朔々話。 -2ページ目

猫の君 (第一話)

ピロリロリローン ピロリロリローン


軽い間抜けな音が店内に響き渡る。
その小さな音を追いかける、気だるい声。


「いらっしゃいませー。」


コンビニエンスストア。


私はここで働いている。



第一話  小さな出会い


私がここで働くようになってから、早いもので丸2年が経とうとしている。


商品に手が届かないだけでテンパってたあの頃が懐かしい。



今や私専用の小さな脚立まで用意されている。 
悲しいことに。



入社当初(といっても私はアルバイトだけど)微かに抱いていた淡い期待。
知ってか知らずかお客さんは工場勤務のおじ様ばかり。



まぁ、そんなもんだよ。




そんな私にも最近、小さな出会いがあった。



「おつかれさまでしたー。」


「お先、失礼します。」


バイトが終わった。


“帰宅”という行為が、果てしなく面倒なことのように思える瞬間。



私は軽く疲れた自分の体を、いたわるように愛機に跨る。


愛機 Vino


スタートダッシュにこだわって買ったこいつも、見る影を失くしている。
走行距離7000km弱。


まだまだ頑張ろうぜ、な?



そんなことを考えていた。



みゃー


ん?


みゃー みゃー


んん?



あろうことか、そいつは私の愛機の下で暖を取ってやがった。


こ、こいつ。


そのまま轢いてやろうか、とも思ったがやめておいた。
私の愛機が汚されてはたまらんし、そして何より、



私はわりかし猫が好きだ。



従順すぎる犬などとは比べ物にならないくらいは好きだ。


そんな私の広く尊い御心のおかげで、お前は命を取り留めたのだぞ。
少しは愛想を振り撒いたらどうだ。



私は猫に毒づいてみる。勿論、心の中で。



私の気持ちを悟ってか、猫は私の足に擦り寄ってくる

なんて可愛い奴ではないみたいで、

私を一瞥し、スタスタと隣のワンボックスカーの下に潜り込んでいった。



そう、猫はこういうところが良いところだよ。うん。



軽く鼻で笑われたような気もするが、それは気のせいだろう。
第一、猫は鼻で笑えない。はずだ。



何故か去り難い気持ちになりながらも、私は家路に着く。



もうそこには、あの生乾きの洗濯物のような、気だるい私はいなかった。