っても誰も居ないから……ちょっと羨(うらや)ましいよ……

和也:『そうか……。コイツ小さい頃から鍵っ子だったんだっけ……。』
和也:ま、気にしないなら寄ってけや。茶の一つくらい飲んでけ
翼:……ん、ありがと

和也:(N)そう言って微笑んだ奴の笑顔に、不覚にも俺は今まで感じた事のない想いを持ってしまった……


―間―

―夕刻、和也宅から自宅に帰った翼。
―真っ暗な部屋に一人ポツリと佇(たたず)む。

翼:でも、なんか……いつもと違うな。一人の部屋でも……(笑)

翼:(N)藤原の……和也の家は、なんかとっても暖かかった……
翼:(N)それは単純に室内温度のせいだけじゃなく、俺がずっと昔に経験した何かと……
翼:(N)初めて感じる何かがごちゃ混ぜになった不思議な気持ちだった……


翼:さぁてっと……。晩メシの支度すっか……。今夜もオヤジ、遅いのかなぁ……

翼:(N)俺はそう独り言を言いながら、さっきスーパーで買い込んできた食材を手早くそれぞれのあるべき場所に片付けだした


―翌朝の教室。和也が登校しいつもツルんでいる奴らに声を掛けた。

和也:よ!おはよー!

ー昨日までは明るく返ってきていた筈の返事はなく、皆そそくさと和也から離れて行く。

和也:『なんだ……?俺、アイツらになんかしたっけ……?』

ー和也が自分の席につくと、机の上に油性マジック大きく落書きが書かれていた。

和也:(N)……「裏切り者!」……?どういう意味だよ……

ー不思議に思っている和也に高梨が背後から声を掛けた。

高梨:和也君、ちょっと良いかい?
和也:高梨?あ、ああ。

和也:(N)この時点で俺は全てを察したんだ……

―化学準備室で対峙する二人。

高梨:ここならしばらくは誰も来ないだろう。君に少し話があってね

和也:(N)そう言われた時点でもう俺には察しがついていた

和也:北野のことだろ?
高梨:……わかってるなら、もうあんな真似はしないことだね。この狭いコミュニティで……ハブられたくないのなら

和也:(N)高梨のメガネのフレームが朝の光を浴びてギラリと光った

高梨:困るんだよね、他所者(よそもの)とあんまり急に親しくされては。この学校で平穏な生活を送りたいなら僕の忠告は聞いておいた方がいい。わかるだろう?
和也:……

和也:(N)どうやら昨日の放課後の事を誰かが高梨にチクったようだ

高梨:この学校のヒエラルキー、わかってるよね?頂点に君臨している人間は一人で十分なんだ

和也:(N)高梨はそういうと俺の肩をポン、と叩いて化学準備室から出ていった……

和也:(N)俺はしばらくその場に立ち尽くしていたが、予鈴がなり、慌てて自分の教室に戻っていった

 

和也:(N)席に戻ると、いつの間にか落書きは消されていた

和也:(N)窓際の席では奴がポツンと座っている。誰も話しかける者はいない
和也:(N)昨日話しかけていた女子も、今はまるでそこには誰もいない家のように振る舞っている
和也:(N)隣の席の図書委員は、心なし昨日より机を離しているように見えた……

高梨:この学校で平穏な生活を送りたいなら僕の忠告は聞いておいた方がいい。わかるだろう?
和也:……。

和也:(N)さっきの高梨の声が頭の中でリフレインする


和也:(N)やがて本鈴が鳴り、1限目の数学教師が教室に入って来て俺の思考は寸断された……


―昼休み


和也:(M)アイツ、昼飯どうするんだろう……?確か昨日は学食で女子と……

―和也、学食の隅でポツリと孤独に食事をしている翼を見つける。

和也:『あ……一人だ……。』

和也:(N)その時、奴と目が合った。奴は寂しそうに……凄く寂しように、笑ったんだ……


―間―

和也:(N)気付いたら俺は、奴の向かいに座っていた

翼:……んだよ、お前。オレに近付かない方が良いんだろ?向こういけよ
和也:いーんだよ、お前に気遣われる筋合いじゃない。俺の行動は俺が決める
翼:……机に落書きされてたろ?知ってんぞ……
和也:うるせーな、グダグダ言ってるときつねうどんのびるぞ?
翼:お、おう……

和也:(N)俺はコイツの向かいで持参の弁当を広げた。食堂中の空気がガラリと変わったのを肌で感じる
和也:(N)高梨の言葉が気にならなかったと言ったら嘘になる。だけど、それよりも、俺は……

翼:お前こそなんだよ?弁当広げたまんま全然手ぇつけないで呆(ほう)けちゃってさ。うまそーな唐揚げ!貰うぞ?
和也:あっ、バカヤロー!てんめぇ……

―和也が言い終わらない内に翼は和也の弁当箱から唐揚げを一つつまみ、口に頬張っていた。

翼:昨日も思ったけど、お前のお母さん料理上手いよなぁ。今度教わりに行っても良いか?
和也:おう、母ちゃんも喜ぶぞ、きっと。お前が帰った後「アンタに随分垢抜けた友達が出来たわねぇ!」って興奮してたからなぁ

 

和也:(N)俺はもうその時に、この“狭くて堅苦しい、小さな世界”からはみ出すことの覚悟は出来ていた……


和也:(N)それからはお察しの通り。文字通り俺は学校中の連中から村八分にされた
和也:(N)高梨の父親は県議をしている。その権力を恐れた教師達もいわゆる“いじめ”に対してすら無視を決め込んでいた
和也:(N)でもいいんだ。俺に大事な……初めて“親友”と呼べるような友達が出来て、いつもそいつと一緒だったんだから。


―以上、和也の回想終わり―


翼:んじゃ、今日放課後お前んち寄ってって良いか?
和也:マジかー!助かるわ!ちょっと数学で手こずってるとこあってさぁ
翼:おお、任せとけって!
和也:んじゃ一応母ちゃんに連絡しとくわ。和也が来ると母ちゃん喜ぶから、なんか美味いもん用意しといてくれるかもしれないし
翼:え、気ぃ遣わせるの悪いな……
和也:好きでやってんだからやらせといてくれよ、ははっ!「翼くんてアイドルみたいよねぇ」とか言って、すっかりお前のファンだぞ?
翼:……でも、なんか行く度に夕飯ご馳走になったり、親父の分の夜食まで持たせて貰ったりとかして、なんか申し訳なくて……

―少し縮こまる翼。

和也:(N)……そんな翼の姿は見たくない……。いつも眩しく輝いていて欲しいのに……


和也:そうだ!お前さえ良いなら、たまには俺がお前んちに行っちゃダメか?
翼:え、だって和也の家から結構あるじゃん……
和也:チャリで行けば楽勝だろ?
翼:……お前が良いなら、俺は別に構わないけど……


和也:(N)こうして俺は初めて翼の家に行くことになった
和也:(N)翼が転校してきてそろそろ一月が経とうとしていた頃だった……


―翼の自宅にて。

翼:おう、よく来たな、お疲れ!とりあえず上がって上がって!
和也:おじゃましまーす……ってへぇ……。男所帯の割に結構綺麗にしてるじゃん
翼:まぁな!俺がしっかり”主夫”してっから!だからオヤジも生きてるわけだし。ははっ!
和也:……だよなぁ……毎日遅いんだろ?親父さん
翼:ん~そうだな。大抵午前様だな。仕方ねーよ、大規模改修工事が始まったばっかだからな
和也:親父さんって、その改修工事の為に来たんだろ?
翼:そうだよ。東京本社にいた……計画段階からここの工事には携(たずさ)わってたからなぁ……
和也:そっかぁ……
翼:ま、立ち話もなんだからとりあえず座れよ?麦茶とジュース、どっちが良い?
和也:あ、まず麦茶くれ!めっちゃ喉渇いてる!!その後ジュース!
翼:あはは!贅沢な客だな!ま、わざわざ山道チャリで来てくれたんだから大目に見るか!

ー和也、居間に移動。そこに翼がトレイに乗せた麦茶ポットとペットボトル入りのジュースを持ってくる。

和也:なんだよ?俺こんなに飲まな……
翼:お前のだけじゃねーって!俺だって飲むんだよ!夕飯の下ごしらえしてたから結構喉渇いてんの!勝手にコップに好きなだけ注(つ)いで飲めよ
和也:……セルフサービスね、はいはい……
翼:持ってきてやったじゃん?不満あんのかよ?
和也:あ~ないっす!あざーっす!いただきまーす!

―和也、とりあえず麦茶を注いでグビグビと飲み干す。

和也:ぷはーーっ!生き返るっ!
翼:どこのオヤジだよ!(笑う)もう一杯行く?
和也:うん。それからゆっくりジュース貰うわ。……で、翼の親父さんっていつもそんな感じなのか?
翼:え、なにが?
和也:そうやって、改修工事の計画を本社で立てて、いざ始まったら現地に行く、って言う……
翼:ああ。仕事な。うん、昔っからそんな感じだったよ。だから俺も都内と地方を行ったり来たりでさ……。田舎ってどこもかわんね^のな……


和也:(N)その時、また翼はとても寂しそうな顔をして笑った……。転校2日目の学食で見た時のような、初日の太陽みたいな笑顔からは想像もつかないような笑顔……

和也:俺は違うからなっ?そこらの奴と一緒にしてくれんなよ!?

和也:(N)何をとち狂ったのか、俺は翼の手をがっしりと握りしめてそう叫んでいた
和也:(N)それまで寂しげではあったが笑顔だった翼の顔が途端に歪(ゆが)む

翼:今まで……引っ越し先でそうやって俺を受け入れてくれた奴は誰もいなかった……。信じて……いいのか……?


和也:(N)おそらくここでの2年弱を孤独に過ごす覚悟をしていたであろう翼……。その翼が今にも泣き出しそうな顔をして俺を見ている

和也:信じろよ!大体今現在既に俺たち学校中からハブられてんじゃん?こうなったらどこまでも付き合ってやるよ!アンタを一人になんてさせねーよ!

―翼の瞳からポロポロと涙がこぼれる。

翼:一人には……慣れてたつもりだったんだ……。どこの地方に行っても大抵は仕切ってる奴がいて……俺は他所者(よそもの)扱いで。最初はチヤホヤされても「目立ってウザい」ってハブられて……。慣れてたつもりだったんだ……
和也:そんなのに慣れたらいかんだろ?アンタなんか悪い事したのかよ?なんもしてねーじゃん!
翼:そんな事言ってくれる奴、今まで誰もいなかったよ……

和也:(N)そう言って、涙を流しながらも微笑む翼は……とても美しくて……
和也:(N)窓からさしてくる、暮れかけた太陽の光に輝く涙がとても愛おしくて……
和也:(N)俺は思わず翼を抱き締めてしまった……

翼:……っ!?か、和也!?

和也:(N)翼の声を聞いてハッと我に返る。そして俺は慌てて身体を離した

和也:ご、ごめ……俺、別にそんなつもりは全然無くて……。気が付いたら、なんか……その……
翼:(微笑)ごめん、俺が悪かった。泣いたりしたから……心配させちゃったんだよな。優しいな、和也は

和也:(N)俺の突然の抱擁(ほうよう)にも全く動じずに、笑顔で受け入れてくれた翼……
和也:(N)俺はこの時“こいつのことは絶対に俺が守ってやる”って決めたんだ


和也:(N)まさか、これが恋心だなんて、その時は全く気付いていなかったけど……

 

―2週間後。定期テストが終わりテスト休みの日。翼宅にで寛(くつろ)いでいる和也。
―二人はスマホゲームで協力プレイをしながら話している。


翼:で?手応えどうよ?
和也:おう、今回はバッチリ!先生が良かったからな!ヤマも当ててくれたし
翼:ここの先生達はわかりやすいな!授業聞いてるだけで出題傾向がすぐわかるから助かったわ、ははっ!
和也:え、お前そんな事まで気にしながら授業聞いてんの?
翼:ん~、特に意識してるわけじゃ無いんだけどなぁ。何となく「あー、ここ強調してんなぁ、テストに出すんだろうなぁ」みたいな感覚はあるな
和也:マジか……。お前、神の耳だぞ、それ
翼:そんな事……あっ、ほら!油断してるから敵に攻め込まれてるだろ!?
和也:あっ!ごめん!……ってかナイスアシスト!逆にこっちが形勢有利になってんじゃん!
翼:へへっ、ボッチを舐めんなよー!伊達にゲーマーしてねーっつーの!
和也:……

和也:(N)俺には一つ気になってることがあった。それは聞いても良い事なんだろうか……?


和也:……なぁ……
翼:ぅおっしゃあ!勝ちぃ!やったね!これでランクアップじゃ……ってなんだ?和也プレイしてなかったのかよぉ!?
和也:あ……ご、ごめん!
翼:ちっ、しゃーねーな!んじゃ明日の昼飯お前のおごりな!
和也:えぇっ!?マジでかぁ……
翼:んで、なんか話しかけてたよな?なんだよ?
和也:……いや、なんでもない……
翼:……んだよ、ゲームそっちのけでボケッとしてたんだからなんか大事な話があったんじゃねーの?
和也:……わ、忘れちゃったよ!ランクアップ嬉しくてさ!
翼:だな!ここまで来るの結構時間掛かったしな!今日は祝杯と行こうぜ!
和也:え、酒飲むのか……?
翼:別に飲んでも良いけど……万一なんかでチクられでもしたらマズいからジュースにしとくか
和也:……だな。せめてテストの結果が出るまでは大人しくしてようぜ?
翼:そりゃ賢明な判断だ


和也:(N)ウチの学校は田舎の弱小校だって言うのに、妙に面子(めんつ)にこだわる。
和也:(N)俺がまだ小学生の頃にどっかの体育会系の部活がインターハイ出た!って大騒ぎしてたからなぁ……
和也:(N)今も全国模試で希に100位以内とかに生徒の名前が載ると廊下に張り出したりしている

和也:(ボソッと)次の模試っていつだっけ……?
翼:あ?冬場じゃねーの?まだ俺ら2年だし


和也:(N)キッチンで夕飯の支度をしていた翼にはしっかり聞かれていたようだ。相変わらず耳ざとい

翼:あれ、希望者だけで良いんだっけ?受験
和也:うん、一応建前上そうなってるけど、基本的には全員受けろって感じ?

翼:……それでトップクラス取ったりしたら、俺らの扱い変わったりとかすんのかな……?
和也:え?誰の?
翼:教師連中の、さ
和也:……どうだろうな……
翼:……町議の息子の力には勝てねーか……。ほら、お待たせ!片手間でも食えるように簡単なパスタにしたぞ!
和也:おっ、美味そー!……ってアレ?お前の得意なのって確かトマト系じゃ無かったっけ?今日はカルボナーラかよ……
翼:うっせーな!何でも作れるんだよ、俺は!好きだろ?和也
和也:う、うん……

和也:(N)俺は翼の気遣いが嬉しくて……俺の好物を覚えていてくれた事も嬉しくて……
和也:(N)普段母ちゃんが作ってくれるカルボナーラよりも何倍も美味く感じてしまった……


―間―


翼:ま、手始めに明日だな……
和也:え?
翼:明日、定期テストの一斉返却だろ?
和也:そうだな。その為に今日休みな訳だし
翼:(ボソッと)……ショボい田舎のカースト制度なんてぶっ壊してやろーじゃねーか……
和也:……?どういう意味だ?
翼:どこまでできるかわかんねーけど。今まではこんな事思わなかったけど。今は……俺一人じゃ無いから。和也がいるから、何でも出来そうな気がするんだ
和也:よ、よくわかんないけど……
翼:ま、明日になればわかるって!楽しみにしてな!俺は自信あっから!
和也:お、おう……


和也:(N)自信たっぷりの翼の姿に、俺は意味は分らないなりに安心感を覚えた
和也:(N)その日は二人でゲームを楽しんで、俺は夜結構良い時間になってから家に帰ったんだ……


―翌朝、教室にて


翼:なぁ、テストの返却と学年順位の発表、どっちが先だ?
和也:返却だな、普通。
翼:ふーん……。でも教師連中は、もうトータルの順位とか分ってんだよな?
和也:そりゃそうだろうなぁ……
翼:へへっ、こりゃあ楽しみだなぁ……

―担任が教室に入ってくる。
―なんだか態度が落ち着かないように見える。

和也:あ、ホームルーム始まるな
翼:おう、じゃあな

和也:(N)俺は自分の席へ戻った。相変わらず俺は“居ない事”になってるので誰も気にも止めない
和也:(N)と思ったが、担任だけは俺をまじまじと見ていた

和也:(N)え……、俺なんかマズい事したか?

和也:(N)俺と目が合った担任は気まずそうに目をそらし、そそくさと教室から出ていった
和也:(N)一限目は数学だった


和也:(N)出席番号順にテストが返される。俺はあとの方だが戻って来た解答用紙を見て思わず声が出た

和也:なっ……!?95点!?

和也:(N)俺の声にクラス中のザワメキがピタリと止(や)む
和也:(N)そりゃあそうだろう。今まではたまに追試組に居たりもしたんだ……

和也:(N)慌てて翼の方を見ると小さくガッツポーズを送られた

和也:(N)その後の授業で返却される解答用紙にも、ことごとく高得点が記載されていて……
和也:(N)一番驚いたのは他の誰でもない、俺自身だっただろう……


―昼休み、学食にて

翼:よっ!どうだった?午前中の合計点
和也:どうもこうもあるかよ!全部90点以上って……信じらんねーよ!
翼:おっかしいなぁ?俺はお前も満点取れるように教えたつもりだったんだけど……
和也:「お前も」って事は……翼は全部満点なのか?
翼:ああ。だって全科目百点取りゃ自動的に学年トップになるだろ?
和也:そ、そりゃそうだけど……。狙って取れるもんか?全科目百点なんて……
翼:おま(笑)あんま俺舐めんなよな―!……今まで言ってなかったけど、俺の第一志望カセダの政経学部だから
和也:なっ……!?

和也:(N)カセダ大学の政経学部といえば、私立大学の文系では最難関と言われているところだ……

翼:なにボケっとしてんだよ?お前も一緒に行こうぜ?その為に俺はわざわざ貴重な時間割いてお前に一生懸命勉強教えてんだからさ
和也:はっ!?ナニ言って……。お前「地元の国立大でも良い」って言ってなかったか?
翼:……最初はな。でもやっぱり俺はいつまでもこの土地に縛られていたくないや。理不尽な中で暮らすのはもう嫌だ
和也:……それは……そうだけど……
翼:ん?物足りねぇか?んじゃドー大の医学部でも目指す?俺は全然かまわないけど……
和也:医学部だって!?医者になるのには金が……
翼:(遮って)掛かり過ぎるだろ?時間もな。それにドー大よりカセダの方が遊びに行くのに便利じゃん?
和也:なっ……!?そんな理由で!?
翼:和也は一々うるせーな!少し黙って飯食えよ!
和也:ムグッ……!

和也:(N)そう言って翼は俺の弁当箱から卵焼きを勝手につまんで俺の口に放り込んでケラケラと笑った
和也:(N)コイツの度胸と頭の良さに、俺は何も言えなくなってしまった……

 

―午後の教室

翼:(N)午後も午前中と大して変わりはなかった
和也:(N)俺はどれもこれも百点に近い90点台
翼:(N)俺はまぁ当然全科目満点で
和也:(N)放課後、廊下に張り出された順位表はどれも一番上に翼の名前があり……
翼:(N)万年首位だった高梨が隠れるようにそそくさと昇降口から帰っていく姿がチラリと見えた

和也:科目によっては俺と翼がワンツーフィニッシュ、なんて奇跡的なものもあったしなぁ……
翼:俺としてはむしろ「全体順位」でそうならなかった方が不思議なんだが?
和也:無茶言うなよ!

翼:(N)まぁトータルで俺が一位、和也が4位だったから良しとするか
和也:(N)ちなみに張り出されるのは成績上位社50人まで。俺が載ったのなんて初めてのことだ、しかも一桁なんて……

翼:和也くん、キミは元々「やればできる子」だったんじゃないの?
和也:どうなんだろうなぁ……?勉強を一生懸命やったことなんかなかったし、わかんないや
翼:その調子で期末や模試も頼んだぞ?
和也:それは……アンタ次第だろ!
翼:わかってるよ。行こうぜ一緒に。東京
和也:ん……

和也:(N)その時の俺はまだ、素直に頷く事が出来なかった……

 

―翼宅で夕飯を食べながら

和也:なんか、もう俺、アンタんちで晩メシ食うの当たり前になってきたなぁ……
翼:一人分作るのもダリィから助かるけどな、俺は
和也:なんで?親父さんの分作ってね~の?
翼:うん。なんかちょっと前から「夕飯いらないから」って言われてさ。誰か職場でいいヒトでも出来たんじゃね?なんか最近機嫌良さそうだし
和也:へ、へぇ……。まぁ翼の親父さんまだ若いしかっこいいもんなぁ……


和也:(N)俺はほんの数回だけど、休日に翼の家に来た時に親父さんにも会っていた
和也:(N)涼し気な目元が翼とよく似た、中々のイケオジ……って言っちゃ失礼なくらいに奴の親父さんは若々しく見えた

和也:モテそうだもんなぁ、親父さん……。なんで今まで再婚しなかったのかの方が不思議だよ
翼:俺は知らねーけど彼女くらい居たんじゃないの?ただ転勤ばっかだからなぁ……。オンナは不安だろ?そういう男
和也:……カノジョ、かぁ……
翼:あ、そう言えばお前、こないだ俺になんか聞きかけてやめたろ?あれなんだったん?
和也:あ~……、うん。……翼ってカノジョ居たりすんのかなぁって
翼:やっぱりなぁ、ははっ!なんか今の流れでわかった気がしたよ
和也:いんのか?
翼:今は居ないよ。ってか随分前からいねーかな、付き合った子は
和也:……随分ってどれくらい?
翼:ん~……。中3の時が最後かなぁ?高校入って疎遠になって自然消滅って言うか……

和也:(N)俺はなんだかその話を詳しく聞くのが辛くなってきた……

和也:もう……いいよ
翼:え?
和也:過去の話は……聞きたくない……。って俺から振っといてごめんな……
翼:(微笑んで)いいよ。何となくお前の気持ち、わからなくもない。
和也:なっ……!?
翼:俺が……今までみたいに居なくなるんじゃないかって不安なんだろ?
和也:……っ!
翼:大丈夫だよ。お前さえ頑張ってくれれば俺らは一緒にここから抜け出せるんだ。うぜぇ周りの目からもな
翼:オヤジももう俺が居なくても大丈夫みたいだから……俺は俺の好きなように生きて行くよ、これから

和也:(N)屈託なく笑う翼の顔がまともに見れない……。コイツは俺に友情以外の感情なんて持ち合わせちゃいないだろう……
和也:(N)スゴく嬉しい言葉を言ってもらえてるのに……。俺はとても贅沢になっている……。
和也:(N)それに、俺がこんな気持ちでいるなんてバレたら今までの関係も壊れてしまうんだろう……


翼:……やっ?和也?こら!俺のメシそんなにマズいか?箸止まってんぞ?

和也:(N)呆(ほう)けていたら、いきなり目の前に翼の端正な顔立ちが迫っていた
和也:(N)突然の出来事に気付いたら俺の顔面は真っ赤になっていたらしい

翼:大丈夫か?熱でもあるんじゃねーの?顔赤いぞ?体温測ってみ?
和也:な、なんでもないって!大丈夫!メシもうまいよ!
翼:なら良いけどさ……。せっかくわざわざ道の駅の直売所まで行って仕入れてきたんだぞ、今日の食材は
和也:え?マジか!言ってくれたら俺が買ってきたのに……
翼:バーカ!お前に頼んだらお前が来るまでにメシ出来上がんね―だろうがよ!
和也:そ、そりゃそうか……


和也:(N)中途半端な気持ちをハッキリはさせたいけど、この関係を壊したくない……
和也:(N)俺は……どうしたら良いんだろう……?

 

和也:(N)数日後、ウチの郵便受けに一枚の写真が入った封筒が投函されていた
和也:(N)それを見て俺は愕然とした……

和也:な……んだこれ……

和也:(N)写真にはゲーム中にはしゃいでいる俺と翼が偶然近付いて
和也:(N)重なったように見えて……。
和也:(N)一見キスしているかのように取れる構図が写っていた

和也;(N)手紙には『この写真をばら撒かれたくなければ明日の朝七時に化学準備室に来い』と書かれていた
和也:(N)その指定場所でこの手紙の差出人が誰か俺にはわかってしまった……


―翌朝、科学準備室で待つ和也。そこに高梨が入ってくる。

高梨:やぁ、よく来たね。要件はわかってるだろう?
和也:高梨……。あんな写真、一体どうやって……
高梨:僕の”トモダチ”もあのマンション群に住んでてね。って3棟だけだけど
高梨:北野家の向かいの建物の屋上は良い眺めだなぁ!あっはっは!
和也:覗いてたのか……。汚い奴だなっ!
高梨:ん?見られて困るようなことしてたのかい?
和也:違っ……!ずっと見てたなら知ってるんだろ!?俺たちがただゲームして遊んでただけって事……
高梨:でも、あの写真はそうは見えない……よね?
和也:……何がしたいんだ……
高梨:簡単な話だよ。他所者(よそもの)の排除。
和也:翼はもう……
高梨:(遮って)いくら経(た)っても他所者は他所者だ。
和也:……っ!
高梨:一度だけチャンスを上げようか、君に……君たちに
和也:チャンス……?
高梨:ああ。もしも次の全国模試で君ら二人共が僕より成績上位だったらあの写真は消去してあげても良いよ?
高梨:その代わり、それが出来なかった時は、村中にあの写真をばら撒かせて貰うけどね
高梨:そうなったら君たち一家はこの村には住んでいられなくなるだろうねぇ?
和也:高梨……お前って奴は……っ!
高梨:用件はそれだけだよ。来月の全国模試、楽しみにしてるね

ー和也を残して高梨は去って行く。


和也:『翼はともかく、俺が高梨より良い点を取るなんて……
和也:……無理だ……そんな無茶な話があるか……
和也:だけどそうしないと家族みんなに迷惑が掛かる……一体どうしたら……』

和也:(N)どれ位の間床にへたり込んでいただろうか
和也:(N)俺はスマホの呼び出しバイブで我に返った。
和也:(N)翼からだった

翼:もしもし?なにやってんだよ?どこにいんだよ?もう予鈴なったぞ?
和也:あ、ああ……


和也:(N)俺の様子が尋常じゃ無い事を察して翼はこう提案してくれた

翼:とりあえず屋上で落ち合おうぜ!話しはそこで聞く!来れるか?
和也:うん……
翼:しっかりしろよ!俺がついてるからな!

和也:(N)翼はそう言って電話を切った

和也:(N)俺はのろのろと立ち上がり、翼の待つ屋上へと向かった……

 

翼:今はまだこれだけにしといてやるよ
翼:まずは高梨のヤローを潰す事を真っ先に考えねーとな!

和也:(N)俺は半分ボーッとした頭で翼の話を聞いていた

翼:こら!いつまでも呆(ほう)けてんじゃねーぞ!
翼:そろそろ1時間目が終わるから、2時間目からはしっかり出席して
翼:放課後は俺んちで猛勉強だからな?覚悟しろよ?


和也:(N)俺はその時“こいつと二人でならなににも負ける気がしない”って本気で思ったんだ……


翼:さ、教室に戻るぞ!
翼:……っと、その前にお前、トイレで顔洗ってこいよ(笑)
和也:あ、ああ……
翼:ほら、早く行って来いよ。俺は外で待ってっから
和也:う、うん……

和也:(N)そう言われても仕方ないくらい。俺は真っ赤になっていたんだろう……

 

―翌月、全国模試終了後。試験会場だった他校の校庭にて。


和也:あーっ!つっかれたぁ……今日は帰って腐るほど寝るぞ……
翼:おつかれおつかれ!で、どうだった?手応え
和也:ん~、一応わからない問題はなかった……かな
翼:よっしゃ!俺が1ヶ月しごきまくった甲斐があったな!
和也:それだけじゃないぞ!ちゃんとアンタに出された宿題も家でやってたからな!
翼:だから寝不足ってか……
和也:そういうこと!ふぁ~あ!んじゃ今日は(まっすぐ帰って)
翼:(遮って)おい!散々教えて貰って礼の一つもねーのかよ?
和也:え?
翼:せっかくこの街まで出て来たんだから、まっすぐ帰るなんてもったいねーだろ?
和也:マジか……
翼:確か、駅ビルあったよな?
翼:この学校に来る途中にはショッピングモールもあったの、バスの中から見たぞ?
和也:あ、アンタ随分元気だな……
翼:だって俺、毎晩日付変わる頃には寝てたもん
和也:どうせアンタと俺とじゃ頭の出来が違うよ!ここはそれに免じて……
翼:(小声で)帰さねーよ。
和也:え?
翼:もしかしたら……最初で最後の“デート”になるかもしれねーだろ……
和也:あ……
翼:それでも……行かない?
和也:い、行く行く!ゲーセンでも映画館でも付き合うよ!
和也:って……映画見てたら俺、寝ちゃうかもしんない……
翼:はははっ!とりあえず駅ビルはウチの学校の連中も多そうだから
翼:バス、途中下車してショッピングモールに寄らねぇ?
和也:うん、そうすっか
翼:トーゼン授業料として遊び代はお前のオゴリだからな?
和也:はっ!?マジで?全部?
翼:ぷっ……ははは!嘘に決まってんだろ!
翼:でもまぁアイスくらいはおごれよ?
和也:ビビらすなよ……。俺そんなに金持ってきてないし。
和也:何時まで遊ぶかわかんないけどアイスだけじゃ無くて夕飯も食べるなら
和也:飯くらいはおごるよ!
翼:マジかー!やったぜ!よっしゃ、早く行こうぜ!


和也:(N)俺たちは、もう誰も居なくなった校庭を後にしてバス停へ向かった

 

―和也の自室。帰宅後に眠ろうとしているが興奮して眠れない。


和也:『は~、楽しかった!好きな人と遊ぶってこんなに楽しいのか……
和也:たまに食べるアイスも、フードコートの安いラーメンも
和也:今までにも食べた事あるはずなのに
和也:まるで初めて食べる食べ物みたいに美味しく感じたなぁ……』


―和也、段々眠くなってくる。


和也:『さすがに手は繋いだり出来なかったけど……。
和也:ゲーセンで地元のヤンキーに絡まれそうになった俺を
和也:さりげなくフォローしてくれた翼……。かっこよかったよなぁ……。
和也:後は模試の結果さえ良ければ……』


―和也、そこで意識が途切れる。


―2週間後。教室で各自に模試の結果が配布される。


翼:和也!どうだった!?
和也:……。
翼:だ、ダメだったのか……
和也:(小声)……がう……
翼:え?
和也:違うよ!とんでもなく良いんだよ!順位が!
翼:お、おう……
翼:『(心の声)当たり前だろ!何の為に俺が必死こいて付きっきりで
翼:カテキョーしたと思ってんだよ……』
翼:で、何位?
和也:聞いて驚け!7位だよ!全国でだよ!?この俺が!
翼:……。(複雑な顔)
和也:あ?どうした?難しい顔しちゃって……
翼:……微妙だな……その順位じゃ……
和也:へっ!?
翼:高梨はいつも何位なんだよ!?
和也:あっ……っ!

和也:(N)そう。俺は今まで取った事のない高順位に浮かれてしまっていた
和也:(N)だけど問題はそこじゃ無かったんだ。
和也:(N)「高梨より上位か否か」。それが一番の問題だった……

和也:そ、そういう翼は何位だったんだよ?
翼:俺は2位。凡ミスちょっとやらかしたっぽいな。
翼:本気でトップ狙ってたのに。万一高梨が1位だったら……

和也:(N)俺たちは顔を見合わせた。
和也:(N)これは……昼休みに廊下に張り出される順位表を見るまでわからない……

 


―昼休みの廊下。

翼:上から見てった方が早いよな……。
翼:よし、1位は他県のヤツか……。後は高梨の順位を……


―和也はビクビクしていてまともに順位表が見られない。

翼:おい、しっかりしろよ!お前の順位が問題なんだからな!
和也:わ、わかってるよ……。だから見れないんじゃんか……
翼:高梨、高梨……え!?
和也:なっ、なんだよ、どうした!?
翼:あいつ、ベスト10に入ってないぞ……えっと……28位……だと……?
和也:ま、マジか……
翼:こんな事で嘘ついてどうすんだよ!やったな!俺らの勝ちだ!
和也:つ、翼ぁ……(廊下にへたり込みそうになる)
翼:(和也の腕を取って)おっと!倒れてる場合じゃねーぞ!
翼:さ、高梨にデータ削除させに行くぞ!
翼:ちゃんと目の前で確認しないとアイツは信じらんねーからな
和也:……そういえば、昼休みになってすぐ居なくなったよね。どこ行ったんだろ?
翼:お前が呼び出されてたとこじゃねーの?
和也:あ、そうかも。……俺、行って来る
翼:一緒に行くよ
和也:一人で大丈夫だよ。そもそも脅されたのは俺なんだし
和也:ばら撒かれて困るのは俺の家族だし、俺の問題だ
翼:(小声)……んだよ……
和也:え?
翼:俺ら二人の問題じゃねーのかよ?
和也:ま、まぁ、今となってはそうかもしれないけど、元々は俺一人の……
翼:(遮って)わかったよ!上手くやれよ!
和也:うん!任せろって!

 


―放課後、翼の部屋。


翼:ぷっ……ははは!そっかぁ、見たかったなぁ、そん時の高梨の顔!
和也:マジでアレは見物(みもの)だったぜ!
和也:真っ青な顔してガタガタ震えてんの!
和也:あのいつも威張りくさった表情はどこへやらー?って感じで
翼:よっぽど悔しかったんだろうなぁ、あの順位
和也:でも高梨、全国レベルだとあれでも良い方だよ?
翼:え?そうなの?おまっ……それを早く言えよっ!
翼:俺はてっきりアイツは全国でも一桁レベルの猛者(もさ)かと勘違いしてたわ!
和也:だって……それ言っちゃったらアンタ手抜きするだろ?
翼:……っ……。た、確かにそうだったかも……
和也:俺は、思いっきり差をつけてアイツを見返したかったんだ
和也:だから敢えて言わなかった。それは謝るよ。ごめん
翼:……べ、別に良いよ。そのお陰でお前が全国一桁取れたんだし
翼:それに、これからもこの調子でしごくから慣れて貰うのに丁度良いしなぁ?

―翼、ニヤリと笑う。


和也:え?な、なんで?模試はもう終わったじゃん……
翼:……同じ大学、行こうぜ、和也……
翼:そして、一緒に暮らそう。東京で。
和也:……え?
翼:ただ単にルームシェアするルームメイトとしてじゃなくて……
翼:……その……ど、同棲、って感じで……(少し照れる)

―少し沈黙(良い雰囲気)


和也:そ、それには相当頑張らなきゃだな、俺
翼:大丈夫だよ。先生が良いから
和也:自分で言うなよ!
翼:じゃ、ちゃんとお前が言ってくれる?
和也:い、いつも言ってるだろ?
翼:勉強に関してのお礼は……な……
和也:そ、それ以外になにを……
翼:(しょんぼりと)……俺、まだ肝心の言葉聞いてない……。「同棲しよう」なんて誘っちゃったけど……
翼:嫌なら断ってくれて良いし、無理に東京の大学に行く必要だって(無いんだよ?)
和也:(遮って)だーーっ!そう言ってまた俺を煽る!わかってるくせに!
翼:(ケロッとして)へへへ、バレたか
和也:当たり前だって!ずるいぞ!自分ばっかり!
翼:俺は……態度で示したつもりだけど……それじゃ不満か?
和也:うっ……(キスした事を思い出して赤面する)
翼:だから、今度はお前の番だろ?早く言ってくれよ
和也:(小声)……だ……
翼:え?
和也:(小声)アンタが好きだよ……。すっと一緒に居たい……
翼:聞ーこーえーなーい―!
和也:ちょっ、あのなぁ……!!んっ……(キスで唇を塞がれる)
翼:(すぐに離れて)ありがと。やっと安心した
和也:なっ……?不安……だったの?
翼:当然だろ!お、俺、そこまで自信過剰じゃねーし!
和也:へー、意外な一面見ちゃった!(クスクス笑う)
翼:(ぶっきらぼうに)笑うんじゃねーよ!
和也:俺の方が不安だったんだけどなぁ……。だってアンタ元カノいたって聞いたし……
翼:あ?そんなの昔の話しだって言ったろ?俺は性別関係なく“一緒ににいて一番居心地の良い人間”と付き合うよ
和也:……アンタ、もしかして人間じゃ無くても良いのかもしれないな……
翼:……どうだろうなぁ?人外のモノとは縁が無いからわからんけど……
和也:真面目に考えるなよ!冗談だろ?冗談!俺の立場は……
翼:あはは、安心なって。お前といるのが今までで一番楽で心地良いよ
和也:……マジで?
翼:マジで
和也:そっか……。……っよしっ!本腰入れて受験対策するわ!
和也:カセダに受かる為には今から準備しなきゃだろ?
翼:お前の場合、今からでも遅い位だよ!まぁ先生が良いから……
和也:わかったわかった!でも今日くらいは……
翼:そうだな、街行って遊ぶか!
和也:そう来なくっちゃ!物わかりの良い先生で良かったよ!
翼:俺だって一応必死で勉強してたんだからな?息抜きはしたいよ
和也:……そうだよなぁ……全国2位だもんなぁ……
翼:ぶっちゃけここまで頑張れたのはお前のお陰だよ。ありがとな、和也
和也:え……そうなの?
翼:なにを今更!お前とお前の家族を守る為だから頑張れたんだよ!
翼:(小声)いつも世話になってるおばさんに迷惑かけたくなかったしな……
和也:……ありがと、翼……
翼:(照れながら)あ~!ほら、早く出掛ける準備しろ!今日は遊び倒すぞー!
和也:……うん……


和也:(N)これからどうなるかなんて分らない
和也:(N)だけど俺は今、初めて“家族以外に大事な人”を見つけたんだ
和也:(N)そして、相手も同じように俺の事を大事にしてくれる……これ以上の幸せがあるだろうか?
和也:(N)俺の初めての恋人が……男だったとしても、別になにも不自然なことじゃ無いんだろう
和也:(N)翼は俺にすんなりとそう思わせてくれた。すげぇヤツだな……

翼:モタモタしてるとおいてくぞ?ほら、スマホテーブルの上に置きっぱなし!
和也:ああ、ごめん!ちょっと呆(ほう)けてた……
翼:この調子なら今日のゲームは俺の圧勝に間違いないな?
和也:なっ……ふざけんなよ?今日はボッコボコにしてやるからな!

 

―二人、笑いながらドアを閉め楽しげに近くのバス停に向かって去って行く。


=END=