新しく首相に就任して、毎日精力的にハードワークをこなすマハティール首相、今週はいきなり

 

「マレーシアは財政難だから、シンガポール・マレーシア高速鉄道は降りる!だいたいこの計画はマレーシアにとっても一銭も儲からん!」

 

と電撃発表をして、両国に衝撃の津波が押し寄せた。ゲッソリ

 

8年近くかけて、マレーシア・シンガポール政府はこの計画に向けて交渉を続け、2年前に、ナジブとリーシェンロンが国際契約にやっと調印して、シンガポールでもジュロンターミナルやトンネル工事の入札がすでに始まっているというのに、

 

「や~めた!」

 

の一言で、降りると言うマレーシアの予想外の動きに、とにかくびっくり。

 

イスカンダル地区に家を持ってる私や、近所の友達や、ジュロンターミナル近くのコンドミニアムに投資したシンガポール人などは、もう冷や水をかけられたの如く、真っ青。ガーン

 

しかし、冷静に考えてみると、このマハティールの動きには、絶対何か狙いがあると思う。

 

月曜日には「判断は最終決定だ。これから違約金の交渉をする」と言っていたけど、そもそもこの決断、内閣で相談したわけでも、シンガポールに事前に通達したわけでもなく、全くの独断で一方的に記者会見で発表した。

 

そして昨日は、財政が回復したら、また再開するか?との報道陣の質問に「もちろん、絶対に見直す。」

 

さらに昨日は「中止はシンガポールとの交渉次第。もしシンガポールから提案があるなら、もちろん聞くつもりだ」と、譲歩の姿勢すら表明した。

 

だいたい、すでに調印まで済ませ、莫大な違約金がかかる一大国家プロジェクトを、何の相談もなく簡単にやめられるはずもないし、仮にやめるとしたらこれからシンガポールとの長い交渉があるだろう。結婚と同じで、一緒になるのは簡単、でも、別れるときは泥沼、、、なはずだ。

 

彼は「違約金を払ってでもやめる」と言っているけど、金額についても「うーん、多分500million ぐらいだと思う。シンガポールドルかリンギか、どっちかわからないけど。」なんて言って、実際いくらなのかも正確に把握すらしてないんだから、、、、最初から払う気などさらさらないはずだ。

 

これが何を意味しているかというと、もちろん国を財政難から救うため、公約したマニフェストを実行して民意に応えることが第一。そして同時に、全て白紙に戻してシンガポールともう一度交渉するため、一か八かの大きな賭けに出たんだな。

 

だいたい、高速鉄道が有益じゃない、なんて、政治家ならばふつうは考えない。インフラが国にもたらす経済波及効果は計り知れない。

 

それなのに「白紙にする」ということは、もちろん今マレーシアが財政難だから当然なのだろうけど、今回の計画は、前首相のナジブがシンガポールの言いなりになって、ホイホイ調印してしまって、マレーシアにとってあまりオイシイ条件ではなかったのだろう。

 

この計画、誰が一番得するかよーく考えてみる。シンガポール人は、「マレーシアが得するだけ、シンガポールにはどうでもいいことだ、やめるならやめちゃえ」なんてよく言ってるけど、とんでもない。実はシンガポールが一番得するし、マレーシアが降りたらすごく困るはずだ。

 

350㎞のうち、シンガポールは15㎞だけ。あとの335㎞はマレーシア。事実上9割ぐらいのコストをマレーシアが負担するわけだ。

 

シンガポールにとって15㎞ぐらいの鉄道工事費はどうってことないし、マレーシア側にうまく乗っかって、鉄道が走り出したら、マレーシアにももちろんだけど、シンガポールにもとてつもない経済波及効果がある。ただマレーシアはコストがかかりすぎて儲からない。シンガポールは儲かる。

 

なんとかシンガポールにこの計画に乗ってほしかったナジブは、ホイホイ尻尾を振って、シンガポールに都合のよい条件の内容で調印してしまった。自分たちは1割程度負担しただけで、この大きな波に乗れるんだから、シンガポールがノーと言うわけがない。

 

そしてその莫大なコストはどうするのかといえば、もちろん、これまた中国にツケを払ってもらうつもりだったんだろう。

 

中国とシンガポールの思惑の言いなりになって、思うツボにハマったわけだ。

 

当然、強硬派のマハティールが、そんなことを許すはずない。

 

「こんなもん、一銭も儲からん、有益じゃない!」と彼が繰り返し言ってるのは、そういうことだと思う。

 

「高速鉄道?多いにけっこう。でも、シンガポールと中国のいいようにはさせんぞ!マレーシアにもウマミがあるフェアな条件なら、考え直してもいい。」

 

これが彼の本音だろう。

 

なぜシンガポールと友好的に話し合わず、あんな電撃発言をしたのかといえば、まず老齢の彼には時間が残されていないから、早く仕事しなきゃいけない。消費税廃止だって就任1週目に早速実行したし、とりあえずやるっていったことは片っ端から、まず発表する。悠長に相談、交渉する時間はない。そして、これくらいのボディーブローでひっくり返さないと、ふつうにニコニコ交渉したところで、白紙に戻せない大計画だとわかっているからだ。どこかのDotard大統領みたいだけど!

 

さて、この後シンガポールはどう出てくるか。今のところ、

 

「マレーシアからはまだ何も聞いていない。正式な発表を待つ。」

 

とコメントしている。

 

マレーシアは、違約金についてシンガポールと交渉する、と言っているから、当然違約金を値切ってくるだろう。

 

シンガポールは

 

「契約は契約ですから、全額払ってくださいよ」

 

とそれを杓子定規に突っぱねることはできるけど、そうしたらマレーシアも

 

「あっ、そう、じゃ、そうするわ。もう高速鉄道計画はチャラだけど、いいんだな?」

 

で終わってしまうか、何かシンガポールが苦しむネタを出してゴネるだろう。

 

シンガポールにとってもこの計画の中止は大きな損失になるから、これは絶対に本意ではない。マレーシアにとっても、たぶん本意ではない。せっかく両国の絆を深めて来たのに、これでは泥沼の訴訟劇に突入して、お互いにLose-Loseだ。

 

だから
 

「違約金を最低限に抑える代わりに、もう一度契約内容を見直して、財政が回復したら計画を再開しませんか?両国にとってそれが一番有益ですよね?」

 

と来るのではないか。

 

そうなれば「待ってました!」の展開だ。もう一度、マレーシアにとってオイシイ条件で契約を練り直すチャンスだ。


もう少しシンガポールにコストを負担してもらう、中国みたいな高利貸しから借りるのではなく、低金利の融資をお願いするとか、日本も入れて低金利で黒字回復が見込める融資をしてもらう、駅を減らしたりしてもっと安くできる方法を考える、マレーシアの負担が少なくなるように、そして中国の言いなりにならないように、公平な入札にするなど、色々な題材を料理できる。

 

6月に阿倍首相を訪問するそうだけど、ただでさえ老齢で多忙な彼がわざわざ訪ねるということは、こういう真意があるからかもしれない。

 

この壮大な計画が「じゃ、違約金払いますから、サイナラ!バイバイ」で簡単に中止になるスケールものじゃないことぐらい、最初からわかっているはず。

 

もしこれが彼の描いたシナリオだとしたら、華麗な完璧なチェックメイト、、、。まさに、百戦錬磨のベテラン政治家のなせる業。92歳でも、少しもボケてない。

 

そういうわけで、これから、まだまだどんでん返しが起きるかもしれない高速鉄道計画。目が離せないです!