『ドレーピング・仮縫いの重要性とCADの役割』~後編:仮縫いとCAD~ | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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<本日、昨日の記事はフリーランスパタンナー北村悦子さんに寄稿していただいたものです。>


【仮縫いの役割とCADの利便性】
前回はドレーピングとCADの役割についてお話ししました。(前編参照
今回はドレーピング後に行う仮縫い(仮仕上げの服をモデルに着せて補正する方法)の役割、また仮縫いにおけるCADの利用価値について。
かなり以前からトワル仮縫いの重要性を訴えて来ました。
仮縫いはデザイナーとパタンナーの双方が善し悪しを判断する「眼」を持っていなければ上手くいきません。実際はボディのみでチェックする企業が多いと思います。

ここで過去に私がお仕事したある企業での体験談をお話しします。
当初そのデザイナーは外注パタンナーに依頼していたにも関わらず、一度もトワルの確認をせずいきなり工場で完成された実物サンプルの状態でチェックしていました。
つまりどんなシルエット、バランスで服が上がってくるかは完全にパタンナー任せと言うことです。
理由はボディで半身を見せられても判断できないからでした。
外注のパターン会社にデザイン画だけ渡してその後の確認なしで工場に縫製を依頼してしまうのです。(前編でお話したとおり、パタンナーが10人いれば10通りの服が出来てしまうのに、です)
しかし案の定デザイナーの思い通りのサンプルは上がらず、修正を繰り返して何度もサンプルを作っていたようです。そりゃぁそうなります。
最近のデザイナーは服作りの勉強を積んできた方ばかりではないのも現状です。
でもそのデザイナーは着ることのみによってそのセンスを磨いてきて、それが世の中に受け入れられているのですからそれはそれでいいのです。
トワルの見方がわからないことを責めるつもりは全くありませんでした。
とは言え、ずっとトワル仮縫いに労力を費やしてきた私にとってはまさにカルチャーショックでした。
初めはそのサンプルチェックに立ち合って、外注パタンナーに的確な修正の指示を出して欲しい、という依頼でした。
言われた通り立ち合いましたが初日である決断をしました。
自分がパターンを引いて両身で縫ったトワルを見せよう、と。
そうすればその場でいくらでもデザイナーの思うように手直しできるし、特殊な生地の場合は実物生地で仮縫いを見せることも出来るのです。
そもそも服を着ることが大好きな人ですから、仮縫いであーでもない、こーでもないと一緒に考えることをとても楽しんでくれました。
その結果サンプル作製の回数は減り経費は大幅削減、しかも大体はデザイナーの希望した通りのサンプルが上がってくるようになりました。
嬉しいことにそのデザイナーは今でもずっとこの方法を続けてくれています。
せっかくトワルを組んでもボディとしか向き合わずにいると、いざ上がったサンプルを着てみたらこんなはずじゃなかったということは多々あります。
服とはそもそもボディではなく人間が着る為のものです。
仮縫いとはそんな素晴らしい効果をもたらしてくれるものだと思っています。

そしてその手助けをしてくれるのがまたCADなのです。
例えば細かい総プリーツのスカート。これを全部手で引くのは時間がかかります。
しかも仮縫いでプリーツの巾が変更になったら全部書き直し!
またはアシンメトリーのドレスを仮縫いして「左右反転させて」なんて言われた時も大変でした。
ところがそんな作業はCADではお手の物なのです。
CADは仮縫いの場でも大きく貢献しているわけです。


最後に。
デザイナーの中にはCAD自体毛嫌いされる方もいらっしゃいます。
きっとアナログの価値を知っているからこそ「悪」だと感じるのでしょう。
でも実際に両方体験した私としてはCADの有効活用大賛成です。
CADを導入したからといってドレーピングや仮縫いの重要性には何ら変わりはありません。
あくまでも人間が表現する為の道具が鉛筆と定規からマウスに代わっただけのこと。
CADもボディもトワルも単なる「道具」なのです。
それさえ自覚してうまく付きあって行けば、本来人間が持つ「感性」という一番素晴らしい能力を失わずに済むのではないでしょうか?


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