中々重い内容の本です。

唯一の肉親の兄が、強盗殺人を犯す事から物語が始まる訳ですが。

物語の根底には、現代社会の持つ「貧困」が横たわっている様に思います。


金銭的には勿論、精神的にも。


辛い出来事が起きた時


逃げるのか


他人に責任を擦り付けるのか


諦めるのか


立ち向かうのか


決断を下す時、一番大切な事ってなんだろう?



私は多分「自分の生活」を最優先すると思う。


更に、そこに重要なモノは「金」だとも思う。


こんな自分は


精神的弱者なのか


と読後に嫁に訪ねたら、


「今ごろ知ったの?」


らしいです。
1月29日

朝のウォーキングから戻り

シャワーを浴びていると電話が鳴った。

ディスプレイには

096*******

熊本からだ。

誰だろ?と思いながら受話器を取ると

「お久しぶりです、先生。○○の母です。覚えてらっしゃいますか?」

忘れるはずはない。

私が塾を始めた時の、塾生第一号の子だ。

『もちろん覚えてますよ!○○ちゃんのお母さんですよね?いや~お久しぶりです。』

返事がない。

『・・アレ?もしもし?お母さん?どうされました?』

「先生、実はあの子が・・・」

私は大切な事を忘れていた。

その子は

先天性の病気を抱えている子だった、という事を。

中学生の頃は、それでも元気だったが

2年程前から徐々に悪くなり、いよいよ

らしかった。


「先生、お忙しいとは思いますが、よかったら○○に会いに来てくれませんか?」

『わかりました!すぐ行きます。』

嫁に事情を話し、車で病院へ向かった。

車中、忘れかけていた様々な出来事が、頭の中を駆け回った。

入塾の手続きが終わり、先生達と泣きながら抱き合った事

合格通知を貰えず、一緒に涙した事

入学式の後、家族で来てくれた事

短大に合格し、お父さんから感謝された事

成人式の日に振袖で家に来たのも彼女が最初だった。

あれから歳月は過ぎ

年賀状、暑中見舞等程度の付き合いになっていった。



病院に着き、母親と会い簡単な挨拶を交す間も無く、病室に連れていかれた。

そこは機械の金属的な音が支配している空間にすぎなかった。


「○○、先生が来てくれたよ。」

『○○』

私は、その子の名前を呼ぶ事しか出来なかった。

ただそれしか出来なかった。


御両親と外に出て、最近の様子から昔話まで色々な事を話した。


「先生、あの子先生の事が好きだったんですよ」

『そうだったんですか』

「お父さんが、心配するぐらいだったんですよ」

短い沈黙の後

「まだ27歳なのに・・・」
母親の絞り出す声に、父親の鼻を煤る音が重なる。


その夜、父親に連れられて街に出た。

娘の事以外に共通点などない私達が、話した内容は、政治と金の事だった。

お互いがお互いを気遣いつつも、酒を潤滑油になんとか歯車は回っていた。

別れ際、

「来てくれて本当にありがとうございます。何も言わず、駆け付けてくれた事が、本当に嬉しかった。あの時、娘を彼方の塾に通わせて良かったと、やっと今思えます。」

栄通りの道端で、オジさん二人が泣きながら、ガッチリ握手をしていた。

鶴屋前でタクシーに乗り、電車通りを右折した時、父親の携帯が鳴った。



1月31日

塾生第一号の生徒が

静かに

息をひきとった。

出棺を見送り、バスに乗り火葬場へ。

小さく白い彼女は、すっぽりと母親の両腕に抱かれた。

「最後までありがとうございました。」

父親が私に歩みより、封筒を手渡された。

写真である事はすぐに分かった。



帰り道は、ただひたすら前を見て運転した。

塾に着き、授業の光景を眺めていた。

真剣な顔。

不安な顔。

様々な顔。

その顔々を見ながら、とにかく悔いの残らない人生を送って欲しいと願った。
才能ってヤツですかね?

私が初めてこの本を読み終えた時


腹が立った記憶があります。


理由は簡単です。


自分より若いから(笑)


更に溢れんばかりの文才に嫉妬せざるを得なかったです。


有り得ないシチュエーションだと分かってるんです。


忘れさられた島


喋る案山子


最低の警察


嘘しか言わない絵描き


殺しを認知されてる男


太りすぎの女(これはアリか)



しかし



なんか私の遠い記憶に、その島があったような気にさせられる。



私は幼少の頃、本当に忘れさられたような田舎で暮らしており



祖父の家の田んぼには、当たり前のように案山子が存在して。



手放しに本の世界に引きずりこまれ



美しい自然描写のなか、哲学的な要素もあり



凄い作家が出たものだ、と感嘆したものです。



人気出るだろうな


と思いましたが


ここまでとは(笑)





初めて読んでから、ほぼ10年



伊坂幸太郎出現!


この衝撃は


忘れられないですね。


そういった意味を含めて、

「オーデュボンの祈り」


は忘れられない作品の一つです