ある日、いつものように美子はそのデパートに自転車で買い物に行き、ゲートをくぐった。

午後3時を過ぎていた。

その日、入り口には1年目ぐらいのBおじさんが立っていた。

ほかのメンバーに比べ、やや小柄でいつももくもくと作業するタイプのおじいさんだ。

江戸っ子気質なはっきりとしたしゃべり方をするが、仕事はきちんとこなすし、クチャっと笑う好々爺の趣がBおじさんにはあった。

「いらっしゃいませ」

「あら、どうしたんですか?真っ赤なネクタイ!」

Bおじさんは真っ赤なネクタイをしていた。

ほかのメンバーでネクタイに仕事用ジャンパーというおじさんはいたが、Bおじさんが、これまでに仕事中にネクタイを着用していることは美子が知る限りはなかった。

「今日はとってもおしゃれですね」

今までにないことに驚いたもののおしゃれな感じを受けて、入り口の発券機のボタンを押しながら美子は言った。

「いえいえ。手前が空いていますよ」

Bおじさんはにこにこしながら、入り口に近い場所を指さした。

帰りに出やすい駐輪場のゲートのそばの楽な場所だった。

駐輪場の中では、日差しのもと、ほかのメンバーが自転車の整理をしているところだった。

「ありがとうございます」礼を述べて美子は自転車を止めると、Bおじさんが立つ出入り口ゲートへと向かった。

「行ってらっしゃい」

Bおじさんはにこにこしながら、美子にそう声をかけた。

「行ってきます」美子はそうにこやかに答えていつも通りに買い物へと向かった。