慶仁は目を覚ました。

火薬の臭いも、汗の臭いもしない。どうやら現実の世界にもどってきたようだ。


朝か…昨日はいろいろやりすぎたかもな。そういや時間割合わしてなかったっけ?



慶仁は自分の机に向かい、教科書をあさって時間割をあわそうとした。



…?英語の教科書がない。



慶仁は時間割表を取り出した。



今日は木曜日だっけ?えーっと…一時間目は数学で、それから国語、物理、武術…ってなんだよ!武術!?四時間目って体育じゃなかったっけ!?そのあとは日本史、美術…ここは変わらないな。



慶仁は不思議に思いつつ時間割を合わし、(ただし武術はどうすればわからなかったので、とりあえず体操服をかばんに入れた)そして嫌な予感にかられつつ学校へと向かった。


登校中、ほとんどの家で日本の国旗が掲げられていた。

英語の授業がなくなったことと重ね合わせると、どうしても嫌な現状が思いうかんでくる。


慶仁は学校に着いた。

「おはよう。」隆二があいさつしてきた。


…そういやオレはサッカー部にまだ所属してるのかな…?


「おはよう。今日放課後予定ある?」

「そりゃもちろん部活だよ。慶仁もやめなきゃよかったのに…。」

慶仁は肩を落とした。どうやらそこの未来(それとも現実?)は変わらなかったらしい。まあまったく関わりのない過去に行ったのだからそれも当然だろう。

そうだね、とだけ答え、慶仁は自分の席にもどった。



担任の三好先生が入ってきた。

「みなさん、おはようございます。武術の星加先生からの連絡ですが、今日から実戦形式で授業を進めるらしいです。」



だから武術って何!?

「大佐、新たな信号を捕らえました! 未確認のものですが、おそらく鬼畜米だと思われます!」

兵士の一人が機械操作室から出てきた。

「それだ!発信源はドコだ!?間違いなくそこで原爆発射計画が進んでいるはずだ!」

「貴様…もういい。だれかこいつをつまみ出せ!」

大久保は慶仁をつき飛ばした。


「待って下さい!実はその信号はどうやら小さな孤島から発せられたものらしく、鬼畜米との関わりがよくわかりません。ひょっとしたらそやつの言うように、なにやら怪しい計画を進めているのかも知れません!」

先ほどの兵士が言った。


「…しかしだな…。兵士の数もだいぶ減ってきている。昨日だって第三部隊が全滅してしまったではないか。これ以上無駄な犠牲を出すわけにもいかない。」

「戦争による死はすべて無駄なはずだ!とにかくもうすぐ何万人も死ぬ!早く手を打つんだ!」

慶仁は必死に訴えた。それでも大久保は悩んでいた。


「隊長、もうすぐ第五部隊帰還するはずです。少し休ませて彼らに向かわせてはどうでしょう?」

浜中が口をはさんだ。

「…仕方ない。確かに私もその信号に嫌な予感がしないことはない。では明後日くらいに第五部隊に向かってもらうとしよう。」




その日の遅く、第五部隊は基地へとたどり着いた。

慶仁は兵士たちと同じ部屋で寝るように言われた。


ったく…まぁこれで一安心だな。たぶん原爆の基地に間違いないだろう。授業で原爆がどこから発射されたかまで教わっていればよかったが…。




慶仁は深い眠りへと落ちていった。

慶仁は基地の内部へと連れて行かれた。


「そういや自己紹介を忘れてたな。ワシの名前は浜中だ。この東京南西地区の基地で曹長をしている。これからここの大佐に会ってもらう。」


慶仁は適当に受け答えし、基地の中を観察した。ほんとうに戦争中らしかった。いたる所に日本の国旗を掲げていて、部屋の中では兵士たちがつかれた様子で座っていた。



「大久保隊長!怪しい人物を連れてきました!何やら記憶を失っているようで…どうしましょうか?」

部屋へと着いた。

大久保と呼ばれた男がいすから立ち上がった。

かなりの大がらだ。身長は…ざっと185といったところか。

「わかった。貴様変わった格好をしてるな。本当に記憶がないのか?」

大久保は低く、よく響く声で語りかけてきた。

「はい。でも自分でもわからないんですが、あと少しでアメリカが日本に原爆を…。」

「こいつさっきからこのような事を言っておるんです。」浜中が苦笑しながら説明した。


「まぁ待て。聞く価値はある。おい、原爆とはなんだ?何故貴様が知っている?」

そういや日本が初めて原爆を落とされた国だったんだっけ?じゃあ原爆を知ってるわけがないか…


「アメリカはすでに原子爆弾という核兵器を完成させているはずです。その原爆という物はすさまじい威力を持って、たった一発で何万人もの人を殺すことができます。なんで僕が知っているのかというと…。」

慶仁は言葉につまり、うまい言い訳が思い浮かばず黙っていた。


「ふむ…それが本当だとしたら実に大変なことだ。しかしそれはあまりにも信ぴょう性に欠ける。今は戦うのに人件を回すので精一杯だ。これ以上余計な事に人を遣わすことはできない。」

大久保が言う事の方が明らかに合理的だった。

それに、未来の事も心配だ。原爆がもし落とされなかったら?

今の未来はかなり変わっているはずだ。


…でもあの原爆のせいでたくさんの人が苦しい思いをし、今もつらい思いをしている人がいる。

これは変えてもいいことではないのか?

慶仁はある地へと降り立った。


「ここは…。」

あたりには若干ほこりが舞っていた。

家々はほとんどが木造建築である。どうやらだいぶ昔へときてしまったらしい。

「ったく…何年だよ?」


慶仁は家々の間をのぞいてはカレンダーがないかと探しまわった。

しかし、カレンダーはおろか、人が生活している様子すらない。


慶仁の元へ、軍服を着た中年の男がやってきた。

「おい!貴様なにをしている!」

男はするどく光るモノを慶仁につきつけて言った。

その先には穴が開いている。そう、銃口だ。


慶仁は両手を上げて引き下がった。

「あ、あやしいものではありません。」

「そのような服を着た人間は見たことがないぞ!貴様、鬼畜米には見えないが、そのスパイではないのか!」

鬼畜米?この時代は…まさか…



「あの…今日は西暦何年何月何日ですか?」

「貴様何を言っている!」

「あの…僕記憶喪失なんです。自分が何者なのかもわからないんです。」

慶仁はとっさにウソをついた。

「本当なのか!?とりあえずお前を捕らえることにする。抵抗するなよ。」

慶仁は縄でしばられ、そのまま軍人たちがたくさんいる基地へと歩いていった。


「お前本当に記憶喪失なのか?」

「はい…自分がなんでここにいるのかもわかりません。」

「そうか…戦争中にはそういうヤツもいる。今日は1945年8月2日だ。」

「えッ!?」

慶仁は驚いて目を見開いた。1945年の8月2日。広島に原爆が落ちる4日前で、日本が降伏する約2週間前だ。


「た、大変です、もう少しで広島に原爆が落ち、その3日後に長崎に…。」

「お前そうとう頭打ったんだな。」

男は大声で笑いながら慶仁の肩をパンパンとたたいた。


「いや、本当なんです、もう何日か経ったら、何万という人間が一度に焼けしんでしまうんです!」

慶仁は必死に訴えたが、聞く耳をもたなかった。




その上空を戦闘機が飛んでいった。

慶仁は肩を落として下校していた。

「なんで望むように変わってくれないんだよ…。」



その夜慶仁は再び夢を見た。

そう、青い光の夢だ。



またか…もういいんだ…これ以上やってもどうせいい方向には変わらない…


ナンデダ…オマエハシゲキヲモトメテイル…


もういいんだ…この運命を受け入れて生きていくしかないんだ…


コレガサイゴノチャンスダゾ…


これ以上取り返しのつかない状況をつくりたくないんだよ…


サッカーヲシタクナイノカ…



トモダチトナカナオリシタクナイノカ…


…わかったよ。頼む、オレをどこにでも連れて行ってくれ…



こうして慶仁は最後の時空の旅へと発った

翌朝慶仁は目を覚ました。

「ほんとにオレらは県大会出場を決めたのかな…。」

慶仁は部活の道具も持って登校した。


朝教室に入ると勇樹がいた。

「おはよう。」慶仁はほがらかにあいさつした。

勇樹は驚いた顔を見せたが、小声でおはようと言うと再び目にしていた参考書を読み始めた。

慶仁はよくわからなかった。



なにかがおかしい。

サッカー部のみんなの態度がよそよそしい。

慶仁は不安にかりたたれ、隆二へ相談した。

「なぁ、なんかサッカー部のみんなオレを避けてないか?」

「えッ?…何言ってんだよ?」

隆二は心底驚いたようだった。

「何って…わからないんだよ。」

「頭でも打ったのか?お前、自分がしたこと憶えてねぇのかよ。」

隆二は怒りよりも不安を感じているようだった。


「オレ、一体何したんだよ?」

「試合のあと、お前勇樹とまたケンカしたじゃないか。パスをまったく出さなかったからって。で、他のみんなにも食いかかって、最後には退部届けまで監督に出したじゃん。…大丈夫か?」

慶仁は開いた口がふさがらなかった。

オレが…またケンカ?退部?


慶仁はまだよく状況が理解できなかった。

過去を変えたと同時に、そこにあったはずの未来まで変えてしまったのだ。

別に望んだわけじゃないんだ…


この生活に刺激が欲しかったんだ…


自分を物語のヒーローと重ねてしまうんだ…




慶仁は夢を見ていた。

やはり青い怪物が現れた。


「オマエニハマダノゾミガアル…カエタイカコガアル…。」

「でも自分でもわかんねぇよ!オレは…一体どうすればいいんだ!」

「ジブンジシンデタシカメロ…。」

慶仁はまた青い光に吸いこまれて行った…。





慶仁は気がつくと、サッカー場の脇にいた。

引退試合をしたサッカー場だ。

「なんなんだ…。オレは今度は何をするために戻ったんだ…?」

目の前では試合が進行していた。周りのみんなは試合をしている”慶仁”とそこにいる慶仁とを同一人物と思っていないようだ。

「…ユニフォーム着てないとオレは輝けないってか。」

苦笑しながら慶仁は自分の今の状況を理解しようとした。

この時間帯に戻ってきたと言うことは…試合を変えればいいということか?

ならばこの試合をどうやって変えればいいんだ…。


試合が進行していく…

この場面は見覚えが…

そう、もう少しで勇樹がフェイントをかけて慶仁へとパスをする場面だ。


慶仁は直感で、ここだと思った。


ホイッスルが鳴る一分前といったところか。

頭をフル回転した。どうやってこれを変えるのか…。

とっさに慶仁はちかくにあった石を拾い上げ、”慶仁”へと投げつけた。


石は矢のように真っ直ぐ”慶仁”へと飛んで行った。

「痛ぇッ!」

”慶仁”はボールから目をはなし、辺りを見わたした。

慶仁は素早くその場から離れた。おそらく”慶仁”はなにが起きたかわからないだろう。

一息ついたら慶仁の耳にかん高いホイッスルの音が響いた。

そして歓声…。

勇樹と隆二がだき合って喜んでいる。

慶仁は見ていなかったが、なにがあったかは十分予想できる。

勇樹はパスを要求しなかった”慶仁”にパスを出すわけもなく、隆二へと出したのだ(たぶん)。

そして隆二がシュートを決めた(たぶん)。あんなに自信があったではないか。



そのまま試合展開を見た。

延長戦へともつれこんだが、再び隆二が点を決め、西川高校は逆転勝利をおさめた。

”慶仁”はあまりボールを触っていなかった。


西川高校は、こうして県大会出場を決めた。


慶仁は目を覚ました。


…うるさいなー…なんだよ、朝から…


慶仁の聴覚を激しく刺激するのは…時計だった。

そう、昨日(さっき?)那穂からもらった時計だ。

「あれは…現実だったのか?」




慶仁はいつもより早く家を出て、那穂の家へと向かった。

「すみません、那穂さんはまだ家にいますか?」

那穂はまだ準備をしている途中だった。

「慶仁?おはよう。こんな朝早いとかめずらしいねー。」

慶仁は那穂と一緒に学校へ行った。


「オレは本当に過去を変えたんだ。まだちょっと信じられないな…。でもこれってすごい力じゃん。」

慶仁は驚きながらも喜んでいた。




学校にはいつもよりだいぶ早く着いた。

教室にはまだ数人しかいなかったが、その中に勇樹の姿があった。

「おはよう。」慶仁は近づいて言った。

「おはよう、慶仁。オレら今日から勉強だな…すこし寂しいよ。」

そういえばもう部活を引退したのを慶仁は思い出した。

「そうだな…でも楽しかったから。すごいいい思い出が出来たよ。これから自分がしたくないこともがんばらないとな。」



その日から、慶仁はありふれた受験生の生活を始めた。

夜遅くまで起きて勉強し、朝早くに起き、学校の授業にも緊張感が出て、塾にも行き始めた。


部活を引退してから一週間経った。

慶仁は早くも受験勉強に嫌気がさしてきた。

「なんかやる気がおきねーなー…だれかに半強制的にやらされるのが一番嫌いなんだよね。」

慶仁はその日、遅くまで起きて勉強しようという気になれなかったので、いつもより早くベッドに入った。

そして…

再び青い光の夢を見た。

慶仁はよく状況を理解できなかった。

青い怪物は、お前の望みをかなえてやると言った。

どういうことだ…どうして…これは夢なのか?


”慶仁”と勇樹はまったく同じ道を通って、同じようにして理奈と奈津子に会った。


夢にしても現実に忠実すぎる…


”慶仁”は勇樹と理奈と別れ、一人で歩き出した…

そのあとを奈津子が追いかける…




とりあえず慶仁は過去に戻ったと割り切って考えることにした。

戻ったとして…

「一体オレは何をすればいいんだ…?望みをかなえてやるって…どうすれば…。」

慶仁は今の自分の望みを考えた。それはもちろん…

「那穂と仲直りすること。」

慶仁は迷わなかった。ではどうやって変える?”慶仁”と奈津子を違う場所へ行くように仕向けるか?

でもうまく方法が思いうかばない。うっかり慶仁と”慶仁”が同じ時間、同じ場所に存在することだけは避けたい(夢でないなら場の話だが)。

ならば…

「那穂に会うしかないか…。」


慶仁は昨夜那穂と出会った角へと急いだ。


「那穂が行きそうな場所で、ここから近い場所と言えば…。」

二人でよく行っていた近くの店へと急いだ。確信はなかったのだが、あてもなくさまようよりは少しでも可能性がある方がいいと思った。

店まで後少しというとき那穂と会った。


「あッ、慶仁!なんでいるの!?」

「いや…なんとなく歩いてた。」うまい理由が思い浮かばなかった。

「なんか怪しいなー。でもすごい偶然だよね。この前はごめん、なんかつっけんどんな感じで…。おわびの印にさっきそこでこれ買ったんだぁ。」

那穂がつきだしたのは時計だった。

「実は今日慶仁の試合こっそり見に行ったんだ。惜しかったよねー…でもすごかったよ、慶仁。この前時計なくしたって言ってたよね?よかったらこれ使ってよ。」

那穂は声を弾ませていった。

「…本当にありがとう。で…オレもごめんな。家まで送るよ。」


それから二人は道をのんびり歩いて家まで帰った(もちろん、”慶仁”が通らなかった道を選んでだ)。



慶仁は那穂をきちんと家まで送りとどけた。

そしてどうするか悩んでいると…

再び青い光に包まれた…

一応慶仁は家まで奈津子をおくった。


自分の家に帰っても慶仁は落ち着くことができなかった。自分のとった行動を後悔したが、今さらどうしようもなかった。

「オレら…本当に別れちゃうのかなぁ…」

ベッドに横たわりながら慶仁はつぶやいた。

しかし、やはり試合後に遊んだ為疲れがひどく、そのまま眠ってしまった。




慶仁はまた同じ夢を見ていた。

あの青い光の夢だ。


光が語りかけてくる…何言ってるんだろ…


…あれ…わかる…?



…コッチヘコイ…



…こっちへ来い?どういう事だ…



…オマエノノゾミヲカナエテヤルヨ…



突然青い光が怪物の輪郭を描きだした。

慶仁はそのまま光に吸いこまれた。




目が覚めると夕方の商店街にいた。

「どういう事だ?」

慶仁は不思議に思いつつも商店街を歩いた。

ある角を曲がったときにあるものが見えた。

そう…慶仁自身だった。

「え!?…オレが…二人!?待てよ…このシチュエーション…。」

そう、その”慶仁”はかばんを持っていた。昨日試合のために準備したかばんを。


慶仁は過去へと戻っていたのだ。