4月の藪内流茶道教室の床の掛物は、禅林句集の花知一様春』(花は知る一様の春)でした。この句は(つきハ)(しる)明月(めいげつ)(ノあき) 花知一様春」で本来は対句ですが、

花知一様春』から皆さんはどんな風景が見えるでしょうか。

 

私は早春の小さな花の芽吹く姿が浮かびます。

スプリング・エフェメラル(春の(はかな)いもの・春妖精)と名付けられた、まだ寒さの残る早春に雑木林の下に低く咲く草花、(かた)香子(かご)の花、二輪草、いちげ草など2週間程だけ咲いて、いつの間にか溶けて跡形もなくなってしまう、柔らかで、ごく薄い花弁と葉を持つ繊細な花々です。

健気な花々は、そのあと春の盛りに、爛漫と咲く花木や華やかな花を見ることもなく、春の淡い夢のごとく消えてしまいますが、『(はな)知一(ハしる)(いちよう)(ノはる)』という句の文字通り、「もう春が来ました」と告げるかのように、雑木林に冬の間に厚く積もった、ごつごつとした杉葉や、一冬を越して乱れ倒れ重なり合った、かさかさした枯れ草の間を器用に()(くぐ)って、ちいさな花が点々と顔を出し、咲く時を違えず、確実に咲き出します。

「月知明月秋 花知一様春」句の意味は、「月や花は誰に教えられることもなく、月自身、花自身が咲く時、輝く時を自ら知っている、誰もが皆、主人公。周囲に惑わされることなく、本来の自分の声に耳を傾け、はっきりと自分を見つめて、きちんと自分の役割を演じ、自分自身の主人となることが大事」という内容です。

 

真に、言葉に意味を持たせるのは自身の経験です。文言をどう受け取るかは、各人の気持ち次第ですが、床に掛けられた禅語から、まずは景色を思い浮かべてみることから始めませんか。

その風景もまた、お茶とともに一服の清涼剤となることと思います。

 

 

  

花:白雪芥子

器:イギリス王室窯

ロイヤルドルトン1864年製

 

 

花:二輪草

器:瀬戸焼

 

*スプリング・エフェメラルといわれる早春の花々は、薄く傷つきやすく、切り取ったとたんに、水が下がってしまうものがほとんどで、儚く弱々しい。 その取扱い要注意の弱々しい花が、がさがさ、ごつごつした枯れ枝や枯れ草の層の中から、芽を出し、花を咲かせる。