「えーっ、すごいじゃない」
と介護スタッフのKさんは明るい声で私に言った。ねぇ…と彼女は興奮気味に側にいたS先生の腕を小突いた。
何がすごいかというと、自分で髪を結べたということ。そんなこと…だけど私にとっては大変なことであり、約3年ぶりに自分でできた。他人にやってもらうとチカラ加減が上手くいかない。自分で髪を結びたい。ずっとそう思っていた。
私は病気の後遺症のため右半身が不自由である。しかし、はじめは動かなかった手足もリハビリのおかげでだんだんと動くようになってきた。力が入らなくてボタンを押せないばかりか、狙ったところさえもタッチすることができない。それどころか真っ直ぐ前に手を出すことすらできなかった。
すがるような気持ちでリハビリに精を出した。毎回同じことの繰り返し…しかし本格的にリハビリをはじめて1年9ヶ月が経ったいま、手や指にチカラが付き、右手でモノが握れるようになった。
考え方も変わったように思う。別に右利きでなくても良いじゃないか、右手の代用ではなく左手を使おう。この際、左利きになってしまおう…と。
私たちは右手と左手を上手く使って物事を行っている。まだ今ほど手が動かない時に餃子を包むのを手伝ったが、思いの外、上手くいったことを思い出した。
大分手の動きが良くなってきた今、K先生がコツを教えてくれた。動きの悪い右手をカバーする左手の動きを。ちょっとしたコツのおかげで、いとも簡単に髪を結ぶことができた。
「きちんと練習するのよ。」とKさんは念を押す。彼女は今までもそうやって応援してくれた。そのおかげでできるようになったことがいくつもある。今度もまた頑張りたい。
