あの時、別の道を進んでいれば・・・。
昔、別れた女性と今でも共に生きていたなら・・・。
誰しもが、一度は考えた事があるのではないでしょうか。現在の自分とは違う生き方があったの
ではないかと思う瞬間が。それは、必ずしも不遇の人生を歩んでいるからという理由ばかりでは
ないでしょう。幸福な人生を生き、満ち足りた暮らしの中でさえ、そう感じることはありませんか。
ずいぶん前に読んだ本の中に、小説をなぜ読むのかについて、こう書いてありました。
「人生は一度しか生きることが出来ないから、小説を読んで違う人生を体験したい。」
私はこの言葉に感銘を受け、そうなのかもしれないなと思いました。
どれだけ平凡であったとしても、違う人生を歩むことは出来ない。ましてや、胸を焦がすロマンス
や命を賭けた、冒険の日々を送ることは尚更でしょう。
今とは異なった人生を生きてみたい。実現出来ない夢だからこそ、一層強く願ってしまいます。
そんな願いを叶えた男の人生を描いた傑作に、ケン・グリムウッドの「リプレイ」があります。
43歳までの人生の記憶と意識はそのままに、18歳に逆戻りした主人公が辿る数奇な運命を
綴った傑作です。
有名な作品ですので、読まれた方も多いと思います。
前置きが長くなってしまいました。今回は、和製「リプレイ」と呼んでも差し支えの無いであろう、
佐藤正午さんの傑作「Y」を御紹介します。
「Y」 佐藤正午 ハルキ文庫

人生のY字路に立った時、人は後悔すること無しに信じる道を進むことが出来るのでしょうか。
ある夜にかかってきた一本の電話。北川健と名乗るその男は、かつて私の親友であったという。
全く覚えのない私だったが、数日後、北川の秘書を通じて一枚のフロッピーディスクと、500万
円の現金を受け取ることになる。ディスクに記録された、北川の信じがたい人生を読み進めるう
ちにやがて、その物語に引き込まれてしまう。果たしてこの物語は本当の出来事なのだろうか。
時を超えた、友情と愛の物語の結末は・・・。
この作品が「リプレイ」と決定的に違う点は、主人公が人生をやり直す訳ではなく、その親友を名
乗る男の体験を通して、自分の人生を見詰め直すことでしょう。
過ぎ去った時間を取り戻すことは、現実には無理でしょう。けれど、過去にとらわれることなく、
前向きな気持ちを忘れなければ、人生の輝きを失うことは無いのだと考えさせられます。
とにかく理屈抜きに抜群に面白い作品ですので、未読の方はぜひ読んでみて下さい。
そして、自分の人生について考えてみませんか。