春のような宵に誘われて、ドアを開けた。

懐かしい場所。

木のぬくもりのカウンター。

金柑の薫りのカクテル。

言葉少なに過ごす私を、そっと抱き寄せてくれるのは…ジャズ。

雨はまだ、遠く。

星のない空は、夜が更けるのを待っていた。









「誰とでも、こうするの?」


不意打ちで唇を奪っておきながら、心まで覗き込むような瞳で訊ねたりしないでよ。

馬鹿ね。


「そうよ…。」


と答えたら、どうするの?


それとも、そう言わせたかったのかしら。

あなたもそうだから。


…なんて、愚問だわ。

どちらでもいいじゃない。









偶然の出来事に意味を持ちたくなる。

貴方との事や、私の事。

いつかの昨日の事。

多分、明日の事。

その全てがひとところに向かってゆく。

たかが、お天気雪のせいで。

こんなにも、恋しい。








コンビニで思わず手にしたコーヒー牛乳を飲みながら、十代の頃に聴いていた曲を聴いてみる。

立志式で色紙にしたためた誓いの言葉は、今も私の中にある。

高速の向こうの海を横目でちらりと見ながら、また一日が始まる。

鏡の中で目が合う私が、笑顔。

うん、今日も大丈夫。









それはきっと、恋にも似ている。

不意に心に留まり瞳捉える。

晴れには晴れの雨には雨の趣で、微笑む様に俯く様に。

ただ一目見たくてそれだけで嬉しくて、柔らかな気持ちになる。

いつまで逢えるか分からない。

多分、長くはない。

少し切ない。

こんな気持ち。

通勤路、名も知らぬ花に。