このアルバムは、10年以上前から欲しいと思いつつ、レンタルや中古CDを探しているうちに、当のJ.J.ケイルは死んでしまいました。
先日のGWにディスク・ユニオン神保町店で見つけて824円(税込)で入手。やっと、聴くことができました。
想像以上に地味でシブいです。
J.J.Cale
これまで、 エリック・クラプトンのカバーや2006年のクラプトンとの共演アルバム『The Road To Escondido』を聴いた限りではここまでとは思ってませんでした。
現在の私としては聴いて楽しめるギリギリのラインですね。
彼が亡くなる前にAmazonで購入しておけば良かったかとも思いましたが、まだ、私の側で聴く準備ができていなかったのだと思います。
流れにまかせておけば、適切な時期に聴くべき音楽には出会えるもんです。
1972年の作品
Naturally/J.J. Cale
¥1,303
Amazon.co.jp
人によっては、いきなり地味シブの曲を聴くのは辛いと思いますので、まずは耳慣らしに昨年、エリック・クラプトンの呼びかけによりジョン・メイヤー、トム・ペティ、デレク・トラックスらが集結して制作されたJ.J.ケイルのトリビュート・アルバム『The Breeze~J.J.ケイルに捧ぐ』より"Call Me The Breeze"をお聴きください。
ボーカルとギターはクラプトン。
クラプトンが演ると地味シブな曲も一気にシブカッコよくなります。
この動画も楽しいね
「One Two ,One Two」とカウントの入っている冒頭の部分はオリジナル音源からサンプリング(笑)しています。
イントロでお気づきの方もあるかと思いますが、この曲では何と生身のドラマーではなくリズムボックスを使っています。
どういう意図なのか、はっきりとは判りませんが、このアルバムの中では何曲かリズムボックスを使用しています。
この単純なリズムパターンが淡々と続いていくことが、J.J.ケイルのオリジナル・レコーディングから受ける地味な印象の一因かと思います。
対してエリック・クラプトンが演ると、同じ曲をかなり原曲に忠実にカバーしているのですが、どこかキャッチーに聴こえます。
これはイギリス人的センスだと思いますね。
黒人音楽を原料に音楽を作る場合、同じ白人でもアメリカ人の場合は雑味が残りますが、イギリス人の場合、自然にかっこよさだけを蒸留して抽出するセンスがあるように感じます。
この曲はレイナード・スキナードやトム・ペティもカバーしています。
クラプトンに限らず、J.J.ケールの曲をカバーしているアーティストは多いです。一種のミュージシャンズ・ミュージシャンですね。
曲と一体としての歌詞も含めた、彼の「歌」をリスペクトしているアーティストが多いのだと思いますね。
我々、日本人としてはダイレクトにその良さは分からないのですが。
さて、このアルバムのレコード音源はYouTube上では規制がかかっていて使えませんでした。
ただ、このアルバムの収録曲を演奏しているライブ音源はかなりありました。
J.J.ケイルは60年代の初めにオクラホマ州タルサからLAに出てきたものの、アーティストとしては鳴かず飛ばず。
この間に書きためた曲の詰まったデビュー・アルバムですから、彼としても思い入れのある曲が多いのでしょうね。
まずは、アルバムに先行してシングルとしてリリースされた"Crazy Mama"を聴いてみます。
独特のニュアンスのあるギターの音を出すボトルネック奏法ですね。
最初に中身がむき出しになったギターの裏側を見せていましたが、J.J.の使用しているギターは、彼が自分で改造したものらしいです。
このあたりにも彼のギターの独特の音の秘密があるのでしょうか。
ギターと言えば、 マーク・ノップラーはJ.J.ケイルのギターに影響を受けているということなんですが、実際に"Don't Go To Strangers"や"River Runs Deep"いう曲はダイアーストレイツそのものと言っていいくらい似ているので驚きました。曲作りでも影響を受けてるんですね。
マーク・ノップラーは前述のトリビュート・アルバムにも参加しています。
なぜ、J.J.ケイルは地味に聴こえるのかと考えたときに、先ほど触れたリズムボックスの件よりも、彼のつぶやくようなボーカル・スタイルが大きいですね。
同じようなボーカル・スタイルの人にボサノヴァの創始者のひとりジョアン・ジルベルトがいます。
そう思うと、ジョアンの傑作アルバム『三月の月』に感じられるものに近いものが、このアルバム『Naturally』にも感じられるような気がしてきました。
リズムボックスの使用もジョアン・ジルベルトの簡素で正確無比なギターのリズム(転調が多いので単調とは言えませんが)と同じような効果を持っているのかもしれません。
ボサノヴァとブルース、カントリー系のアーティストを比較するのは、ちょっと無理がありますかね(笑)
こちらは素人の撮ったものらしく、カメラワークが安定してませんが、J.J.の歌がいい味出しています。
音質も悪くありません。
2004年のライブから"Magnolia"
J.J.ケイルはこのとき66歳くらい。
ジイさんになったJ.J.はシブさに更に磨きがかかっているようですね。
YouTubeでこの曲を検索したときに他のアーティストのカバーも聴いてみましたが、カントリー・ロックのポコのカバーは何とも美しい曲に仕上ってます。いやあ、ポコのアルバムも手に入れたいですねえ。
他にもベックがギター1本で弾き語りしているライブ映像もありました。
J.J.は色々なアーティストからリスペクトされてるんですね。
1970年にエリック・クラプトンがこの曲をレコーディングしなければ、J.J.ケイルは音楽業界から足を洗って、故郷のタルサに帰っていた筈です。もちろん、このアルバムも世に出ることはなかったでしょう。
ここはクラプトンにも敬意を表して、二人の共演ライブで"After Midnight"を聴いてみましょう。
「ソロ・アーティストとしてスタイル的に影響を受けたアーティストを一人挙げるなら、J.J.ケイルだ」
とエリック・クラプトンは語っています。
そう言えば、J.J.ケイルはレイドバックの元祖と言われていますが、70年代のクラプトンの音楽は『461 Ocean Boulevard』以降、レイドバックと呼ばれてましたね。
J.J.ケイルの人生に与えたクラプトンの影響も、物凄く大きいですね。
彼がいなければ、J.J.も音楽を続けて、生涯に14枚ものアルバムを残すことはなかった訳ですから。
お陰で我々もこうしてJ.J.ケイルの遺した音楽を聴くことができます。
J.J.に限らず、ボブ・マーレーなどクラプトンがスボットを当てて、広く世の中に知られることとなったルーツ系のアーティストは数多いです。
そういう意味でもエリック・クラプトンのルーツ・ミュージック界での功績は大きいですね。
このアルバムの中の代表的な作品を4曲、聴いてみましたが、他にもボーカルとギターのコール&レスポンスが渋い味を出している"Clyde" 、ホーン・セクションとピアノで軽くファンキーな雰囲気を出している"Nowhere To Run"などが、私的には気に入りました。
J.J.ケイルは2013年7月26日、心臓発作によりカリフォルニア州ラホヤの病院で死亡。
享年74歳