基礎的な官能基変換反応 < ヒドロキシ基 ⇒ ハロゲン (I, Br, Cl) >
ここでは、フッ素化以外の基本的な変換反応について述べる。
1. アッペル反応 / Appel Reaction
・OH → I
ex.
Eur. J. Org. Chem. 2013, 1993.
・OH → Br
ex.
・OH → Cl
ex.
J. Appl. Polym. Sci. 2013, 127, 96.
リン-酸素結合は強固であるため、リン試薬はヒドロキシ基の活性化に有用である。
特に、トリフェニルホスフィンは、有機合成の現場で常用されている。
(有機合成の発展に、最も貢献している試薬の一つと言える)
トリフェニルホスフィンは汎用性が高く、極めて有用な試薬であるが、
トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO) が副生するという問題を抱えている。
TPPO
実験室レベルでは、カラム精製をすれば済む話かもしれないが、
カラム精製が困難な化合物の場合や大スケールの合成等では問題が生じる。
また、探索研究などにおいても、効率性の観点から改善が求められる。
TPPOの除去については、以下に示すように、様々な方法が紹介されている。
また、最近ではレジン担持等価体なども、積極的に利用されるようになってきた。
この場合、副生するTPPOはレジン上に固定されるため、TPPOの除去問題が省略される。
以下の報告例では、ポリマーに担持されたトリフェニルホスフィンを使ったりしている。
不均一系の条件を用いることで、精製の効率化が期待できるというわけである。
Org. Proc. Res. Dev. 2002, 6, 190.
トリフェニルホスフィンのレジン等価体については、Biotage などから市販されている。
PS-Triphenylphosphine / Biotage
2. フィンケルシュタイン反応 / Finkelstein Reaction
・OH → OMs → I
ex.
・OH → OMs → Br
ex.
・OH → OMs → Cl
ex.
フィンケルシュタイン反応は、スルホン酸エステルを経由した2段階法である。
この人名反応は本来、ハロゲン交換反応としての意味合いが強いが、
スルホン酸エステルを経由することで、アルコールのハロゲン化にも応用されている。
簡便、かつ、穏和な反応条件であるため、様々な場面で多用される。
アッペル反応は一段階法だが、トリフェニルホスフィンに由来するTPPOの除去が問題になる。
一方、フィンケルシュタイン反応は、2段階法ではあるが、精製が容易である。
こちらは、トータルコストの観点から、メリットを持つ合成手段であると言える。
参考: ハロゲン化水素とスルホン酸のpKa
共役アニオンの安定性が高いほど、脱離基としては優れている。
したがって、pKa が小さいほど、よい脱離基として機能する場合が多い。
pKa
HI: -10
HBr : -9
HCl: -4
HF: 3.2
TfOH: -14.7
TsOH: -2.8
MsOH: -1.9
フィンケルシュタイン反応を利用する場合は、
メシラートを中間体として選択するケースが多い。
また、状況によっては、トシラート、トリフラート、モノクラートを使い分ける場合もある。
参考: メタンスルホニルクロリド(MsCl) の毒物指定
MsCl はヒドロキシ基のメシルエステル化に有用な試薬である。
しかしながら、平成28年7月1日より毒物指定されてしまった。
したがって、重量管理や使用履歴の記録、厳重保管等が要求される。
(同時に、ベンジルクロリドも毒物指定されている)
毒物及び劇物指定令の一部改正について(通知) / 厚生労働省
このような「常用試薬」が使いづらくなるのは、研究効率の面で面倒だと言える。
そこで、代替試薬として「メタンスルホン酸無水物」を使う手が考えられる。
こちらの試薬は、毒物及び劇物取締法の規制からは外れているようである。
(MsCl くらい自由に使わせてよ・・・という気もしますけれど)
メタンスルホン酸無水物 / 7143-01-3
3. 酸性条件
・HI / OH → I
ex.
・PBr3 / OH → Br
ex.
J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8087.
・SOCl2 / OH → Cl
ex.
古典的な反応は、一般的に信頼性が高く、適応範囲も広い。
化合物の安定性に懸念がなければ、積極的に利用すべきである。
「結局のところ、古典的条件が一番良かった」ということも少なくない。
3. その他の報告例
1. 12-タングスト(VI) ケイ酸 を触媒とするヨウ素化
Org. Chem. Int. 2011, 835183, 4.
12 Tungsto(VI) silicic Acid 26-Water / 12027-38-2
2. 硫酸水素アルミニウムを触媒とするヨウ素化
Synthetic Communications 2006, 36, 91.
Aluminium Sulfate / 10043-01-3
3. 酸 / KI (CsI) を用いたヨウ素化
AlCl3
Synth. Commun. 2006, 36, 1259.
TsOH
Lett. Org. Chem. 2005, 2, 644.
BF3-Et2O
Tetrahedron Lett. 2001, 42, 951.
4. TMSBr を用いたブロモ化
5. ピバロイルクロリドとDMFを用いたアルコールの塩素化
Tetrahedron Lett. 2010, 51, 744.
6. N,N-ジメチル-N-(メチルスルファニルメチレン)アンモニウムヨージド を用いたヨウ素化
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