ライブ当日に、とある予感に導かれることとなった。
早朝目が覚めて、ライブに向けて支度していた時の出来事である。
2020年に事前販売されていたユニフォームに、装者達全員分のワッペンを購入していて、そのユニフォームの肩口付近にワッペンを一つ装着できるようになっているのだが、初めはクリスを付けた。姿を鏡でみる。
そして想像する。
何かが違った。
そして付けたワッペンを外し、何を思ったのかもう一つ手にしていたワッペンを付けた。
再び鏡を眺める。しっくりきたし、ライブに向けての高揚感を感じることができた。
そう、付けたのはキャロルのワッペンだ。
シンフォギアxvというアニメで、作中でも大活躍したキャラの1人で、最後の1人のワンピースとなったキャロルの存在は大きかった。彼女は装者達が月に行ってる合間にも地球に残り、孤軍奮闘でラスボスであるシェムハと対峙していた。そんなキャロルは一度は糸を操りシェムハをうまく捕縛するも、逃れられて反撃されてしまう。キャロルは倒れながら叫んだ。
「さっさと帰って来やがれシンフォギアーッ!!」
2020のコロナで延期の発表から、延期の目処は、いつとも分からず、ただだ針を進めていた。もうこのままやる機会を逸してしまった…かのようにも感じた。
それほどまでに、2年は人を遠くするし、離れてしまうに充分な時間だ。シンフォギアという時だけが日常から止まってしまっていた。
さっさと帰ってきやがれシンフォギア!
辛い時がある度、何度この言葉を心で叫んで自分を鼓舞したか分からない。
その願いは2022年11月20日についについに開催が叶った実った。
ただ一つ叶わなかったことはある、それは雪音クリスこと高垣彩陽の欠場だった。
シンフォギアライブには、欠かす事が出来ない存在で、全て出演して見事なまでに雪音クリスを演じたその勇姿を見ることが出来ない。
この事実はかなり大きな喪失感で、出来ればここまで待ったのだから延期して欲しいという感情もあった。
これが冒頭のワッペンの付けたり変えたりした私の葛藤だったように思う。
それでも、と私は予感があった。
自分の中の強烈な渇望と、このライブに行けば何かが起きるという予感のことである。
そしてライブを終えた今思い返すとその予感は正しかったと証明された。
ライブは後半に差し掛かり、ステージ上のキャロルこと水瀬いのりの姿を一目見た時、心を奪われた。
衣装のデザインが、シンフォギアライブ2016の時よりパワーアップして、その立ち姿と雰囲気がまさしくあのキャロルで、堂々たるパフォーマンスだった。
『スフォルツァンドの残響』
凛として美しくて、圧倒的な歌唱と、合間にアイキャチのように入る、微笑して決めるポーズに怪しい色気が、私でなくて誰しもがやられたと思う。70億の絶唱を凌駕する彼女1人でねじ伏せる孤独なまでの強さ、記憶と引き換えに燃やし尽くす儚さ。
『五線譜のサンクチュアリ』
ノリノリのキャロルちゃん、どこか歌謡曲っぽさもかんじるムーディーさ。そして、あのお決まりのすまし顔でチェックメイト!チェックメイト!チェックメイト!と宣言され、キャロルを相手に私達は三回もの敗北を喫する。
通常チェックメイトなんてされた日には、嫌な気持ちでムカついて寝るに寝れないなんて気になるが、キャロルからのチェックメイトは、清々しくて、まるで断罪から介錯してもらったようだった。
『tommrow』
ららるりら、飽きず見上げていた。古いランタンに
彼女が歌って彼女を包み込むように灯るライブ会場一面の黄色の光が、ランタンの灯火のようでなんとも幻想的で景色が溶けていくのではと錯覚した。
『perfect symphony』
アンコール後のスクリーンに映し出された、新プロジェクト始動の驚きとどよめきの最中、装者達を乗せたトロッコがステージ上から適合者達に向かって駆け出した。
私はアリーナのF11ブロックという、アリーナでは最後方に位置する席で、これまでの楽曲は正直ほとんどモニターを通してしか装者達の姿が分からなかった。
しかしどうした事か、トロッコがどんどんと近づいてくる。そして、アリーナの最後方だった私が居る位置でガタンと止まった。
FIS組と2課組プラス、キャロルの二組を乗せたトロッコが、手前のスタンド席と、こちらアリーナ席に向けて交互に向けて『perfect symphony』の歌唱は尚も続いている。
先程までに見せた、微笑とも冷笑ともとれる怪しげな美しいキャロルの笑顔と違って、なんとも楽しげな表情がはっきりと肉眼で捉えることができた。
黄色のペンライトをこれでもかと振ってキャロル〜と心の中で強く叫ぶ
それで気づいたのか気付いてないのかは分からないが、なんとも優しい表情で手を振り返してくれた。
正直水瀬いのりってツンケンしていてとっつきづらい印象だったのだけれどあの瞬間は、ツンケンしてなかったように思う。
2課組のトロッコにクリスではなく3人目に当たり前のように馴染んで楽しんでるキャロルをみて嬉しい気持ちにもなれたし、満ちていくのが分かった。
クリスの喪失はキャロルによって埋められた。それほどまでに強い輝きが今日のキャロルだった。
キャロルは今日の思い出も焼却して、力にかえてしまうのだろうか。あまりこれ以上は深く考えないようにした。
私のシンフォギアは、あのプロジェクト再始動という告知後のトロッコが動きだした瞬間から帰ってきた、そしてプロジェクト始動という強い宣言は、止まっていたみんなのシンフォギアの刻が始まる瞬間だった。

