龍翁余話(834)「高崎山のサル」

 

5月連休明けの某日、翁、久しぶりに別府へ行った。別府市が1924年(大正13年)の市政施行から今年ちょうど100年の節目を迎えたので、面白い“記念行事”はないものだろうかと、車を走らせながら市内のあちこちに目をやったが「市政施行100年祭」をかき立てるムードは一向に感じられない。そこでまず市役所を訪れた。市庁舎の入り口には確かに「別府市政100周年」のビルボード。広報課を訪ねようとしたが、受付で貰った“市政100年記念行事”のチラシを見て「ああ、こんなものか」と興味を失い、広報課行きを諦めた。

  

               別府市役所の玄関           ラクテンチ      ケーブルカーから見る別府市街

 

「ああ、こんなものか」は失礼だが、将棋の藤井聡太(名人)×豊島將之(9段)による

「第82期名人戦・第4局」(5月18日・19日)、及び「別府市と将棋の100年パネル展」、「別府市長杯小中学生将棋大会」「外国人・初心者向け将棋教室」など、やたら“将棋”が多い。ほかに「グルメフェア」もあったが、翁は将棋もグルメもあまり興味がないので、「別府市政100周年」の取材を断念、ドライブの目的を(急遽)隣接する『高崎山のサル』へと切り替えた――その前に『ラクテンチ』に立ち寄った。約35年ぶりである。

 

『ラクテンチ』(楽天地)は別府温泉中心部の繁華街・流川通りの山側(立石山の中腹)にある九州最古の遊園地(1929年、昭和4年創業)。ラクテンチの下駅(雲泉駅)でチケット(入園券・ケーブルカー往復乗車券)大人1300円を買い、ケーブルカーへ。このケーブルカーの運用は遊園地創業と同時期だから95年の歴史がある。ラクテンチの上駅(乙原駅)までの長さ280mを5分かけて上がる。30度の急勾配、高所恐怖症の翁は足がムズムズ、眼下の線路は見られず遠くの別府市街や別府湾を眺めるだけ。しかし、それは実にナイス・ビュー(いい眺め)だった。(ちょっと宣伝臭くなるが)遊園地には現在“フラワー観覧車”、“ジェットコースター”、”モノレール“、”ゴーカート“のほか“ダイバーシューター”(水鉄砲で的を当てる)、“ウオーターパレード”(花畑の周りを水の流れに乗って)、“ジャンプライド”(本物のバイクでジャンプ)、“ジュラシックランド”(ジープで恐竜の世界へ)、“空飛ぶそうさん”(模型のぞうに乗って空を舞う)、アストロファイター“(飛行機の操縦を疑似体験)、”スーパーチェア“(空中ブランコ)、そして名物”アヒルのレース“、勿論、温泉の都・別府だから温泉や足湯も楽しめる。ほかに休憩所や研修所、食事処も・・・

    

        エサ撒き    中央の切株の上のサルがB群のリーダー     白い手のサル

 

さて――別府市と大分市の市境に跨る標高628mの高崎山、その麓に野生のニホンザルを間近に観ることが出来る有名な自然動物園がある。チケット(大人520円+モノレール料金110円)を買ってモノレール(“さるっこレール”とも言う)に乗り、約4分で“サルの寄せ場”に着く。降りると、子ザルたちが観光客の足元までやって来て観光客を出迎える。あまり動物好きではない翁ですら、つい顔がほころぶ。“寄せ場”では、女性スタッフがマイクで説明に忙しい。聞いていると「当初、サルの軍団は1000頭を超えるA群だけだったが1959年(昭和34年)に分裂してB群が誕生、1964年(昭和39年)にA群が再び分裂してC群が出来た。そしてA群は2002年(平成14年)に遂に姿を消し、現在はB群とC群になった。今年の4月現在ではB群643頭、C群279頭、合計922頭が“寄せ場”に出現している。“寄せ場”に集まるサルたちは、普段は比較的少ないが、“エサ撒き時間”になると、どこからともなく大勢が“寄せ場”に姿を現す。間もなく“エサ撒き時間”で~す」・・・なるほど、集まって来るわ、来るわ。エサ撒きのお兄さんがサルならぬザルから小麦を掴み、それをばら撒くと集まって来たサルたちは懸命に小麦を拾う。小麦のエサを撒くのは30分間隔、1日に午前と午後の1回ずつ芋のエサを撒く。おおむね午前がC群、午後がB群だそうだ。翁が訪問したのは午後だから、目の前に群がっているサルたちはB群だろう。サルたちがエサを漁っている間、中央の切株の上に座ったままでいるリーダー(オオムギ)は悠然としていて、まさに”ボスザル“の名にふさわしい貫禄。

 

ところで、エサ・タイムの後、たまたま翁の近くで毛づくろい(ノミ取り?)をしているサル親子?を見たら、何と手の白い親ザルがいた。翁は初めて見た。そこで説明嬢に訊いたら「白化(はくか)と呼ばれ、色素が抜けてその部分が白くなる現象で、多分遺伝でしょう」とのこと。”白化“のサルは手ばかりではなく背中にも現れているサルもいるとかで「高崎山では非常に珍しい現象」だそうだ。

 

山中をドライブしている時に遭遇する猿どもは粗暴で憎たらしいが『高崎山のサル』は顔を近づけたり触ろうとしない限りおとなしいサルたちばかり。特に子ザルは可愛らしい。翁の近くにいた老夫婦の奥さんが呟いた「サルを飼いたいわ」。確かにここのサルは、人に優しさを抱かせる“ペットにしたいサル”だった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。