こんな本があるんです、いま -2ページ目

電子化をためらわせるもの

経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」(緊デジ)への応募数が伸び悩んでいるようだ。

この事業は2012年の1年間で国内の出版物6万点を電子化することを目指している。「電子書籍市場の拡大及びそれに伴う被災地域の知のアクセスの向上に向けて、書籍の電子化作業に要する製作費用を国が補助」するという事業で、補助金額は10億円。電子化費用の50%(条件によっては3分の2)を補助、さらに「代行出版社」である(株)出版デジタル機構と契約すると、申請する出版社の初期費用は同機構が立て替えるので、出版社の負担は“ほぼ0円”となる。

事業の目的には東日本大震災被災地域への支援と電子書籍市場の活性化が掲げられ、出版社にとって魅力的な事業となっていることが強調されている。

仮申請段階では5月段階で約9万3000点が申請され、確かに出版社の関心は高かった。その後、本申請が開始されたが、最近の数字では本申請承認済み出版社は264社(7月27日)、申請済み点数は2,373点(8月31日、いずれも同事業特設ホームページより)予備申請の数字に比べると、その数字はかなり下回っている。前述の通り、出版社側の経済的な負担は“ほぼ0円”とうたわれた好条件の中、なぜ数字が伸び悩んでいるのだろう。

原因の一つには、著作権者との権利関係が整えられていない現状があるだろう。予備申請の段階の数字は、出版社側の希望的な数字であり、その時点では著者との権利関係は問われていない。しかし本申請にあたっては、権利関係は出版社側がクリアしなくてはならない。出版社側が仮申請した既刊本でも、電子化を予想した出版契約がなされていたものは多くないはずで、そこを解決できずに実際の申請に至らないでいるケースも少なくないはずだ。

もう一つは、デジタル化されたデータの扱いの問題である。緊デジで制作した電子書籍は、基本的に配信・販売されることが前提とされ、販売予定のない電子化のみの依頼は申請できない。また、出版デジタル機構と契約して申請した場合は、配信・販売については同機構が「取次店」のような形で、主な電子書店へ電子書籍データを「卸す」と説明されてきた。そこには「料率や配信方法で合意がとれれば」という条件があるものの、具体的にはどのような契約になるのか、未知数に思える部分が多かった。この点に関しては、その後、申請した出版社が各電子書店と契約する形に改められたが、それにしても電子書籍の販売そのものが持つ課題は残る。

中でも電子書籍については、紙の書籍での再販制のような、出版社の価格決定権の問題が未解決のままという問題は大きい。特に電子書店での販売については、現状では出版社による価格決定が維持できる保証は何もない。最近の「アマゾン契約」の問題を見ても明らかだろう。その状況のもとで、電子書店へ「卸す」形での配信・販売までを含む緊デジへの申請を躊躇しているケースは少なくないと思う。

大手出版社の中には、電子書籍の配信を自社サイトに限定している社もある。電子書籍化したからといって、そのことで読者が飛躍的に増加するとは思えない出版物の場合は特に、自社サイトのみでの販売という判断も有効に思える。緊デジでは、当初、自社サイトのみでの販売という方法は実質的に選択できない仕組みになっていた(その後、その方法も選択可能になっているが、周知されているとは言い難い)。

こうしたことが、本申請をためらわせる大きな要因になっていると思える。また、私自身について言えば、この事業が「東北支援」の掛け声のもとに行われつつ、この事業を通してどれほど東北を効果的に支援できるものかを理解できず、話に乗りきれないまま今日にいたっているのだが、同じような思いの社も、決して少数ではないだろう。

ともあれ、緊デジは、書籍の電子化のための主な障害が経済的・技術的な理由にあるのではなく、著作者と出版社の権利関係や、電子書籍の配信・販売のあり方や権利関係が未整理状態にあることの方にあることを浮き彫りにしていると言えよう。

これらの問題は、私たちが求める出版者の権利の問題と密接に関連している。これからの知の再生産を確保・発展させる基礎としての出版者の権利獲得こそが「緊急」課題であり、その実現に向けてさらに努めていきたいと思う。

●水野久晩成書房/流対協副会長)

※『FAX新刊選』2012年9月・223号より

読売新聞との出版契約は有効だ

昨年11月11日、読売ジャイアンツの清武英利球団代表・GMが、球団会長で読売新聞社の渡邉恒雄主筆を内部告発する記者会見を行ったのが、嵐を告げるプロローグだった。

私たち七つ森書館は、『高木仁三郎著作集』『原子力市民年鑑』『自然エネルギー白書』など脱原発系の本を中心に出版してきた。3・11後の時代にあって注目を集める出版社だと自負している。

小社は、昨年から「ノンフィクションシリーズ“人間”」(監修・解説は評論家の佐高信氏)の刊行を開始した。過去に出版された優れたノンフィクションの復刊を目的にしている。このシリーズに1998年刊行で、旧第一勧業銀行経営陣をはじめとして官・政・財界の腐敗を問う『会長はなぜ自殺したか──金融腐敗=呪縛の検証』(読売新聞社会部編)を入れようと企画し、2010年12月から読売新聞社と交渉を始めた。著者名を取材当時のデスクが清武さんだったことから、「読売社会部清武班」とすることも合意し、印税の支払先を読売新聞東京本社とすることなども取り決めて、出版契約を結んだ。読売新聞社会部次長(当時)が交渉の窓口となって読売新聞社の法務部門と協議した上で結ばれた出版契約である。

その半年後に、清武さんの内部告発である。直後に、読売新聞社は七つ森書館に対して「出版契約を解除したい。補償はお金でする」と申し入れてきた。小社は本シリーズの目的をあげて、理解を求めた。しかし、読売新聞社は代理人同士の交渉もうまくいかないと見るや「出版契約無効確認請求事件」として東京地裁へ提訴したのである。

読売新聞社の主張は「読売新聞社において、出版契約は局長が了解・決定するのが通例であるが、今回は権限を有していない社会部次長が署名しているから無効である」というものだ。出版契約にいたるプロセスをまったく無視しているばかりか、読売新聞社内の規則にすぎないものを社会一般の論理と見せかけて押し通すものにほかならない。そればかりか、20通以上のメールのやりとりをしたうえで、内容見本のパンフレットを作成して書店に配布してきたし、「本社法務部門と協議の上……」というメモまで着いてきた出版契約書が無効であると、私たち七つ森書館がどうして知ることができたのだろうか!

巨大メディアの読売新聞社が、小出版社の七つ森書館を訴えることによって出版を妨害したのだ。多大な時間と訴訟費用の浪費を迫り、自らの主張を押し通そうとするものである。ジャーナリストにあるまじき暴挙だ。

第1回口頭弁論終了後の記者会見で、小社は本書を全国書店で発売すると発表した。これに対し、読売新聞は、販売差し止め仮処分を起こし、数日後には出版差し止め仮処分を起こした。

現在、一つ目の仮処分(販売差し止め)は敗訴したので、直ちに仮処分異議を申し立てた。二つ目の仮処分(出版差し止め)には勝訴し、読売側が異議申立しなかったので、小社の勝訴が確定した。

この数十年で、どれだけの巨大企業が膨大な利潤を奪ったことだろう。どれだけ多くの貧困層が生まれたことだろう。このような社会の矛盾を監視するのがジャーナリストの眼なのだ。清武さんは本書執筆中に、経営陣に対して「おかしいじゃないですか」と叫んだ社員の声が忘れられないという。私たちアリのように小さな存在が、巨象のように大きな読売新聞社に対して、おかしいことはおかしいと言って誤りを正していくことが重要だ。少年少女のような考え方かもしれないが、私たちは少年少女時代の美しい心を忘れない。

●中里英章・出版流通対策協議会/会員七つ森書館

出版ニュース』(2012年8月中旬号)より転載

声明●消費税増税決定に抗議する

声明●消費税増税決定に抗議する

2012年8月20日

民主党野田政権は、党内の合意形成すらできない状態で、ふくらむ社会保障費用の財源確保と称して消費税増税法案を民自公の三党合意という大義名分で可決成立させたが、当の社会保障関連の具体的な裏付けもなく、消費税増税だけを決めるという行為は、もはや政権政党としての責任ある長期政策目標を放棄し、「決める政治」というお題目だけの常軌を逸したとしか言いようがない暴挙である。

法案可決後、一体改革を今後も推進すると表明するものの、政局は解散を巡る攻防に移り、消費税制度が抱える、低所得者に対する逆進性、輸出企業への消費税還付、消費税を賦課できない中小事業者の存在等の問題点をそのままに、景気回復も見込まれない現時点で、いくつかの留保条件を付したとはいえ、国民の生活を様々な場面で圧迫し、消費の落ち込みだけでなく、人心さえ乱れかねない。しかも、今回の可決に当たっては、欧米諸国で実施されている食料品など生活必需品や書籍・雑誌・新聞の軽減税率すら十分に議論することなく、2014年の実施までの検討事項として“先送り”した。現下の経済情勢と生活者を無視した悪法を基本的には認める訳にはいかない。二年後の実施の検討にあたっては、景気の明確な回復の確認、並びに生活必需品と書籍、雑誌、新聞等への軽減税率の導入をはかることを要求する。


本当に“電子書籍時代”は来るのか!?──紙の本を殺さないために

「米アマゾン 電子書籍配信9月にも開始」朝日新聞(7月27日)一面に踊った見出しである。この一年、朝日新聞によるアマゾンの電子書籍報道は異常と言えそうなほど。電子書籍の普及は出版界の救世主と言わんばかりである。

アメリカでの売り上げ拡大は確かであるが、その反面リアル書店の崩壊は一気に進んでいる。アメリカの出版事情は、日本とは異なり、再販制度はもとより、書店を支える流通組織もなく、書店は大都市のみでほとんどが直販での通販である。また、専門書を含む図書館の充実は、市民の要望に応えるだけの大きな存在となっており、そうした条件下では一般読み物を中心とした電子書籍が読者に受け入れられやすいことも理解できる。

だが、日本では事情が異なる。減りつつあるとはいえ、まだ地方の町や村にも書店は残り、アマゾンなどの通販の市場は拡大しているものの、書店が完全に崩壊したとはいえない。

PC、スマホ、タブレットなどのIT機器の普及によって、マンガやケータイ小説、一部の単行本電子書籍が、600億円前後の市場を形成したのは確かであり、これからも成長を続けることは間違いない。だからといって、出版界のピーク1996年2兆6500億円から2011年の1兆8000億円への減り分、8500億円を一気にカバーするほどの市場拡大は見通せない。とくに紙と同じ物を電子化したところで、紙でも読まれないものが、基本的に電子で読まれるはずがない(絶版、品切れ本は別だが)。

さて、消費社会の拡大に伴って業界を支えてきた雑誌の落ち込みは、情報の提供と広告媒体としての位置が変動したことによるものであり、これはネット社会における広告の存在が高まれば高まるほど、加速度的に衰退に向かうことだろう(それは一方で、電子雑誌の可能性を含むものでもある)。そして、この15年間の売り上げ減少傾向の本質的な問題点の抉り出しとその改善点を共有することが、電子書籍への恐怖感を払拭し、本来の出版活動と業界の再生への道のように思われる。

版元にとっては、この電子書籍の波は、著作権に関係する隣接権という自分たちの権利の確保の問題を提起し、有体物(本)としての再販商品と無体物(電子)としての非再販商品の公衆送信権の保持の仕方を突きつけた。アマゾンや楽天の電子書籍販売における版元との価格決定権の争奪は、無体物であるが故の既存の「仕入れ値」「卸値」という概念にはそぐわず、公衆送信権に対する考え方の問題に行きつく。この本質的な問題が解決されない限り、取次らしきものの存立も、根無し草的状態が続くだろう。また、電子書籍のフォーマットが、共通フォーマットとして業界全体で共有化されない限り、端末による囲い込み(Amazon Kindle、kobo Touchなどによる系列化)は、大きな阻害要因になるだろう。これらは、版元側(川上)にとっての電子書籍化のブレーキ要因である。

ところで、この間、川中、川下で言われて久しい流通問題では、日書連がトーハン、日販を公取に訴えた送品・返品の同日精算問題や仕入れ条件の格差問題、委託制度を含む配本システムの改善など、戦後から続いた制度のいわゆる“金属疲労”の抜本改革の方向性が見えない。

言われ続けたことではあるが、読者と接する最前線の書店での自主仕入れの不足は、地元読者のニーズを満たせず、取次店からの見計らい送品に頼ることで返品を増大させ、雑誌の落ち込みによる売り上げ減が、そのまま経営難を招く結果になっている。

先にも触れたが、「紙の本で売れないものが、電子で売れるわけがない」。これは原則的に正しい。「電子書籍から紙の本になって売れる物はある」ことは当然である。電子書籍の市場が拡大するのは、電子書籍として企画し、制作したものの生産が増えることによってである。

既存の書籍を電子化したところで、初版2000部のものが、電子で2000部売れるのは奇跡に近いだろう。

取次は、電子書籍の取次も請け負うなどという“妄想”に取りつかれないように。書店も売上げ減の要因を電子書籍に負わせることなく、自らの販売努力を高めることで乗り切っていただきたい。

われわれ小版元は、紙媒体の活性化と時代に求められる少数派の読者に応えられる物を送り続ける努力をしたいと思っている。われわれにとって、電子書籍はあくまでも紙媒体の補完的媒体である。

●竹内淳夫彩流社/流対協副会長)

※『FAX新刊選』 2012年8月・222号より

【シンポジウム】 共通番号制のすべてを知ろう●7月22日(日)

シンポジウム●共通番号制のすべてを知ろう

■日時 7月22日(日)13:15~16:45(12:45 受付開始)
■会場 上智大学12号館102号教室
(JR・東京メトロ 四ッ谷駅下車5分、休日は正門のみ利用可)

<PartⅠ 共通番号制の本質と問題点を考えるために>

田島泰彦さん(上智大学教授) 「シンポの趣旨および情報統制と監視のなかの共通番号制」
白石 孝さん(反住基ネット連絡会) 「住基ネットから共通番号制へ、どこが違い、どこが問題か~わが国における国家管理の特徴と問題点」
石村耕治さん(PIJ代表) 「共通番号でなりすまし犯罪社会化する米国の現状~そして分野別番号への転換」
ビデオ上映 「韓国における情報流出となりすまし被害の実情」

★とことん知るための一問一答●その1

<PartⅡ 共通番号制で便利になるという幻想を見抜くために>

・コーディネーター:水永誠二さん
●「医療の現場から医療制度の将来の危険性を指摘する」 知念 哲さん(神奈川県保険医協会
●「所得の捕捉と税制の課題」 辻村祥造さん(税理士、PIJ副代表)
●「強まる外国人管理~改定住基台帳法・改定入管法と共通番号制」 西邑 亨さん(反住基ネット連絡会入管法対策会議
●「取材現場から」 桐山桂一さん(東京新聞論説委員)
●「逆転する国家・国民の知る権利とプライバシー」 瀬川宏貴さん(自由法曹団

★とことん知るための一問一答●その2

*質問は、会場でアンケート方式でお受けしますが、事前に受けることもできます。
下記アドレスに質問を送ってください。

■資料代 500円

<主催>
共通番号制を考える市民シンポジウム実行委員会

○田島泰彦(上智大学教授、監視社会を拒否する会共同代表)
○石村耕治(白鴎大学教授・PIJ代表)
○池川明(神奈川県保険医協会
○住江憲勇(全国保険医団体連合会会長)
○清水勉(弁護士)
○水永誠二(弁護士)  
○篠原義仁(弁護士・自由法曹団団長) 
○東海林智(日本マスコミ文化情報労組会議議長)  
○高須次郎(出版流通対策協議会・会長)
○富山洋子(日本消費者連盟元代表) 
○設楽ヨシ子(ふぇみん婦人民主クラブ共同代表) 

◆事務局
shiratlk@jcom.home.ne.jp/090-2302-4908(白石)
tunoda@tbz.t-com.ne.jp/03-3330-8270(角田)