真実

ドアの奥に立っているのは
55歳くらいのおじさんだった。

「久しぶりだね、直人くん。」

「親父さん!」

花のお父さんだった。
昔より白髪が増えているが
全てを理解してくれているような
優しい目も、声も、笑顔も
昔と何も変わらない。
ただ、昔より少し太っている。

「元気だったかい?」

「はい!ほんとにお久しぶりです!」

「そんなに、謙遜しないでおくれよ。
私は君がこんなに小さい時から知っているんだから。」

花の親父さんは笑いながら
俺のおへそ辺りに
身長を測るような
ジェスチャーをする。

「親父さんも
全然変わってませんね。」

俺は照れながら言う。

「そうか…な?」

親父さんは悲しそうな目で花を見る。

「まだ…治らないんですか?」

「あぁ…」

沈黙が流れる。

俺がこの空気に耐えられず
沈黙を破ろうとした時
親父さんが気弱そうに言った。

「事故じゃなかったんだ…」



俺は少しの間
頭が真っ白になる。

「えっ…?」

聞こえていたが
不意に聞き返してしまった。

「花は事故じゃなかった。
何者かによって殺されかけた。
まぁ、もはや殺されたと言っても
同じようなものだが。」

親父さんの目が急に怖くなる
憎しみで溢れている。

俺は何も言えない。
いや、言いたいことは沢山ある。
でも
あまりにも想像をかけ離れ過ぎて
頭がいっぱいになっている。

それを分かってくれたのか
親父さんは、丁寧にゆっくり
知っていることを説明してくれた。

「この事実を知ったのは去年の春だ。
私も最初聞いた時は
君みたいに立ち尽くしたよ。
整理もつかなかった。
事故だと、こういう運命だと
割り切っていた想いを
裏切られたわけだからね。
そして、同時に憎しみが芽生えた。
犯人もそうだが
この国の警察にもだ。
だってそうだろ?
こんなに長いこと…今更だよ。
何も出来ない。手遅れだ。」

親父さんは泣いている。
それでも話し続けてくれた。

「でも仕方ないよな。
俺がしっかり花を
見てやれなかったから…
だから花は…」

「親父さんは悪くない!」

これだけは考えなくても言えた。

「自分ばかり責めないでください!」

親父さんは驚いた顔で俺を見る。

「ありがとう。」

親父さんの顔は
涙でベッショベショで
笑顔でくっしゃくしゃだった。


「でも…」

俺はずっと
気になっている質問をぶつけた。

「でも、どうして殺人事件だと
言えるんですか?」

「あ、あぁ。実はな。」

親父さんは少し難しい表情をした。
そして、続けた。

「事故を起こした
トラックの運転手がいただろ?
彼は、事故を起こして逃走した。
そして
その直後に首を吊って自殺した。
誰もが罪を償って自殺したのだと
思っていた。
遺書にもそう書いてあったからな。
しかし、ココ最近、「魂跡」という技術が使われるようになったのは知っているかい?」

「こんせき?」

「そう、魂跡。
死んだ者をカプセルのような
機械に入れて
魂を取り出す技術だ。
まだ、国家機密らしいがね。
運転手は
その第1実験体だったんだ。」

俺は驚いた。
この国にそんな技術が…

親父さんは続ける。
「魂跡は2016年の春から始まった
プロジェクトらしい。
そして、昨年やっと完成したらしい。
もちろん、実験体である運転手は
魂を取り出された訳だ。
そして、ついでに質問をしたらしい。
お前が花を計画的に殺そうとした
犯人か、と。
彼は答えた。

俺は殺されたんだ、と。

俺は雇われていた。
子供を轢いたのも仕事で
金を稼ぐためにやった。
そう言ったらしい。

つまり、
黒幕は別にいるんだよ
直人くん。」

俺は真っ白なまま
ただ、ただ、花を見つめていた。

~続く~