講演「なぜ日本人技術者が海外ファッション業界で評価されるのか」概要7-2
7-2. 日本アパレルの技術者育成への示唆2
<海外進出重視のビジネスモデルと並行し、国内マーケットの刷新を図る>
現在一般的な流れとして、既存の国内ブランドの海外進出を推進し、海外で認めてもらおうとする動きが活発になっています。作品発表の場を海外(とりわけこの場合はアメリカ・ヨーロッパ)に移し、そこで認められてお墨付きを得ることで日本(アジア)でも注目してもらるという意図だと思います。そしてビジネスの面でも「日本のマーケットは縮小傾向にあるため海外進出(特にアジアや新興諸国地域)が不可欠だ」という文章もしばしば目にするようになりました。これら自体を否定するつもりはありませんが、「日本のマーケットは縮小傾向にあり、、、」「少子化で人口が減少しますます消費が落ち込んでゆく、、、」などと、もはや日本のマーケットよりも海外マーケットこそが重要かのような印象が強く、あまりにも海外へ出ることをメディア等で極端に推奨し過ぎに思えてなりません。私はこの過度に偏った方針自体には疑問を持っています。
そもそも日本は現時点で世界第3位(国単位)の非常に大きなマーケットを持っています。そして、例え縮小傾向にあったとしてもこれがすぐさま0になるわけではありませんし、そして海外のどのマーケットが成長して日本を越えようとも、日本が大きなマーケットの一つであることはこれからも変わらないだろうし、その将来の成長マーケットの大半が日本製品で独占されるなどということは不可能です。それに比べて自国のマーケットは何よりも消費者が愛着を感じやすいものですし、すなわち一時的な流行で終わることなく長期にわたって消費される可能性も高いわけです。この自国のマーケットこそが本当にじっくりと時間をかけて育てていかなければならない場なのだと思うのです。何よりも文化として根付くためには自国内への訴求が必要不可欠です。また、海外への挑戦を過度に推進し、またその成功者を過度に評価し続けると、結局は国内にいる熱意のある人間がますます海外(この場合は特にアメリカ・ヨーロッパ)に流出していく動きに拍車をかけることになるのを懸念しています。上記しましたが、ヨーロッパがファッションの中心地であり、挑戦の場であることは否定する人は少ないでしょうし、そんな国々で生活する人々の認識や生活や文化、そういったことに興味が寄せられるのは当然です。海外に出ることは間違いなく素晴らしい経験になると私も考えていますが、洋服の文化がヨーロッパにある以上わざわざ海外進出を推奨しなくてもある程度の数の人間は常に外に出ていくのです。そんなことよりも今お金や人材をかけてしなければならないことは国内でどのように日本のファッションを浸透させていくかということだと思うのです。
上記ではデザイナー・ブランドの立場で述べましたが、ここで日本のテキスタイルについても考えてみます。私は日本の技術の中でも特にテキスタイルは成長株だと見込んでいますが、高い技術力に基づいた製品は単価が高いため日本国内では利用される機会が極端に低く、ヨーロッパのメゾンブランドのみをターゲットに絞っている企業が多いのが現状です。かといって彼らに直に話を聞いてみると、「日本の企業に安定して使ってもらえるのが本当は一番の理想だ」とおっしゃる所が多いのです。というのは海外ブランドが日本企業の技術をこれから将来のコレクションで常に使うということはほとんど考えにくく、単発での発注に終わってしまうことがほとんどだからです。この様に日本の製品が日本国内で消費される機会を増やすことは重要な課題だと考えられます。
新しいマーケットでビジネスとして成功させるということに重きを置くか、文化として育てるべきだと考えるか、この点で大きくその方策も変わるのでしょうが、私は後者こそ長い目で見たときに必要な視点だと考えています。
第7章第3項は 『日本アパレルの技術者育成への示唆3-作り手と消費者との距離感を再考察する』です
<参照用既出リンク>
はじめに
第1章 ファッションのグローバル化
第2章 世界で活躍する日本人
第3章 日本人の海外で評価される一般的な特性
第4章 3Dデザイナーの存在
第5章 ヨーロッパのファッション業界の実態、ものづくりに対する意識の違い
第6章 ”日本人が重宝されている”の否定的側面
第7章1項 日本アパレルの技術者育成への示唆1<海外での経験者を国内で積極的に採用する>
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