いのぽん?



パロ


井上side



コンコン

「失礼しまーす…。」



「お、井上来たね。おはよう。」

ニッコリ



「あ、おはようございます、社長…。

 きょ今日もおうちゅくしく…。」



「噛み噛みでのお世辞ありがとう。

 呼ばれた訳は分かってるよね?」



朝イチから連絡が来て、なんと社長室に直接呼ばれた。

なんかやらかしたか!?と冷や汗で背中を濡らしながら辿り着いた先でニッコリと、それはもう美しく微笑むのは所属会社の社長様その人で。



「えーっとぉ、わ私なにかやらかしましたでしょうか…?」



分かってるよねとか言われても分からんし、社長の笑顔がいつもより怖いし、やばい、また冷や汗が、



「え?分かんないの?」



スッと真顔になってまっすぐに見つめられる。


怖い怖い怖い!!



「ひぇ、あの、えと」


美人の真顔怖すぎてプルプル震えることしかできん。



「社長、井上ちゃん怯えてますから。

 ごめんね、社長もそんなに怒ってるわけじゃないから。」


そういって優しく微笑みかけてくれたのは社長の秘書さん。

社長に負けず劣らずのとびきりの美人さんで、その微笑みに先ほどとは違う意味で心臓がやかましい。


社長は秘書さんに窘められて居心地悪そうに口を尖らせてる。

かわええ。



コホン

「呼び出した訳は、こないだ井上が提出してくれた曲のこと。」



そう言って見慣れた筆跡で"新曲デモ"と書かれたCDを見せられる。



私の筆跡で間違いないし、中身はこないだ久しぶりにサクッとできた新曲の候補のデモが入っているはずである。



神が降りてきたのか、短時間でできた割にマネージャーからも好評でウキウキだった代物である。



まさか



「え、聞いてくれたんですか?どうでした?今回けっこう自信作なんですよぉー!!」


褒められるんちゃうか?と思い調子に乗って畳み掛けた。



のだが、社長から返ってきたお言葉は、



「は?マジで言ってんの?」



血の気が引くほどの冷たさだった。

凍えるような視線も添えられて。



「ひぇ」



「これさぁ、なに聴きながら作った?」



「あ、あの、社長の、アルバムを、」


「だよねぇ、私の曲聴きながら作ったよねぇ?めっちゃ似てるもんねぇ!」

ドンッ



「ひぇっ」



怖い怖い怖い!!多少脅されることなんかはあってもこんなに怒ってる社長初めて見た!!やばいやばいやばい!!



「申し訳ありませんでしたぁっ!!」



こういう時は全力で謝るに限る!!




ここで、遅ればせながら自己紹介など。


私は井上梨奈。最近メジャーデビューしたガールズバンドのベース兼作曲を担当してる。



そして、目の前にいらっしゃるお方が、

小林由依社長。

10代でシンガーソングライターとして鮮烈なデビューを飾り、アルバムを数枚を出し、人気絶頂な22歳で引退し芸能事務所を設立。

所属人数は多くはないものの、モデルとミュージシャンを中心に人気と実力を兼ね備えた方達をマネジメントする凄腕社長として活躍中の凄い方である。

まじ尊敬っす。


学生の時からファンだった社長の事務所に所属できた時はバンドのメンバーと涙を流しながら喜んだものだった。

…特にギターのひかるなんて脱水症状になるんやないかってくらい泣いてた。



ちなみに、美人秘書の渡邉理佐さんは社長が現役の時のマネージャーさんらしく、長らく近くで支えてきたという話だ。


厳しいところもある社長と、優しく時には無邪気な笑みで褒めてくれる渡邉さん。



素晴らしい事務所に入れたなぁ、と改めて思いを馳せている、という名の現実逃避を試みていると、



ハァ

「いいから、顔あげな。」




恐る恐る顔を上げると、呆れたように笑う社長の大きな瞳と目があった。



「あのさぁ、別に、パクるなーって怒ってんじゃないの、」



「はい、」



「井上には井上たちらしい曲を書いて欲しいって言ってんの。」


「はい」


「なのに、新曲書き上がったっていうからウキウキで聴いたのに、昔自分が書いた曲のアンサーソングみたいのが流れてきたのね?」


「は、はい」



「アンサーは求めてないのよ。」


「はいぃ」






チョイチョイと手招きされて社長の机に近づくと、


「わかった?」


と、顔を覗き込まれる。


「はい!!」


美しさと恐ろしさで赤べこのように必死に頷いていると、フッと頬を触られる感触がした。



「次は、井上たちらしいの聴かせてくれるよね?」


「ッ、は、はい、がんばりマス、//」



「期待してる。」

ニコッ


「ぅあ、ありがとうございます!///」















バタバタと事務所を出て、どういう道を歩いたかも覚えてないまま気づいたら松田の家に居た。


「どしたどした、顔真っ赤でー、走ってきたん?」



「ぁ、いや、うん、そんな感じ」



「えー、なにそれー?」





そのあとも、色々と言ってくる松田の声に上の空で答えながら、頭の中ではグルグルと同じことばかり考えていた。



近くで見た、大きくて綺麗な瞳が笑みで細くなり、潤った赤い唇が弧を描く。

フワリと香ったとんでもなくいい匂い。



少し低めの落ち着いた声…。




「期待してる、かぁ…。はぁ、がんばろ」




単純野郎と言われても、あんな美人な憧れの人に期待してるなんて言われたら、頑張るしかないやろ!!


待っててください、社長!めちゃくちゃ良い曲書きます!!!




「よっしゃあぁ!!」



「うるさっ!!」



















「所属してる者に色仕掛けしないでください、社長。」



「は?色仕掛けなんてしてませんー!」


「してましたー!かわいそうに井上ちゃん耳まで真っ赤だったよ!」



「あのくらいでやる気出して良い曲書けるんなら、いいじゃん!」



「由依の"あのくらい"は刺激強いんだって!」


「…なに、やきもち妬いてんの?」



「は、はぁ?妬いてませんー!」


「あは、妬いてんじゃん。理佐ちゃんかわいいねー。」



「るっさい!」



「もー、好きなのは理佐だけじゃん。知ってるでしょ?」



「…知ってる。でも、やりすぎ。」



「はーい、気をつけまーす!」




ハァ

「はい、仕事してください。今日は早く帰ってゆっくりお話しましょう。」



「…はぃ。」







おしまい?