最近夢と現実の区別がつかないことが多々ある。夢だと思っていた事象が現実で、現実だと思っていた事象が夢であったりするのだ。スウィートガールに関しても同じことが言える。あれは夢であったようにも感じられるし、今思うと現実のような気がしてくる。正直本当に見当がつかない。

「エスカレーターをご利用の際は、手すりにお掴まりください」
と、エスカレーターが女性の電子音声で注意喚起している。階段を駆け下り、僕はホームに向かっている。いつもより階段が長い気がする。普段から測っているわけではないし、正直見当がつかない。今度は測ってみようと思う。

ホームについたところで例の端正な顔立ちの大和撫子に出会う。僕は呼び止めて話しかけてみる。
「ねえ、君のことがこの間からすごく気になっているんだ」
彼女は黙っている。そして再び歩き始めた。
僕は前に回り込もうと必死に追いかける。しかしいつまで経っても追いつける気配がない。むしろ離れて行っているのだ。そうして彼女が階段を上がって曲がったところで、彼女を見失ってしまう。

やれやれ、これも夢なのか。それとも...。
嗚呼僕のスウィートガール。君はどこに行ってしまったんだい?
「私を見つけて、そして抱きしめて」
電車に運ばれてきた風がそう答える。

やれやれ。


ピンク。素敵な色だ。
桜の色。フラミンゴの色。愛の色。性というものの象徴でもある。
ピンクは春を感じさせ、そして女性を感じさせる。

全身ピンクファッションの人間を見たことがある。この間も見事に全身ピンクに彩られた人間に遭遇した。ピンクというのは無論目立つ色であり、一度目に焼き付くとなかなか離れない。もちろん当の本人はそんなこと全く気にならないようだった。むしろ誇らしげに見える。それはもしくは人間ではないのかも知れなかった。ピンクの星からやってきたピンクの大好きな宇宙人。宇宙には数多くの星が存在するのだ。そんな星があってもおかしくない。

彼らは何事もなかったように席を立ち、何事もなかったようにドアから出て行った。それもそのはずだ。何事かを考えているのは見ているこちらの方なのだから。

ふと林家ペーとパー子とが頭をよぎる。彼らも宇宙人なのかもしれない。あの甲高い笑い声でピンクの意識を繁殖しているのだ。そういう欲求を持った人はたくさんいる。

くだらないことを考えてしまう。

電車を降り、恵比寿にある自宅に帰る途中で全身グレーの人間に出会う。グレー星人だ。この世は宇宙人で溢れているのかもしれない。

またくだらないことを考えてしまう。

夕陽でできた翳が僕の姿をピンク人間グレー人間同様黒く映し出している。端正な顔立ちの大和撫子が僕の隣を何事もないように通り過ぎていった。




スウィートガール。
僕は君を初めて見た日から、君に親近感を感じている。まるで僕たちは結ばれる運命なんじゃないかと。馬鹿らしいけれど。
馬鹿らしい、彼女も言う。

僕に愛をおくれ。僕に笑顔をおくれ。
そうしたら僕は君に近づくことができる。真似ることができる。
君に抱きしめてもらうことができるなら、僕は蝶のように君のもとへ飛んでいく。馬鹿みたいだけれど。
馬鹿みたい、彼女も言う。

君の瞳はまるで太陽の光のように美しく、また神々しい。君はその瞳で何を見るんだろうか。
まるで何かに夢中な子供のようだ。
君、僕は君を愛している。
それは何にとってもかわらないことなんだ。
わかるかな?
わかりたい、彼女が言う。

君の香りはまるで甘い花の香りだ。君が許してくれるならば僕は君のもとへ飛んでいくよ。蜂のように。君の胸に飛び込むのさ。許してくれるかな?
君の愛をおくれ。君の笑顔をおくれ。

僕には君が必要なんだ。
どうしても。

どうしても?彼女が言う。
今すぐに?
わからないわ。

人生まだ長い。きっといい人が見つかるわよ。

そこで目が覚める。
いい夢というべきか、悪い夢というべきか。
おそらく悪く無い夢だ。フラれたけれど。

君の愛を僕に届けてくれ。君の笑顔を僕に見せてくれ。
悔いのないように。
そこで目が覚める。