『高校数学とっておき勉強法』
(鍵本 聡 著 講談社ブルーバックス 1999)
皆さん今日は。
住所不定有職のさぼてんです。
あと数日で現在の棲み処を出ていかなければなりません。
部屋にたまった本の山をどうしよう…
さて本日は、以前ご紹介した『計算力を強くする 完全ドリル』の著者
鍵本 聡氏の著書を再び紹介したいと思います。
以前もお話ししたように(人間の顔をした数学―『物語 数学の歴史』http://ameblo.jp/saboten-books/entry-12159066276.html)
中学校・高校の数学、特に高校の数学というのは難しいものです。なぜなら、今何をやっているのかが分からなくなるからです。
高校に通って数学を勉強していると、毎日毎日なんだか良く分からない概念が出て来ます。
確かに、理論は、頭では追える。問題を解くにしても、学校で配られた問題集の答えさえ暗記していればテストで赤点は取らない。通知表の数字もまあ、悪くない。
で、常用対数って何?
こんなことやって何になるの?
こういう方は多いのではないでしょうか。
ちなみに、こういう疑問を抱いた人間に対する世間の風当たり(親、学校の教師、予備校講師等々)というものは、きついものがあります。
「屁理屈こねてないで勉強しなさい!」
どうやら勉強したくないからこういうことを言っていると思われたようです。
周囲に理解者がいないのなら仕様がない、本を読むしかありません。
しかし、一般向けの数学本を読んでも、不思議なことにこうした疑問に答えてくれる本は殆どありません。
例えば、私は高校時代、今ではもはや極右の論客としてしか知られなくなってしまった数学者、F先生の本を読んでみました。
そこでは、ただただ数学の楽しさ、美しさが語られていました。
それを読んでの率直な感想。
「ああ、あなたはそれを楽しいと思うのですね。でも自分の趣味を人に押し付けないで下さいね」
ちなみにこの先生、現在の若者の理系離れの原因は「我慢不足」だと宣っていました。
じゃあ、なんでれっきとした理系学部である医学部の人気はうなぎのぼりなんでしょうかねえ…
一生書斎に閉じこもって数式と遊んでろ。
さて、本書です。
本書の著者、鍵本氏は、京都大学理学部を卒業後、高校教師、大手予備校講師をへて、現在は自身が代表を務める進学塾で数学を教えていらっしゃる方です。
いわば、数学とともに歩んできた人生ですが、ご本人曰く、
けっして「数学が好きで好きでしょうがない」というわけではない ―210頁
とのことです。
筆者にとって数学とは便利な「道具」に過ぎない。仕事の「道具」であり、研究の「道具」でもあり、人生を生きていくうえで重要な「道具」でもあるのだが、数式に一日中どっぷりとつかっていられるほど数学そのものを好きなわけではない。 ―210頁
本書は、このようなある意味「突き放した」見方をする著者が、高校数学とはどのようなものか、どのように勉強すればできるようになるのかを淡々と描いた書籍です。
著者は、高校数学で学ぶ様々な概念を「便利ツール」として捉えます。
例えば対数とは何かと聞かれたら、(中略)「〇〇をするときに便利な道具」というとらえ方をしないと、正直なところ意味がないのだ。言いかえるならば、数ある便利ツールがそれぞれ何のために使われるのか、ということを気にしながら学習することが大切である。 ―55~56頁
著者はこのように説きながら、高校数学における様々な単元がどのような意味を持つのかを、大学での学問を視野に入れながら解説してゆきます。
また、まさにそれを教師に教わりたいのに何故か誰も教えてくれない「答案の書き方」についても丁寧に説明してくれます。
高校教師や生徒が考える以上に、大学の教員のインフォーマルな答案に対する見方は冷たい。 ―121頁
でしょうね…
こんなことやって何になるの? という生徒は、必ずしも数学を勉強したくないと言っているわけではありません。
現状に疑問を持っただけで怠け者扱いとは、あんまりではないですか?
「数学はこんなに楽しいよ」とか
「いい大学にはいると人生有利だよ」とか
そんな子供だましの説明に騙されない、本気で勉強したいと考えている若者に、是非お勧めしたい一冊です。