脅征威連合の経営するオフィスビルの一室で脅征威連合の会長江田野はソファに座り向かい合う形で座っている外国人の男の言葉を聞いていた。

「つまり私たちと協力していただければ十和麗月会も潰せますし日本の武器の売買の利益の半分を受け取れます」

 そう話したのはロシアのマフィア組織キマイラの幹部のイワンという男だった。
 流暢な日本語を話している。

「そんな簡単に十和麗月会を潰せるんか? 今までも奴らとは何度も戦争しとるがいつも引き分けだ」

 江田野は男の言葉を鵜呑みにはできなかった。

「大丈夫です。十和麗月会と取引をしているドレイクヴァロを潰せば十和麗月会は武器の供給を受けられなくなる。その弱ったところを狙えば十分勝機はありますよ」

「あのドレイクヴァロを潰すなんざ、ホンマできんのか?」

 江田野はイワンの言葉に半信半疑だった。
 するとイワンは一枚の写真を取り出した。
 隠し撮りだと分かるような写真だったが少女が一人写っている。

「これがドレイクヴァロのアキレス腱です」

「こんなおなごがか?」

「彼女はドレイクヴァロの総帥の息子で次期総帥の男の婚約者です。彼女を誘拐すればドレイクヴァロは我々の言うことを聞かざるを得ない」

「おなご一人のためにドレイクヴァロが言うことを聞くなんざ、信じらんねえな」

 イワンは溜息をつくと20年前に起こった総帥夫人殺害によるドレイクヴァロの復讐の話をした。

「あのドレイクヴァロの総帥が見せた妻への執着心の強さは並大抵のモノじゃない。次期総帥はその総帥の血を引く実子です。婚約者に対する執着心は受け継いでいるに違いない」

「なるほどな。あんたの言いたいことは分かったが婚約者誘拐したらドレイクヴァロに復讐されて終わりってことはないだろうな」

「だから婚約者を生かしておく必要があるんです。誘拐という形でね。婚約者が生きて我々の手の中にいればドレイクヴァロは下手に動けない」

「どうやって婚約者を誘拐するんだ?」

 イワンはニヤリとした。

「誘拐の方は私たちに任せてもらいたい。貴方は我々に協力して先ほどの条件が記した契約書にサインをして欲しいのと我々が日本に滞在している間兵隊を少し貸していただければいい」

 江田野はしばらく黙って思案していたが顔をイワンに向けて言った。

「その条件を飲もう。ただしその契約書にサインするのは婚約者の誘拐に成功してからだ」

「いいでしょう。ちょうど私どものボスであるミハイル様が日本に来る予定なのでミハイル様が同席してサインするのはいかがですか?」

「それならなおさらええわ」

「分かりました。では今日は仮契約ということで」

「ああ、兵隊はわしんところの若いもん使えばええ」

「分かりました。では遠慮なく使わせていただきます」

「富樫! おるか!」

 扉が開いて脅征威連合の若頭の富樫が姿を見せる。

「客人が帰るそうだ。車まわせや」

「分かりました。イワン様どうぞ車の方へ」

「ありがとうございます。では江田野会長また後日」

「ああ、よろしく頼むで」

 イワンが退室すると富樫が江田野に声をかける。

「あのキマイラのイワンという男の用事は何だったんですか?」

 江田野は先ほどのイワンの話を富樫にした。

「契約するって約束したんですか、親父」

「ああ、但し婚約者が手に入ってからな」

「幹部会を開いた方が良かったのでは?」

 富樫が咎めるように言うと江田野は富樫に怒鳴った。

「うるせいわ!! 脅征威連合の会長はわいや。わいが決めて何が悪いんじゃボケええ!!」

「申し訳ありません。親父」

 富樫は頭を下げる。

「とにかくキマイラと組んで十和麗月会をぶっ潰すんじゃい」

「分かりました」

 富樫は内心溜息をついたが表情には一切出さなかった。