★Blue Roseの花言葉ー軌跡・神の祝福・一目惚れー
ー翼、朝の教室で一人つまらなそうにスマホをいじっている。
ー他にもクラスメートはいるが誰も翼に声を掛けようとはしない。
ー登校してきた和也が翼を見つけ、声を掛ける。
和也:おはよう。え、なに、もうそこまで進んだの?
翼:(ハッとして)な、なんだ、和也かぁ……。脅かすなよ!おはよ!
翼:うん、昨日、家帰ってからずっとプレイしててここまでクリアした
和也:マジかぁ……俺なんか試験勉強しろー!って母ちゃんにスマホ取り上げられちゃって……
翼:あー、だからジョインしてこなかったのか。ってか試験までまだあと2週間あるじゃん?
和也:俺は翼みたいに頭良くないから……。赤点も時々取るし……
翼:……(小声)するか?
和也:え?
翼:一緒に、勉強するか……?わかんねーとこあったら、教えてやれっかもしれねーし
和也:……いいの?
翼:……俺は良いけど、お前こそ良いのかよ?周り見てみろよ?
和也:?
ー和也が気付くと、クラスメート達は遠巻きにヒソヒソとこちらを見ながら何かを話している。
和也:気にしねーよ。俺はもう決めたんだ。こんな田舎で凝り固まった考えしか持ってない奴らの事は気にしない、ってね。
翼:……そっか。和也がそういうなら、俺はなんも言わないけど。でも困るのは……
和也:(被せて)「お前だぞ?」とか言うなよな?お互い様だろ
翼:……そっか……。そうだな……
―二人、クスクスと笑う
和也:(N)田舎の片隅で暮らしている、頭の凝り固まった連中なんかに、俺は、俺達は負けない……。
―以下、和也の回想―
和也:(N)翼がこの田舎町の高校に転校してきたのは、夏休みが明けてすぐの事だった。
和也:(N)東京から車で四時間弱。都心からそんなに遠いわけではないのに最寄り駅には在来線しか停まらないせいか、観光地としての方が有名だ。
和也:(N)高校二年の秋、大学受験も控えてるって言うのにわざわざこんな田舎に引っ越して来るなんてちょっと変わった奴だなぁと言うのが翼に対する第一印象だった。
翼:どもっ!オヤジの仕事の都合で転校してきた北野翼です!趣味は球技全般とー、あとはPCいじったりとか、ギター弾いたりとか。よろしく!
和也:(N)薄茶色に染めた、不揃いな髪。
和也:(N)新品の制服はオシャレに着崩(きくず)されていて。奴は俺達地元民とは明らかに違う空気をまとっていた
和也:(N)最初にザワついたのは女子の皆さんだった。そりゃ当然だろう。
和也:(N)都会からいきなり“まるで雑誌のグラビアから抜け出してきたかのような爽やかイケメン”が来たんだからな。
和也:(N)小中高と、同じ顔ぶれで育って来た彼女たちにしてみれば青天(せいてん)の霹靂(へきれき)と言っても良いくらいの出来事だ。
和也:(N)ちょっと気が利(き)いて勉強の出来る連中は、通学に片道1時間半かかる隣町の高校に進学してったからな……
翼:あ、隣の席なんだね?よろしく!お、なんか難しそうな本読んでるじゃん?面白い?それ
和也:(N)担任に指定された窓際の席に座った奴は、隣の女子に気安く話しかけていた
和也:(N)地味な万年図書委員の彼女があんなに慌てている姿を見た事がある人物は、多分いないだろう
和也:(N)それくらい、翼の転入っていうのは俺達の退屈な毎日の中で衝撃的だったんだ……
和也(N)……良くも、悪くも……
翼:え?転校してきた理由?オヤジの転勤だけど……。ほら、ダムあるだろ?この町。あそこに赴任して来たんだ
和也:(N)翼は休み時間に一部の女子に囲まれて質問攻めにされていた。その答えが聞こえてくる
翼:単身赴任させたらウジ湧くって(笑)俺、こう見えても家事全般こなせるから。
翼:母親?まだ俺が小さい頃に事故で……ね。あ、そんなに気にしないで!もう全然大丈夫だから
和也:(N)笑顔で質問に答えている翼の声を、耳をそばだてて聞いているたのは俺だけじゃなかった
和也:(N)クラス中の全員が別の事をしてるフリをしながら、耳だけは奴の声に集中していた
翼:進学は……そりゃあ東京にいたほうが通学は楽だけど、一応オヤジの赴任予定が2年だから、進学する頃には帰れるかなーって
翼:それに、ここの県庁所在地にある国立大、そこそこ有名じゃん?いざとなったらそこでも良いかなぁって……
和也:(N)サッと教室に緊張が走った。あの大学はAランクとは言わないまでもやつの言う通りそこそこ有名。
和也:(N)……そして、当然それなりに頭が良いやつしか入れない。そんな大学を「いざとなったら」って……
和也:(N)成績でトップの座を譲ったことのない、クラス委員で生徒会長でもある、この学校を実質牛耳ってる高梨のメガネがキラリと光った
和也:(N)どうやら奴は転入早々ヤバい奴を敵に回したようだ……
和也:(N)俺は「触らぬ神に何とやら」で奴のことは無視することにした
和也:(N)高梨の視線に気付いたクラスの大半の奴らが同じ事を考えただろう
和也:(N)しかし、そんな俺の気持ちなんか無視して「触りたくない奴」と関わることになるとは……
―放課後、昇降口でにて。
和也:うわぁ……。結構本降り(ほんぶり)じゃん……。今朝の天気予報で雨とか言ってたっけ?
和也:『あ。そっか。今朝寝坊して慌ててたから出掛けに天気予報チェックするの忘れてた……。参ったなぁ……。』
翼:傘ないの?良かったら一緒に入る?俺、バス停までだけど……。えっと、同じクラスの……
和也:藤原。藤原和也
翼:ごめんな、まだ名前全員覚えられてなくて。そんなに人数いないのにな(笑)で、バス通(つう)?
和也:いや、俺はチャリだけど……この雨の中チャリはちょっとツラいかな……。山道だし。
翼:だよなぁ。俺もチャリ乗るの好きだけど、さすがに毎朝この山道通学してきてから授業受けるとなると寝ない自信ないからさ(笑)
和也:でも、バスだと本数少ないべ?
翼:そうなんだよね、終バスも早いし。家族に迎えに来て貰うって訳にもいかないからさ、俺は。部活も入りたいけど物理的に無理だよなぁ……
和也:(N)さっきまで名前も知らなかった俺とこんなにペラペラ話せるっていうのは一種の才能だよなぁ……。
和也:(N)普段人見知りで決まった奴らとしか殆ど話しをしない俺も、さっきまで関わりたくないと思っていたコイツと話している事を楽しく感じている
和也:(N)そんな自分の中の矛盾に戸惑いながらも、俺はやつのペースに飲み込まれてしまっていた……。
翼:藤原は部活入ってないの?
和也:(N)急に問い掛けられて我に返る
和也:お、俺は一応部活っていうか漫研(まんけん)に所属はしてるけど……
翼:あははっ!その様子だとろくに活動してないな?
和也:ちゃ、ちゃんと漫画描いてる奴なんて殆どいないよ!みんなアニメのDVD見てたりゲームしてたりとか……
翼:楽そうじゃん?オタクの楽園って感じ?
和也:(N)そういう言われ方すると普通ムカつくもんなんだろうけど……なんでだろう。コイツの言い方からはオタクをバカにしたり蔑(さげす)むような響きは感じなかった……
翼:ん?何不思議そうな顔してんの?
和也:(N)いつの間にか俺たちは一つの傘に入ってバス停に向かって歩いていた
和也:いやぁ……。アンタスポーツが好きだって言ってただろ?だからオタク系の事は……バカにされるかなぁと……
翼:なんだよ、そっちこそ偏見!(笑)俺だってアニメも見るしゲームだってするぞ?それに球技は一人じゃ出来ねーしな……
和也:(N)さっきまであんなに明るく眩しく見えたコイツの顔に、フッと影が落ちたような気がした。ほんの一瞬のことだったけれど。
翼:割とゆるい感じなら、俺も漫研入ろっかなぁ……。課外活動してたほうが内申点いいだろ?
和也:まぁ、そうだろうけど……
和也:(N)校内での漫研の評判は決して良いものではなかったが……それは今は黙っておこう
和也:(N)そんな話をしているうちに俺たちはバス停に着いた
和也:家、どこなんだ?
和也:(N)俺は傘に”入れて貰った側”なのに、入れてくれた奴の肩はグッショリと雨で濡れてしまっていた
和也:(N)それに気付いた俺はなんだか気まずくなって、何となくそんな事を口走っていた
翼:スーパーの、2つ先のバス停あるだろ?あそこの近くのマンション。オヤジの会社が借り上げしてるんだ
和也:げ。30分以上かかるんでないか?風邪引くぞ?
和也:(N)まだ初秋とは言え山沿いの空気は冷たい。都会から来たボンボンがこの山の底冷えした空気に耐えられるのか?と俺は不安になった
翼:大丈夫だよ(笑)部活やってた時は普通に雨の中走らされてたし
和也:東京とこっちじゃ気温が違うだろ?俺んちは次のバス停からすぐだから……良かったら温まってけや?
翼:え……良いのか?
和也:だって、アンタが濡れたの俺のせいじゃ……
翼:(遮って)俺が勝手に濡れたんだよ!お前のせいじゃ……(だんだん小声)
和也:(N)そう言いながら少しうなだれるコイツ……翼は、なんだか捨てられた子犬のように見えた……
翼:……い、良いのか?お邪魔しても……
和也:うっさい母ちゃんがいるけどね(笑)
翼:俺は……帰っても誰も居ないから……ちょっと羨(うらや)ましいよ……
和也:『そうか……。コイツ小さい頃から鍵っ子だったんだっけ……。』
和也:ま、気にしないなら寄ってけや。茶の一つくらい飲んでけ
翼:……ん、ありがと
和也:(N)そう言って微笑んだ奴の笑顔に、不覚にも俺は今まで感じた事のない想いを持ってしまった……
―間―
―夕刻、和也宅から自宅に帰った翼。
―真っ暗な部屋に一人ポツリと佇(たたず)む。
翼:でも、なんか……いつもと違うな。一人の部屋でも……(笑)
翼:(N)藤原の……和也の家は、なんかとっても暖かかった……
翼:(N)それは単純に室内温度のせいだけじゃなく、俺がずっと昔に経験した何かと……
翼:(N)初めて感じる何かがごちゃ混ぜになった不思議な気持ちだった……
翼:さぁてっと……。晩メシの支度すっか……。今夜もオヤジ、遅いのかなぁ……
翼:(N)俺はそう独り言を言いながら、さっきスーパーで買い込んできた食材を手早くそれぞれのあるべき場所に片付けだした
―翌朝の教室。和也が登校しいつもツルんでいる奴らに声を掛けた。
和也:よ!おはよー!
ー昨日までは明るく返ってきていた筈の返事はなく、皆そそくさと和也から離れて行く。
和也:『なんだ……?俺、アイツらになんかしたっけ……?』
ー和也が自分の席につくと、机の上に油性マジック大きく落書きが書かれていた。
和也:(N)……「裏切り者!」……?どういう意味だよ……
ー不思議に思っている和也に高梨が背後から声を掛けた。
高梨:和也君、ちょっと良いかい?
和也:高梨?あ、ああ。
和也:(N)この時点で俺は全てを察したんだ……
―化学準備室で対峙する二人。
高梨:ここならしばらくは誰も来ないだろう。君に少し話があってね
和也:(N)そう言われた時点でもう俺には察しがついていた
和也:北野のことだろ?
高梨:……わかってるなら、もうあんな真似はしないことだね。この狭いコミュニティで……ハブられたくないのなら
和也:(N)高梨のメガネのフレームが朝の光を浴びてギラリと光った
高梨:困るんだよね、他所者(よそもの)とあんまり急に親しくされては。この学校で平穏な生活を送りたいなら僕の忠告は聞いておいた方がいい。わかるだろう?
和也:……
和也:(N)どうやら昨日の放課後の事を誰かが高梨にチクったようだ
高梨:この学校のヒエラルキー、わかってるよね?頂点に君臨している人間は一人で十分なんだ
和也:(N)高梨はそういうと俺の肩をポン、と叩いて化学準備室から出ていった……
和也:(N)俺はしばらくその場に立ち尽くしていたが、予鈴がなり、慌てて自分の教室に戻っていった
和也:(N)席に戻ると、いつの間にか落書きは消されていた
和也:(N)窓際の席では奴がポツンと座っている。誰も話しかける者はいない
和也:(N)昨日話しかけていた女子も、今はまるでそこには誰もいない家のように振る舞っている
和也:(N)隣の席の図書委員は、心なし昨日より机を離しているように見えた……
高梨:この学校で平穏な生活を送りたいなら僕の忠告は聞いておいた方がいい。わかるだろう?
和也:……。
和也:(N)さっきの高梨の声が頭の中でリフレインする
和也:(N)やがて本鈴が鳴り、1限目の数学教師が教室に入って来て俺の思考は寸断された……
―昼休み
和也:(M)アイツ、昼飯どうするんだろう……?確か昨日は学食で女子と……
―和也、学食の隅でポツリと孤独に食事をしている翼を見つける。
和也:『あ……一人だ……。』
和也:(N)その時、奴と目が合った。奴は寂しそうに……凄く寂しように、笑ったんだ……
―間―
和也:(N)気付いたら俺は、奴の向かいに座っていた
翼:……んだよ、お前。オレに近付かない方が良いんだろ?向こういけよ
和也:いーんだよ、お前に気遣われる筋合いじゃない。俺の行動は俺が決める
翼:……机に落書きされてたろ?知ってんぞ……
和也:うるせーな、グダグダ言ってるときつねうどんのびるぞ?
翼:お、おう……
和也:(N)俺はコイツの向かいで持参の弁当を広げた。食堂中の空気がガラリと変わったのを肌で感じる
和也:(N)高梨の言葉が気にならなかったと言ったら嘘になる。だけど、それよりも、俺は……
翼:お前こそなんだよ?弁当広げたまんま全然手ぇつけないで呆(ほう)けちゃってさ。うまそーな唐揚げ!貰うぞ?
和也:あっ、バカヤロー!てんめぇ……
―和也が言い終わらない内に翼は和也の弁当箱から唐揚げを一つつまみ、口に頬張っていた。
翼:昨日も思ったけど、お前のお母さん料理上手いよなぁ。今度教わりに行っても良いか?
和也:おう、母ちゃんも喜ぶぞ、きっと。お前が帰った後「アンタに随分垢抜けた友達が出来たわねぇ!」って興奮してたからなぁ
和也:(N)俺はもうその時に、この“狭くて堅苦しい、小さな世界”からはみ出すことの覚悟は出来ていた……
和也:(N)それからはお察しの通り。文字通り俺は学校中の連中から村八分にされた
和也:(N)高梨の父親は県議をしている。その権力を恐れた教師達もいわゆる“いじめ”に対してすら無視を決め込んでいた
和也:(N)でもいいんだ。俺に大事な……初めて“親友”と呼べるような友達が出来て、いつもそいつと一緒だったんだから。
―以上、和也の回想終わり―
翼:んじゃ、今日放課後お前んち寄ってって良いか?
和也:マジかー!助かるわ!ちょっと数学で手こずってるとこあってさぁ
翼:おお、任せとけって!
和也:んじゃ一応母ちゃんに連絡しとくわ。和也が来ると母ちゃん喜ぶから、なんか美味いもん用意しといてくれるかもしれないし
翼:え、気ぃ遣わせるの悪いな……
和也:好きでやってんだからやらせといてくれよ、ははっ!「翼くんてアイドルみたいよねぇ」とか言って、すっかりお前のファンだぞ?
翼:……でも、なんか行く度に夕飯ご馳走になったり、親父の分の夜食まで持たせて貰ったりとかして、なんか申し訳なくて……
―少し縮こまる翼。
和也:(N)……そんな翼の姿は見たくない……。いつも眩しく輝いていて欲しいのに……
和也:そうだ!お前さえ良いなら、たまには俺がお前んちに行っちゃダメか?
翼:え、だって和也の家から結構あるじゃん……
和也:チャリで行けば楽勝だろ?
翼:……お前が良いなら、俺は別に構わないけど……
和也:(N)こうして俺は初めて翼の家に行くことになった
和也:(N)翼が転校してきてそろそろ一月が経とうとしていた頃だった……
―翼の自宅にて。
翼:おう、よく来たな、お疲れ!とりあえず上がって上がって!
和也:おじゃましまーす……ってへぇ……。男所帯の割に結構綺麗にしてるじゃん
翼:まぁな!俺がしっかり”主夫”してっから!だからオヤジも生きてるわけだし。ははっ!
和也:……だよなぁ……毎日遅いんだろ?親父さん
翼:ん~そうだな。大抵午前様だな。仕方ねーよ、大規模改修工事が始まったばっかだからな
和也:親父さんって、その改修工事の為に来たんだろ?
翼:そうだよ。東京本社にいた……計画段階からここの工事には携(たずさ)わってたからなぁ……
和也:そっかぁ……
翼:ま、立ち話もなんだからとりあえず座れよ?麦茶とジュース、どっちが良い?
和也:あ、まず麦茶くれ!めっちゃ喉渇いてる!!その後ジュース!
翼:あはは!贅沢な客だな!ま、わざわざ山道チャリで来てくれたんだから大目に見るか!
ー和也、居間に移動。そこに翼がトレイに乗せた麦茶ポットとペットボトル入りのジュースを持ってくる。
和也:なんだよ?俺こんなに飲まな……
翼:お前のだけじゃねーって!俺だって飲むんだよ!夕飯の下ごしらえしてたから結構喉渇いてんの!勝手にコップに好きなだけ注(つ)いで飲めよ
和也:……セルフサービスね、はいはい……
翼:持ってきてやったじゃん?不満あんのかよ?
和也:あ~ないっす!あざーっす!いただきまーす!
―和也、とりあえず麦茶を注いでグビグビと飲み干す。
和也:ぷはーーっ!生き返るっ!
翼:どこのオヤジだよ!(笑う)もう一杯行く?
和也:うん。それからゆっくりジュース貰うわ。……で、翼の親父さんっていつもそんな感じなのか?
翼:え、なにが?
和也:そうやって、改修工事の計画を本社で立てて、いざ始まったら現地に行く、って言う……
翼:ああ。仕事な。うん、昔っからそんな感じだったよ。だから俺も都内と地方を行ったり来たりでさ……。田舎ってどこもかわんね^のな……
和也:(N)その時、また翼はとても寂しそうな顔をして笑った……。転校2日目の学食で見た時のような、初日の太陽みたいな笑顔からは想像もつかないような笑顔……
和也:俺は違うからなっ?そこらの奴と一緒にしてくれんなよ!?
和也:(N)何をとち狂ったのか、俺は翼の手をがっしりと握りしめてそう叫んでいた
和也:(N)それまで寂しげではあったが笑顔だった翼の顔が途端に歪(ゆが)む
翼:今まで……引っ越し先でそうやって俺を受け入れてくれた奴は誰もいなかった……。信じて……いいのか……?
和也:(N)おそらくここでの2年弱を孤独に過ごす覚悟をしていたであろう翼……。その翼が今にも泣き出しそうな顔をして俺を見ている
和也:信じろよ!大体今現在既に俺たち学校中からハブられてんじゃん?こうなったらどこまでも付き合ってやるよ!アンタを一人になんてさせねーよ!
―翼の瞳からポロポロと涙がこぼれる。
翼:一人には……慣れてたつもりだったんだ……。どこの地方に行っても大抵は仕切ってる奴がいて……俺は他所者(よそもの)扱いで。最初はチヤホヤされても「目立ってウザい」ってハブられて……。慣れてたつもりだったんだ……
和也:そんなのに慣れたらいかんだろ?アンタなんか悪い事したのかよ?なんもしてねーじゃん!
翼:そんな事言ってくれる奴、今まで誰もいなかったよ……
和也:(N)そう言って、涙を流しながらも微笑む翼は……とても美しくて……
和也:(N)窓からさしてくる、暮れかけた太陽の光に輝く涙がとても愛おしくて……
和也:(N)俺は思わず翼を抱き締めてしまった……
翼:……っ!?か、和也!?
和也:(N)翼の声を聞いてハッと我に返る。そして俺は慌てて身体を離した
和也:ご、ごめ……俺、別にそんなつもりは全然無くて……。気が付いたら、なんか……その……
翼:(微笑)ごめん、俺が悪かった。泣いたりしたから……心配させちゃったんだよな。優しいな、和也は
和也:(N)俺の突然の抱擁(ほうよう)にも全く動じずに、笑顔で受け入れてくれた翼……
和也:(N)俺はこの時“こいつのことは絶対に俺が守ってやる”って決めたんだ
和也:(N)まさか、これが恋心だなんて、その時は全く気付いていなかったけど……
―2週間後。定期テストが終わりテスト休みの日。翼宅にで寛(くつろ)いでいる和也。
―二人はスマホゲームで協力プレイをしながら話している。
翼:で?手応えどうよ?
和也:おう、今回はバッチリ!先生が良かったからな!ヤマも当ててくれたし
翼:ここの先生達はわかりやすいな!授業聞いてるだけで出題傾向がすぐわかるから助かったわ、ははっ!
和也:え、お前そんな事まで気にしながら授業聞いてんの?
翼:ん~、特に意識してるわけじゃ無いんだけどなぁ。何となく「あー、ここ強調してんなぁ、テストに出すんだろうなぁ」みたいな感覚はあるな
和也:マジか……。お前、神の耳だぞ、それ
翼:そんな事……あっ、ほら!油断してるから敵に攻め込まれてるだろ!?
和也:あっ!ごめん!……ってかナイスアシスト!逆にこっちが形勢有利になってんじゃん!
翼:へへっ、ボッチを舐めんなよー!伊達にゲーマーしてねーっつーの!
和也:……
和也:(N)俺には一つ気になってることがあった。それは聞いても良い事なんだろうか……?
和也:……なぁ……
翼:ぅおっしゃあ!勝ちぃ!やったね!これでランクアップじゃ……ってなんだ?和也プレイしてなかったのかよぉ!?
和也:あ……ご、ごめん!
翼:ちっ、しゃーねーな!んじゃ明日の昼飯お前のおごりな!
和也:えぇっ!?マジでかぁ……
翼:んで、なんか話しかけてたよな?なんだよ?
和也:……いや、なんでもない……
翼:……んだよ、ゲームそっちのけでボケッとしてたんだからなんか大事な話があったんじゃねーの?
和也:……わ、忘れちゃったよ!ランクアップ嬉しくてさ!
翼:だな!ここまで来るの結構時間掛かったしな!今日は祝杯と行こうぜ!
和也:え、酒飲むのか……?
翼:別に飲んでも良いけど……万一なんかでチクられでもしたらマズいからジュースにしとくか
和也:……だな。せめてテストの結果が出るまでは大人しくしてようぜ?
翼:そりゃ賢明な判断だ
和也:(N)ウチの学校は田舎の弱小校だって言うのに、妙に面子(めんつ)にこだわる。
和也:(N)俺がまだ小学生の頃にどっかの体育会系の部活がインターハイ出た!って大騒ぎしてたからなぁ……
和也:(N)今も全国模試で希に100位以内とかに生徒の名前が載ると廊下に張り出したりしている
和也:(ボソッと)次の模試っていつだっけ……?
翼:あ?冬場じゃねーの?まだ俺ら2年だし
和也:(N)キッチンで夕飯の支度をしていた翼にはしっかり聞かれていたようだ。相変わらず耳ざとい
翼:あれ、希望者だけで良いんだっけ?受験
和也:うん、一応建前上そうなってるけど、基本的には全員受けろって感じ?
翼:……それでトップクラス取ったりしたら、俺らの扱い変わったりとかすんのかな……?
和也:え?誰の?
翼:教師連中の、さ
和也:……どうだろうな……
翼:……町議の息子の力には勝てねーか……。ほら、お待たせ!片手間でも食えるように簡単なパスタにしたぞ!
和也:おっ、美味そー!……ってアレ?お前の得意なのって確かトマト系じゃ無かったっけ?今日はカルボナーラかよ……
翼:うっせーな!何でも作れるんだよ、俺は!好きだろ?和也
和也:う、うん……
和也:(N)俺は翼の気遣いが嬉しくて……俺の好物を覚えていてくれた事も嬉しくて……
和也:(N)普段母ちゃんが作ってくれるカルボナーラよりも何倍も美味く感じてしまった……
―間―
翼:ま、手始めに明日だな……
和也:え?
翼:明日、定期テストの一斉返却だろ?
和也:そうだな。その為に今日休みな訳だし
翼:(ボソッと)……ショボい田舎のカースト制度なんてぶっ壊してやろーじゃねーか……
和也:……?どういう意味だ?
翼:どこまでできるかわかんねーけど。今まではこんな事思わなかったけど。今は……俺一人じゃ無いから。和也がいるから、何でも出来そうな気がするんだ
和也:よ、よくわかんないけど……
翼:ま、明日になればわかるって!楽しみにしてな!俺は自信あっから!
和也:お、おう……
和也:(N)自信たっぷりの翼の姿に、俺は意味は分らないなりに安心感を覚えた
和也:(N)その日は二人でゲームを楽しんで、俺は夜結構良い時間になってから家に帰ったんだ……
―翌朝、教室にて
翼:なぁ、テストの返却と学年順位の発表、どっちが先だ?
和也:返却だな、普通。
翼:ふーん……。でも教師連中は、もうトータルの順位とか分ってんだよな?
和也:そりゃそうだろうなぁ……
翼:へへっ、こりゃあ楽しみだなぁ……
―担任が教室に入ってくる。
―なんだか態度が落ち着かないように見える。
和也:あ、ホームルーム始まるな
翼:おう、じゃあな
和也:(N)俺は自分の席へ戻った。相変わらず俺は“居ない事”になってるので誰も気にも止めない
和也:(N)と思ったが、担任だけは俺をまじまじと見ていた
和也:(N)え……、俺なんかマズい事したか?
和也:(N)俺と目が合った担任は気まずそうに目をそらし、そそくさと教室から出ていった
和也:(N)一限目は数学だった
和也:(N)出席番号順にテストが返される。俺はあとの方だが戻って来た解答用紙を見て思わず声が出た
和也:なっ……!?95点!?
和也:(N)俺の声にクラス中のザワメキがピタリと止(や)む
和也:(N)そりゃあそうだろう。今まではたまに追試組に居たりもしたんだ……
和也:(N)慌てて翼の方を見ると小さくガッツポーズを送られた
和也:(N)その後の授業で返却される解答用紙にも、ことごとく高得点が記載されていて……
和也:(N)一番驚いたのは他の誰でもない、俺自身だっただろう……
―昼休み、学食にて
翼:よっ!どうだった?午前中の合計点
和也:どうもこうもあるかよ!全部90点以上って……信じらんねーよ!
翼:おっかしいなぁ?俺はお前も満点取れるように教えたつもりだったんだけど……
和也:「お前も」って事は……翼は全部満点なのか?
翼:ああ。だって全科目百点取りゃ自動的に学年トップになるだろ?
和也:そ、そりゃそうだけど……。狙って取れるもんか?全科目百点なんて……
翼:おま(笑)あんま俺舐めんなよな―!……今まで言ってなかったけど、俺の第一志望カセダの政経学部だから
和也:なっ……!?
和也:(N)カセダ大学の政経学部といえば、私立大学の文系では最難関と言われているところだ……
翼:なにボケっとしてんだよ?お前も一緒に行こうぜ?その為に俺はわざわざ貴重な時間割いてお前に一生懸命勉強教えてんだからさ
和也:はっ!?ナニ言って……。お前「地元の国立大でも良い」って言ってなかったか?
翼:……最初はな。でもやっぱり俺はいつまでもこの土地に縛られていたくないや。理不尽な中で暮らすのはもう嫌だ
和也:……それは……そうだけど……
翼:ん?物足りねぇか?んじゃドー大の医学部でも目指す?俺は全然かまわないけど……
和也:医学部だって!?医者になるのには金が……
翼:(遮って)掛かり過ぎるだろ?時間もな。それにドー大よりカセダの方が遊びに行くのに便利じゃん?
和也:なっ……!?そんな理由で!?
翼:和也は一々うるせーな!少し黙って飯食えよ!
和也:ムグッ……!
和也:(N)そう言って翼は俺の弁当箱から卵焼きを勝手につまんで俺の口に放り込んでケラケラと笑った
和也:(N)コイツの度胸と頭の良さに、俺は何も言えなくなってしまった……
―午後の教室
翼:(N)午後も午前中と大して変わりはなかった
和也:(N)俺はどれもこれも百点に近い90点台
翼:(N)俺はまぁ当然全科目満点で
和也:(N)放課後、廊下に張り出された順位表はどれも一番上に翼の名前があり……
翼:(N)万年首位だった高梨が隠れるようにそそくさと昇降口から帰っていく姿がチラリと見えた
和也:科目によっては俺と翼がワンツーフィニッシュ、なんて奇跡的なものもあったしなぁ……
翼:俺としてはむしろ「全体順位」でそうならなかった方が不思議なんだが?
和也:無茶言うなよ!
翼:(N)まぁトータルで俺が一位、和也が4位だったから良しとするか
和也:(N)ちなみに張り出されるのは成績上位社50人まで。俺が載ったのなんて初めてのことだ、しかも一桁なんて……
翼:和也くん、キミは元々「やればできる子」だったんじゃないの?
和也:どうなんだろうなぁ……?勉強を一生懸命やったことなんかなかったし、わかんないや
翼:その調子で期末や模試も頼んだぞ?
和也:それは……アンタ次第だろ!
翼:わかってるよ。行こうぜ一緒に。東京
和也:ん……
和也:(N)その時の俺はまだ、素直に頷く事が出来なかった……
―翼宅で夕飯を食べながら
和也:なんか、もう俺、アンタんちで晩メシ食うの当たり前になってきたなぁ……
翼:一人分作るのもダリィから助かるけどな、俺は
和也:なんで?親父さんの分作ってね~の?
翼:うん。なんかちょっと前から「夕飯いらないから」って言われてさ。誰か職場でいいヒトでも出来たんじゃね?なんか最近機嫌良さそうだし
和也:へ、へぇ……。まぁ翼の親父さんまだ若いしかっこいいもんなぁ……
和也:(N)俺はほんの数回だけど、休日に翼の家に来た時に親父さんにも会っていた
和也:(N)涼し気な目元が翼とよく似た、中々のイケオジ……って言っちゃ失礼なくらいに奴の親父さんは若々しく見えた
和也:モテそうだもんなぁ、親父さん……。なんで今まで再婚しなかったのかの方が不思議だよ
翼:俺は知らねーけど彼女くらい居たんじゃないの?ただ転勤ばっかだからなぁ……。オンナは不安だろ?そういう男
和也:……カノジョ、かぁ……
翼:あ、そう言えばお前、こないだ俺になんか聞きかけてやめたろ?あれなんだったん?
和也:あ~……、うん。……翼ってカノジョ居たりすんのかなぁって
翼:やっぱりなぁ、ははっ!なんか今の流れでわかった気がしたよ
和也:いんのか?
翼:今は居ないよ。ってか随分前からいねーかな、付き合った子は
和也:……随分ってどれくらい?
翼:ん~……。中3の時が最後かなぁ?高校入って疎遠になって自然消滅って言うか……
和也:(N)俺はなんだかその話を詳しく聞くのが辛くなってきた……
和也:もう……いいよ
翼:え?
和也:過去の話は……聞きたくない……。って俺から振っといてごめんな……
翼:(微笑んで)いいよ。何となくお前の気持ち、わからなくもない。
和也:なっ……!?
翼:俺が……今までみたいに居なくなるんじゃないかって不安なんだろ?
和也:……っ!
翼:大丈夫だよ。お前さえ頑張ってくれれば俺らは一緒にここから抜け出せるんだ。うぜぇ周りの目からもな
翼:オヤジももう俺が居なくても大丈夫みたいだから……俺は俺の好きなように生きて行くよ、これから
和也:(N)屈託なく笑う翼の顔がまともに見れない……。コイツは俺に友情以外の感情なんて持ち合わせちゃいないだろう……
和也:(N)スゴく嬉しい言葉を言ってもらえてるのに……。俺はとても贅沢になっている……。
和也:(N)それに、俺がこんな気持ちでいるなんてバレたら今までの関係も壊れてしまうんだろう……
翼:……やっ?和也?こら!俺のメシそんなにマズいか?箸止まってんぞ?
和也:(N)呆(ほう)けていたら、いきなり目の前に翼の端正な顔立ちが迫っていた
和也:(N)突然の出来事に気付いたら俺の顔面は真っ赤になっていたらしい
翼:大丈夫か?熱でもあるんじゃねーの?顔赤いぞ?体温測ってみ?
和也:な、なんでもないって!大丈夫!メシもうまいよ!
翼:なら良いけどさ……。せっかくわざわざ道の駅の直売所まで行って仕入れてきたんだぞ、今日の食材は
和也:え?マジか!言ってくれたら俺が買ってきたのに……
翼:バーカ!お前に頼んだらお前が来るまでにメシ出来上がんね―だろうがよ!
和也:そ、そりゃそうか……
和也:(N)中途半端な気持ちをハッキリはさせたいけど、この関係を壊したくない……
和也:(N)俺は……どうしたら良いんだろう……?
和也:(N)数日後、ウチの郵便受けに一枚の写真が入った封筒が投函されていた
和也:(N)それを見て俺は愕然とした……
和也:な……んだこれ……
和也:(N)写真にはゲーム中にはしゃいでいる俺と翼が偶然近付いて
和也:(N)重なったように見えて……。
和也:(N)一見キスしているかのように取れる構図が写っていた
和也;(N)手紙には『この写真をばら撒かれたくなければ明日の朝七時に化学準備室に来い』と書かれていた
和也:(N)その指定場所でこの手紙の差出人が誰か俺にはわかってしまった……
―翌朝、科学準備室で待つ和也。そこに高梨が入ってくる。
高梨:やぁ、よく来たね。要件はわかってるだろう?
和也:高梨……。あんな写真、一体どうやって……
高梨:僕の”トモダチ”もあのマンション群に住んでてね。って3棟だけだけど
高梨:北野家の向かいの建物の屋上は良い眺めだなぁ!あっはっは!
和也:覗いてたのか……。汚い奴だなっ!
高梨:ん?見られて困るようなことしてたのかい?
和也:違っ……!ずっと見てたなら知ってるんだろ!?俺たちがただゲームして遊んでただけって事……
高梨:でも、あの写真はそうは見えない……よね?
和也:……何がしたいんだ……
高梨:簡単な話だよ。他所者(よそもの)の排除。
和也:翼はもう……
高梨:(遮って)いくら経(た)っても他所者は他所者だ。
和也:……っ!
高梨:一度だけチャンスを上げようか、君に……君たちに
和也:チャンス……?
高梨:ああ。もしも次の全国模試で君ら二人共が僕より成績上位だったらあの写真は消去してあげても良いよ?
高梨:その代わり、それが出来なかった時は、村中にあの写真をばら撒かせて貰うけどね
高梨:そうなったら君たち一家はこの村には住んでいられなくなるだろうねぇ?
和也:高梨……お前って奴は……っ!
高梨:用件はそれだけだよ。来月の全国模試、楽しみにしてるね
ー和也を残して高梨は去って行く。
和也:『翼はともかく、俺が高梨より良い点を取るなんて……
和也:……無理だ……そんな無茶な話があるか……
和也:だけどそうしないと家族みんなに迷惑が掛かる……一体どうしたら……』
和也:(N)どれ位の間床にへたり込んでいただろうか
和也:(N)俺はスマホの呼び出しバイブで我に返った。
和也:(N)翼からだった
翼:もしもし?なにやってんだよ?どこにいんだよ?もう予鈴なったぞ?
和也:あ、ああ……
和也:(N)俺の様子が尋常じゃ無い事を察して翼はこう提案してくれた
翼:とりあえず屋上で落ち合おうぜ!話しはそこで聞く!来れるか?
和也:うん……
翼:しっかりしろよ!俺がついてるからな!
和也:(N)翼はそう言って電話を切った
和也:(N)俺はのろのろと立ち上がり、翼の待つ屋上へと向かった……
翼:今はまだこれだけにしといてやるよ
翼:まずは高梨のヤローを潰す事を真っ先に考えねーとな!
和也:(N)俺は半分ボーッとした頭で翼の話を聞いていた
翼:こら!いつまでも呆(ほう)けてんじゃねーぞ!
翼:そろそろ1時間目が終わるから、2時間目からはしっかり出席して
翼:放課後は俺んちで猛勉強だからな?覚悟しろよ?
和也:(N)俺はその時“こいつと二人でならなににも負ける気がしない”って本気で思ったんだ……
翼:さ、教室に戻るぞ!
翼:……っと、その前にお前、トイレで顔洗ってこいよ(笑)
和也:あ、ああ……
翼:ほら、早く行って来いよ。俺は外で待ってっから
和也:う、うん……
和也:(N)そう言われても仕方ないくらい。俺は真っ赤になっていたんだろう……
―翌月、全国模試終了後。試験会場だった他校の校庭にて。
和也:あーっ!つっかれたぁ……今日は帰って腐るほど寝るぞ……
翼:おつかれおつかれ!で、どうだった?手応え
和也:ん~、一応わからない問題はなかった……かな
翼:よっしゃ!俺が1ヶ月しごきまくった甲斐があったな!
和也:それだけじゃないぞ!ちゃんとアンタに出された宿題も家でやってたからな!
翼:だから寝不足ってか……
和也:そういうこと!ふぁ~あ!んじゃ今日は(まっすぐ帰って)
翼:(遮って)おい!散々教えて貰って礼の一つもねーのかよ?
和也:え?
翼:せっかくこの街まで出て来たんだから、まっすぐ帰るなんてもったいねーだろ?
和也:マジか……
翼:確か、駅ビルあったよな?
翼:この学校に来る途中にはショッピングモールもあったの、バスの中から見たぞ?
和也:あ、アンタ随分元気だな……
翼:だって俺、毎晩日付変わる頃には寝てたもん
和也:どうせアンタと俺とじゃ頭の出来が違うよ!ここはそれに免じて……
翼:(小声で)帰さねーよ。
和也:え?
翼:もしかしたら……最初で最後の“デート”になるかもしれねーだろ……
和也:あ……
翼:それでも……行かない?
和也:い、行く行く!ゲーセンでも映画館でも付き合うよ!
和也:って……映画見てたら俺、寝ちゃうかもしんない……
翼:はははっ!とりあえず駅ビルはウチの学校の連中も多そうだから
翼:バス、途中下車してショッピングモールに寄らねぇ?
和也:うん、そうすっか
翼:トーゼン授業料として遊び代はお前のオゴリだからな?
和也:はっ!?マジで?全部?
翼:ぷっ……ははは!嘘に決まってんだろ!
翼:でもまぁアイスくらいはおごれよ?
和也:ビビらすなよ……。俺そんなに金持ってきてないし。
和也:何時まで遊ぶかわかんないけどアイスだけじゃ無くて夕飯も食べるなら
和也:飯くらいはおごるよ!
翼:マジかー!やったぜ!よっしゃ、早く行こうぜ!
和也:(N)俺たちは、もう誰も居なくなった校庭を後にしてバス停へ向かった
―和也の自室。帰宅後に眠ろうとしているが興奮して眠れない。
和也:『は~、楽しかった!好きな人と遊ぶってこんなに楽しいのか……
和也:たまに食べるアイスも、フードコートの安いラーメンも
和也:今までにも食べた事あるはずなのに
和也:まるで初めて食べる食べ物みたいに美味しく感じたなぁ……』
―和也、段々眠くなってくる。
和也:『さすがに手は繋いだり出来なかったけど……。
和也:ゲーセンで地元のヤンキーに絡まれそうになった俺を
和也:さりげなくフォローしてくれた翼……。かっこよかったよなぁ……。
和也:後は模試の結果さえ良ければ……』
―和也、そこで意識が途切れる。
―2週間後。教室で各自に模試の結果が配布される。
翼:和也!どうだった!?
和也:……。
翼:だ、ダメだったのか……
和也:(小声)……がう……
翼:え?
和也:違うよ!とんでもなく良いんだよ!順位が!
翼:お、おう……
翼:『(心の声)当たり前だろ!何の為に俺が必死こいて付きっきりで
翼:カテキョーしたと思ってんだよ……』
翼:で、何位?
和也:聞いて驚け!7位だよ!全国でだよ!?この俺が!
翼:……。(複雑な顔)
和也:あ?どうした?難しい顔しちゃって……
翼:……微妙だな……その順位じゃ……
和也:へっ!?
翼:高梨はいつも何位なんだよ!?
和也:あっ……っ!
和也:(N)そう。俺は今まで取った事のない高順位に浮かれてしまっていた
和也:(N)だけど問題はそこじゃ無かったんだ。
和也:(N)「高梨より上位か否か」。それが一番の問題だった……
和也:そ、そういう翼は何位だったんだよ?
翼:俺は2位。凡ミスちょっとやらかしたっぽいな。
翼:本気でトップ狙ってたのに。万一高梨が1位だったら……
和也:(N)俺たちは顔を見合わせた。
和也:(N)これは……昼休みに廊下に張り出される順位表を見るまでわからない……
―昼休みの廊下。
翼:上から見てった方が早いよな……。
翼:よし、1位は他県のヤツか……。後は高梨の順位を……
―和也はビクビクしていてまともに順位表が見られない。
翼:おい、しっかりしろよ!お前の順位が問題なんだからな!
和也:わ、わかってるよ……。だから見れないんじゃんか……
翼:高梨、高梨……え!?
和也:なっ、なんだよ、どうした!?
翼:あいつ、ベスト10に入ってないぞ……えっと……28位……だと……?
和也:ま、マジか……
翼:こんな事で嘘ついてどうすんだよ!やったな!俺らの勝ちだ!
和也:つ、翼ぁ……(廊下にへたり込みそうになる)
翼:(和也の腕を取って)おっと!倒れてる場合じゃねーぞ!
翼:さ、高梨にデータ削除させに行くぞ!
翼:ちゃんと目の前で確認しないとアイツは信じらんねーからな
和也:……そういえば、昼休みになってすぐ居なくなったよね。どこ行ったんだろ?
翼:お前が呼び出されてたとこじゃねーの?
和也:あ、そうかも。……俺、行って来る
翼:一緒に行くよ
和也:一人で大丈夫だよ。そもそも脅されたのは俺なんだし
和也:ばら撒かれて困るのは俺の家族だし、俺の問題だ
翼:(小声)……んだよ……
和也:え?
翼:俺ら二人の問題じゃねーのかよ?
和也:ま、まぁ、今となってはそうかもしれないけど、元々は俺一人の……
翼:(遮って)わかったよ!上手くやれよ!
和也:うん!任せろって!
―放課後、翼の部屋。
翼:ぷっ……ははは!そっかぁ、見たかったなぁ、そん時の高梨の顔!
和也:マジでアレは見物(みもの)だったぜ!
和也:真っ青な顔してガタガタ震えてんの!
和也:あのいつも威張りくさった表情はどこへやらー?って感じで
翼:よっぽど悔しかったんだろうなぁ、あの順位
和也:でも高梨、全国レベルだとあれでも良い方だよ?
翼:え?そうなの?おまっ……それを早く言えよっ!
翼:俺はてっきりアイツは全国でも一桁レベルの猛者(もさ)かと勘違いしてたわ!
和也:だって……それ言っちゃったらアンタ手抜きするだろ?
翼:……っ……。た、確かにそうだったかも……
和也:俺は、思いっきり差をつけてアイツを見返したかったんだ
和也:だから敢えて言わなかった。それは謝るよ。ごめん
翼:……べ、別に良いよ。そのお陰でお前が全国一桁取れたんだし
翼:それに、これからもこの調子でしごくから慣れて貰うのに丁度良いしなぁ?
―翼、ニヤリと笑う。
和也:え?な、なんで?模試はもう終わったじゃん……
翼:……同じ大学、行こうぜ、和也……
翼:そして、一緒に暮らそう。東京で。
和也:……え?
翼:ただ単にルームシェアするルームメイトとしてじゃなくて……
翼:……その……ど、同棲、って感じで……(少し照れる)
―少し沈黙(良い雰囲気)
和也:そ、それには相当頑張らなきゃだな、俺
翼:大丈夫だよ。先生が良いから
和也:自分で言うなよ!
翼:じゃ、ちゃんとお前が言ってくれる?
和也:い、いつも言ってるだろ?
翼:勉強に関してのお礼は……な……
和也:そ、それ以外になにを……
翼:(しょんぼりと)……俺、まだ肝心の言葉聞いてない……。「同棲しよう」なんて誘っちゃったけど……
翼:嫌なら断ってくれて良いし、無理に東京の大学に行く必要だって(無いんだよ?)
和也:(遮って)だーーっ!そう言ってまた俺を煽る!わかってるくせに!
翼:(ケロッとして)へへへ、バレたか
和也:当たり前だって!ずるいぞ!自分ばっかり!
翼:俺は……態度で示したつもりだけど……それじゃ不満か?
和也:うっ……(キスした事を思い出して赤面する)
翼:だから、今度はお前の番だろ?早く言ってくれよ
和也:(小声)……だ……
翼:え?
和也:(小声)アンタが好きだよ……。すっと一緒に居たい……
翼:聞ーこーえーなーい―!
和也:ちょっ、あのなぁ……!!んっ……(キスで唇を塞がれる)
翼:(すぐに離れて)ありがと。やっと安心した
和也:なっ……?不安……だったの?
翼:当然だろ!お、俺、そこまで自信過剰じゃねーし!
和也:へー、意外な一面見ちゃった!(クスクス笑う)
翼:(ぶっきらぼうに)笑うんじゃねーよ!
和也:俺の方が不安だったんだけどなぁ……。だってアンタ元カノいたって聞いたし……
翼:あ?そんなの昔の話しだって言ったろ?俺は性別関係なく“一緒ににいて一番居心地の良い人間”と付き合うよ
和也:……アンタ、もしかして人間じゃ無くても良いのかもしれないな……
翼:……どうだろうなぁ?人外のモノとは縁が無いからわからんけど……
和也:真面目に考えるなよ!冗談だろ?冗談!俺の立場は……
翼:あはは、安心なって。お前といるのが今までで一番楽で心地良いよ
和也:……マジで?
翼:マジで
和也:そっか……。……っよしっ!本腰入れて受験対策するわ!
和也:カセダに受かる為には今から準備しなきゃだろ?
翼:お前の場合、今からでも遅い位だよ!まぁ先生が良いから……
和也:わかったわかった!でも今日くらいは……
翼:そうだな、街行って遊ぶか!
和也:そう来なくっちゃ!物わかりの良い先生で良かったよ!
翼:俺だって一応必死で勉強してたんだからな?息抜きはしたいよ
和也:……そうだよなぁ……全国2位だもんなぁ……
翼:ぶっちゃけここまで頑張れたのはお前のお陰だよ。ありがとな、和也
和也:え……そうなの?
翼:なにを今更!お前とお前の家族を守る為だから頑張れたんだよ!
翼:(小声)いつも世話になってるおばさんに迷惑かけたくなかったしな……
和也:……ありがと、翼……
翼:(照れながら)あ~!ほら、早く出掛ける準備しろ!今日は遊び倒すぞー!
和也:……うん……
和也:(N)これからどうなるかなんて分らない
和也:(N)だけど俺は今、初めて“家族以外に大事な人”を見つけたんだ
和也:(N)そして、相手も同じように俺の事を大事にしてくれる……これ以上の幸せがあるだろうか?
和也:(N)俺の初めての恋人が……男だったとしても、別になにも不自然なことじゃ無いんだろう
和也:(N)翼は俺にすんなりとそう思わせてくれた。すげぇヤツだな……
翼:モタモタしてるとおいてくぞ?ほら、スマホテーブルの上に置きっぱなし!
和也:ああ、ごめん!ちょっと呆(ほう)けてた……
翼:この調子なら今日のゲームは俺の圧勝に間違いないな?
和也:なっ……ふざけんなよ?今日はボッコボコにしてやるからな!
―二人、笑いながらドアを閉め楽しげに近くのバス停に向かって去って行く。
=END=