ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『哀れなるものたち』を鑑賞した。
起承転結でまとめると
博士が自殺した妊婦女性の脳にその女性の胎児の脳を移植。
それによって生まれたベラは好奇心により近寄ってきた男性と外の世界へ旅立つ。
新しいものに出会いベラは心も体も急速に成長し、その男性を捨てる。
博士が病気になり家に戻り婚約相手と結婚し、医者になる。
これは人間の本来あるべき姿を、「フランケンシュタイン」を背景に純粋無垢なベラを通して描いている映画であると感じた。ニーチェが説いた「力への意志」は、現実を肯定することだけだった。現実は意思によって選べるものではなく、現実はそれしかない。だとするならば、現実を肯定し、もう一度立ち上がり、その時初めて運命を愛することができると。そこでニーチェは子どもの比喩を用い、子供の持つ屈託のなさ、率直さ。それが本来の人間のあるべき姿であると説いた。子供は転んでも立ち上がり、また歩き始める。そして運命を拒否しようと苦しむことはない。
まさにこれはベラのことではないかと思う。胎児の脳を持ったベラは、純粋に何にも囚われずに世界を見て知り疑問を持つ。新たな感覚に出会い、自分ではどうしようもない現実を知る。だが、運命を拒否しようとはせず希望を持っている。
その素直な存在に魅了され心惹かれたのは私だけではないのではないだろうか。