両親が離婚してからの方が父に会う時間が増えると言う親子関係。

離婚しても父の言う事は絶対でした。

父に反発するなど私の中にはあり得ない事でした。

母と二人のささやかでも幸せな生活の中に父からの電話が頻繁に、かかって来ました。

父から電話が来ると母は私に受話器を渡します。

当時はダイヤル式の黒電話でした。

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「〇〇かい、パパだけど何日の何時に〇〇と言う店に制服を着て来なさい。」

「わかりました」

いつも、たった、これだけの会話です。

約束の日、私は一度、学校から戻ると制服を着たまま約束の時間まで本を読んで時間を潰していました。

行く前には母が私の髪を櫛でとかして綺麗な三つ編みに編んでくれました。

父に会う時間は夜の7時頃が多かったです。

場所はススキノのビルの中。

和食だったり中華だったり時にはステーキハウス、すき焼き屋さんと、その時に父が食べたい物を扱うお店でした。

どの店も父の馴染みの店だったらしく学校の制服を着た私が入り口に入るとホールの偉い人が

「お父様は、あちらです」

と案内されました。

自ら名前を名乗った事はありません。

恐らく父が制服を着た女の子が一人で来たら娘だからと説明していたのでしょう。

（私が通っていた女学校の制服は一目で、あの学校とわかるセーラー服の制服でした。）

まだ中学生の私に、それは丁寧な接客でした。

通されるのは個室が多かったです。

「お連れ様がお着きです」

と言いながら担当の人は個室のドアを開けます。

「〇〇、来たか」

と父。

しかし、このひと時は私には本当に嫌な時間でした。

何故なら父の向かい側には必ず初めて会う女性が座っているからです。

両親が離婚した原因になった、あの人では無い違う女性。

何処に呼ばれても必ず女性がいるのです。

多感な年頃の私には耐えられなく嫌な空間と時の流れが遅く感じる空気でした。

どの女性も

「お父様には、いつもお世話になっています」

と馬鹿丁寧な言葉で頭を下げられますが

私は返答した事はありません。

軽くうなずくだけでした。

中には良く話す女性がいました。

見た目は意外と地味な装いでしたが、それは私に気を遣って、その日だけは地味にして来たのかもしれません。

その人の事は今でも何故か思い出します。

毎回、毎回、違う女性同伴の父に制服姿の私。

空いているはずのお腹も、その空気でお腹が一杯になりました。

出かける前に母は

「何でも〇〇の好きな物を一杯食べてらっしゃいね」

と言い送り出す母でした。

嫌な空気でお腹が膨らむので

私はせいぜい、父の薦める一品を食べるのが、やっとだったと記憶しています。

その時は父の神経を疑いました。

何故、女性を連れて来るのかと。

父は私と二人っきりで会うのに照れていたのか。

年頃の娘と何を話して良いか、わからないから女性を連れて来るのか。

幸い、おしゃべりな女性だと私も父との食事のしーんとした間が凄く助かりました。

それにしても

次から次と良く違う女性を連れて来ると驚きました。

色白で背が高くお洒落でお金を持っている父は、きっと女性にモテたのでしょう。

ただ、何処に呼ばれても制服姿の私を父は自慢気にしていたのは覚えています。

この頃になるとサポーターが出始めてヤクザの男衆も入墨をサポーターで隠す様になりました。私が小学生の頃の様な人の目を心配する事は、ありませんでした。

父は私に会う時は夏でも必ず長袖のワイシャツにスーツ姿でした。

夏用の薄い生地のワイシャツからは決して消えない隠せない入れ墨が時々、透けて見えました。

父とは毎週1回は会って食事を共にしていました。

離婚する前より共に食事をする機会が増えていきました。

有り難い事に様々なお店で美味しい物を知りました。

食事のマナーも父との食事会で自然と学びました。

日本食の正しい食べ方とお箸の使い方からナイフとフォークの使い方。デザートスプーンの使い方まで。様々なマナーです。

ステーキハウスで飲むワインは、その席の主人的立場の男性がテイストしてから選ぶ事も15歳の私は知っていました。

今で言うグルメな父でしたから口に入れる物は一級品でした。

不味い物を我慢してまで食べる父ではありませんでした。

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たまたま約束した洋食屋さんで父はポークチャップを注文しました。

ポークチャップは父の前に運ばれてきました。　

普段、牛肉しか食べない父が豚肉を注文した事に驚きましたが、ポークチャップとは何？

ポークチャップを知らない私は父の前に運ばれてきた、それが珍しく見ていましたら

突然、父が

「料理長を呼びなさい」

と、程なく料理長が現れました。

「お前はポークチャップを食べた事があるのか！」

と仁王立ちになった父は手にしていたナイフとフォークを床に投げ捨てて怒鳴りました。

今にも料理長に殴りかかりそうな勢いです。

ビックリした料理長は返事に困っていると

「本当のポークチャップ知らない人間が作り客に出して金を取るとは何事だー！！」

と久々に父の怒鳴り声を聞きました。

個室で良かったと私は内心、思いましたが声の大きな父の怒鳴り声は店内に響き渡っていたのを帰る時に知りました。

店で一番、役職の上の蝶ネクタイをした男性が、ひたすら父に誤っていました。

結局、私は何も注文しないで、この店を後にしましたが、その後、父との食事会で、この店に来る事は二度とありませんでした。

このポークチャップ事件の時は女性は連れて来なくて私と二人だけだったと今、書きながら思い出しました。

食べる物や店の接客態度には絶対に妥協しない父でした。

しかし、気に入った店には何度も足を運び必ずチップを置いて来る父でした。

父との食事会は、まだまだ続きますが

私が一番、嬉しかったのは会うと必ずお小遣いを貰える事でした。

当時の15歳には多額のお小遣いです。

打算的な娘だったのでしょうか？

−話は続きます−

ヤクザの娘に産まれて−父の数々の愛人に会う食事会