基礎的な官能基変換反応 / ヒドロキシ基 ⇒ ハロゲン (1) | 創薬メモ

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基礎的な官能基変換反応 < ヒドロキシ基 ⇒ ハロゲン (I, Br, Cl) > 

ここでは、フッ素化以外の基本的な変換反応について述べる。

 

1. アッペル反応 / Appel Reaction

 

・OH → I

 

 

ex.

 

Eur. J. Org. Chem. 2013, 1993.

 

・OH → Br

 

 

ex.

 

J. Org. Chem. 200671, 7035.

 

・OH → Cl

 

 

ex.

 

J. Appl. Polym. Sci. 2013127, 96.

 

リン-酸素結合は強固であるため、リン試薬はヒドロキシ基の活性化に有用である。

特に、トリフェニルホスフィンは、有機合成の現場で常用されている。

(有機合成の発展に、最も貢献している試薬の一つと言える)

 

トリフェニルホスフィンは汎用性が高く、極めて有用な試薬であるが、

トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO) が副生するという問題を抱えている。

 

TPPO

 

実験室レベルでは、カラム精製をすれば済む話かもしれないが、

カラム精製が困難な化合物の場合や大スケールの合成等では問題が生じる。

また、探索研究などにおいても、効率性の観点から改善が求められる。

 

TPPOの除去については、以下に示すように、様々な方法が紹介されている。

 

トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)の除去

TPPOを塩化マグネシウムとの錯体化で除去する


また、最近ではレジン担持等価体なども、積極的に利用されるようになってきた。

この場合、副生するTPPOはレジン上に固定されるため、TPPOの除去問題が省略される。

 

以下の報告例では、ポリマーに担持されたトリフェニルホスフィンを使ったりしている。

不均一系の条件を用いることで、精製の効率化が期待できるというわけである。

 

Org. Proc. Res. Dev. 2002, 6, 190.

 

トリフェニルホスフィンのレジン等価体については、Biotage などから市販されている。

 

PS-Triphenylphosphine / Biotage

 

2. フィンケルシュタイン反応 / Finkelstein Reaction

 

・OH → OMs → I

 

 

ex.

 

Org. Lett. 2008, 10, 2721.

 

・OH → OMs → Br

 

 

ex.

 

WO2012151195 A1

 

・OH → OMs → Cl

 

 

ex.

 

WO 2013096918 A1

 

フィンケルシュタイン反応は、スルホン酸エステルを経由した2段階法である。

この人名反応は本来、ハロゲン交換反応としての意味合いが強いが、

スルホン酸エステルを経由することで、アルコールのハロゲン化にも応用されている。

簡便、かつ、穏和な反応条件であるため、様々な場面で多用される。

 

アッペル反応は一段階法だが、トリフェニルホスフィンに由来するTPPOの除去が問題になる。

一方、フィンケルシュタイン反応は、2段階法ではあるが、精製が容易である。

こちらは、トータルコストの観点から、メリットを持つ合成手段であると言える。

 

参考: ハロゲン化水素とスルホン酸のpKa

 

共役アニオンの安定性が高いほど、脱離基としては優れている。

したがって、pKa が小さいほど、よい脱離基として機能する場合が多い。

 

pKa

 

HI: -10

HBr : -9

HCl: -4

HF: 3.2

 

TfOH: -14.7

TsOH: -2.8

MsOH: -1.9

 

フィンケルシュタイン反応を利用する場合は、

メシラートを中間体として選択するケースが多い。

また、状況によっては、トシラート、トリフラート、モノクラートを使い分ける場合もある。

 

参考: メタンスルホニルクロリド(MsCl) の毒物指定

 

MsCl はヒドロキシ基のメシルエステル化に有用な試薬である。

しかしながら、平成28年7月1日より毒物指定されてしまった。

したがって、重量管理や使用履歴の記録、厳重保管等が要求される。

(同時に、ベンジルクロリドも毒物指定されている)

 

毒物及び劇物指定令の一部改正について(通知) / 厚生労働省

毒物及び劇物指定令

 

このような「常用試薬」が使いづらくなるのは、研究効率の面で面倒だと言える。

そこで、代替試薬として「メタンスルホン酸無水物」を使う手が考えられる。

こちらの試薬は、毒物及び劇物取締法の規制からは外れているようである。

(MsCl くらい自由に使わせてよ・・・という気もしますけれど)

 

メタンスルホン酸無水物 / 7143-01-3

 

3. 酸性条件

 

・HI / OH → I

 

 

ex.

 

Org. Lett. 2006, 8, 3145.

 

・PBr3 / OH → Br

 

 

ex.

 

J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8087.

 

・SOCl2  / OH → Cl

 

ex.

 

US 20090023782 A1

 

古典的な反応は、一般的に信頼性が高く、適応範囲も広い。

化合物の安定性に懸念がなければ、積極的に利用すべきである。

「結局のところ、古典的条件が一番良かった」ということも少なくない。

 

3. その他の報告例

 

1. 12-タングスト(VI) ケイ酸 を触媒とするヨウ素化

 

Org. Chem. Int. 2011, 835183, 4.

 

12 Tungsto(VI) silicic Acid 26-Water / 12027-38-2

 

2. 硫酸水素アルミニウムを触媒とするヨウ素化

 

Synthetic Communications 2006, 36, 91.

 

Aluminium Sulfate / 10043-01-3

 

3. 酸 / KI (CsI) を用いたヨウ素化

 

AlCl3

 

Synth. Commun. 2006, 36, 1259.

 

TsOH

Lett. Org. Chem. 2005, 2, 644.

 

BF3-Et2O

Tetrahedron Lett. 2001, 42, 951.

 

4. TMSBr を用いたブロモ化

 

J. Med. Chem. 200649, 2155.

 

5. ピバロイルクロリドとDMFを用いたアルコールの塩素化

 

Tetrahedron Lett. 2010, 51, 744.

 

6. N,N-ジメチル-N-(メチルスルファニルメチレン)アンモニウムヨージド を用いたヨウ素化

 

 

J. Org. Chem. 2009, 74, 7982.

 

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